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ナイトオブブルーローズ  作者: 陽山純樹
第4話

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動き出す人物

 三枝と祖々江の能力は推して知るべしといったものであり、正直達樹の手におえるレベルではない。だがそれでも、パートナーとしては達樹が選ばれた――どこか奇妙だと胸中思ったりもする。


「実力だけで全てが決まるなら、こんなに面倒な話にはなっていないと思うが」


 休憩時、達樹がその辺りについてなんとなく言及すると、祖々江から返答がやってきた。


「そっちは明確な戦闘経験……しかも立栄さんを支えていたという実績があるわけだからな。それを崩すのは、どんな魔法使いでも難しいだろう」

「実績、か」

「大切にするんだな。ま、もちろん実力はあった方がいいけどさ」


 わかっている――達樹は胸中思う。


 増幅器の効果などにより、確かに以前よりも立ち回れるようになっている。元々魔力が少ないにしろ魔法使いであったため、増幅器を使用して魔法を扱う人物などと比べれば、達樹は相当な実力を持っている。

 だが、今訓練の相手をしているのは光陣学園でもトップに立つ面々。そうした人物達と比較されればどうしても劣る。それは青井の増幅器により改善しても同じだ。


(ま、だからといって譲る気はないけどさ)


 達樹は胸中呟きつつ、自身の弱気な考えを振り払った。

 今は試験のために備えるだけ――そう改めて誓い直していた時、手嶋がやってきた。


「調子はどう?」

「……苦労していますよ」


 達樹の言葉に手嶋は笑みを浮かべ肩をすくめる。


「ちょっと話いいかしら?」

「構いませんけど……えっと――」

「俺たちのことは気にするな」


 祖々江が言う。彼は述べた後三枝に視線を移し、


「少しばかりやろうじゃないか」

「構いませんよ。私もそちらの能力に興味がありましたし」


 火花すら散るような雰囲気。すると手嶋は苦笑し、


「なんだか、良きライバルといった感じねえ……二人にも興味あるけど、今度にするわ」


 彼女にとってみれば、祖々江や三枝のような魔法使いこそ興味の対象だろう。達樹はその反応に嘆息しつつも彼女と共に場所を移動。自販機のある休憩スペースに足を運ぶ。


「さて、研究所の話だけど」

「はい」

「一応連絡はとれたわ。いつ来ても構わないと言っていたけど」


 とはいえ、試験がある以上今週は無理だろう。達樹は少しばかり思考し、


「また時間が空いたら連絡してもいいですか?」

「構わないわ。忙しくなるものね」


 達樹は頷く。すると手嶋は笑い、


「私としても、立栄さんの活動は重要なものと考えているし、智美が日頃語っていることもあってパートナーが必要だと思っている。頑張って」

「ありがとうございます」


 頭を下げると彼女は再度笑みを浮かべた後、立ち去ろうとする。


「……ああ、そういえば」


 そこで、何かを思い出したかのように立ち止まる。


「一つ……このことって、君だけが関わっているのよね?」

「え? それはそうですけど」

「笹原さんとかは?」

「俺の姉の話なので……」

「それもそうか。ごめんなさいね、なんだか詮索してしまって」

「いえ、その……ありがとうございました」


 再度礼を述べると彼女は「平気」と返答し、その場を去った。


「……さて」


 研究所に赴いて解決するのかは疑問だが、とりあえず浮かんでいた疑問の対応策でもあるため、棚上げしようと考える。


「訓練を再開しないと」


 そう呟き歩き出そうとした時、休憩スペースに現れる人物――菜々子だった。


「あれ? 菜々子。どうしたんだ?」

「手嶋さんは、もう帰ったんですか?」

「ああ、うん。俺に話があったみたいだ」

「話……それ、試験に関することですか?」


 一瞬誤魔化そうかと思った達樹だったが、咄嗟に言葉が出なかった。すると菜々子が訝しげな視線を送る。


「どうしましたか?」

「ああ、えっと。ごめん。実はあの人、俺の姉の知り合いで」

「お姉さん、ですか」

「ああ……もう亡くなっているんだけどさ」


 聞いてはいけない話題だと思ったか、菜々子は途端に口をつぐんだ。それに達樹は手を小さく振り、


「気を遣わなくてもいいよ……実は手嶋さんが姉と知り合いだとわかって、ちょっと姉が勤めていた研究所とかを見て回りたいなと思っただけで」

「それを頼んだと?」

「そんなところ」

「……研究所関連で、何かあったのですか?」

「研究の事故だって聞いているよ」

「……それ、いつぐらいの話ですか?」

「俺が中学時代の時の話だけど……?」


 達樹の言葉に、菜々子は沈黙する。


「……どうした?」


 訝しげに問う達樹。すると菜々子はすぐさま我に返り、


「あ、申し訳ありません……そうなんですか。すみません。詮索してしまって」

「いや、大丈夫だよ。あ、それより訓練を再開しないと」

「そうですね」


 同意した菜々子と共に達樹は動き出す。だが達樹は道中疑問に思う。

 何か――反応が変だった。


(姉のことを聞いたのは初めてだから、変に感じたというのはおかしいか)


 達樹は多少気になったが、これ以上言及はせず訓練を再開することにした。



 * * *



 ――やがて達樹の訓練が終わり、達樹は先に帰った。一方菜々子は訓練場の外に出て寒空の下を歩きながら、ふと考える。


「達樹の話……」


 もし研究施設で事故が起きたら、大きく新聞でも扱われる。といっても全国新聞ではなく、この光陣市のみで扱われている魔法に関する新聞の話だが。

 菜々子もそれについてはかかさず読んでいる。それも中学に入って以降ずっと。その中でもし死亡事故など起きれば、報道されていてもおかしくない。


(中学の時、そういったニュースは……)


 無論実際に存在していて単に憶えていないだけという可能性も十分に存在する。けれど菜々子の心にどこまでも引っ掛かる。


「どうしましたか?」


 ふいに、三枝の声。視線を転じると横にいつのまにか三枝が立っていた。


「帰りにお茶でもと思っていたのですが……そんな様子ではなさそうですね」

「……三枝さん」

「何?」


 聞き返す彼女――菜々子はどこまでも感じる疑問に対し、言及した。


「少し――調べたいことが。協力してもらえませんか?」


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