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ナイトオブブルーローズ  作者: 陽山純樹
第2話

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32/106

不審な団体

 ――野乃が持つ『夢見』は、平たく言ってしまえばサイコメトリーの一種であり、物などに残る記憶などを読み取ることができる。

 それが彼女の場合は眠っている時に発生する。仮眠やほんの僅かな時間による睡眠でも構わないのだが、より多くの情報を読み取るためには長い時間――少なくとも一時間くらいは必要とする。


 もっとも制約条件があり、眠る間ずっと対象の物と触れ続けなければならない――そのため動物など移動してしまう存在に対しては難しく、舞桜が持って来たような資料などを媒体するケースが大半であった。


「超能力、か……」


 舞桜は頬杖をつきながら呟く。魔法という存在が認知されて以後、彼女のような能力も魔法にくくられるケースが多くなったが、一般的には超能力ということで魔法と別に扱われそうな能力だ。


「とはいえ、果たして成功するのかな……」


 過去成果が無かったケースを思い起こし舞桜は呟く――


「お待たせー」


 と、そこで野乃が帰ってきた。壁掛け時計を確認すると、きっかり一時間。


「それなりに情報は拾い出したけど……」

「どんなことですか?」

「例えば――」


 野乃は少しばかり楽しそうに語る。


「菜々子ちゃんと一緒に行動を共にする男の子とか」

「……ただの友人です」


 達樹のことだと思い舞桜は応じる――ちなみに、菜々子のことを含め舞桜の身辺は、以前『夢見』を使ったことから彼女も把握している。とはいえ彼女の口ぶりから先の事件が菜々子の仕業だとはわかっていない様子。さすがに彼女の旦那も具体的な名前は出さないのだろう。


 舞桜も藪蛇になりかねないと思ったので言及を控えていると、さらに彼女から言葉が。


「そう? 友人? なんだか名前で呼び合っていたけど?」

「友人です」

「それは菜々子ちゃんの? それとも、あなたの?」

「……その話は今関係ないので、話を進めて下さい」


 そうは言ったものの、野乃は不満顔。なんとなく「能力を使ったのだから少しくらいは教えてもらってもいいじゃない」という抗議が視線で突き刺さる――


「……以前事件で関わり交流を持った人です」

「交流、ねえ」


 含みのある笑みを見せる。その辺りのくだりを知りたい様子だが――


「すいません、これ以上のことは警察の守秘義務もあるので」

「……なるほど、大きい事件絡みなのね。前研究所で発生した巨人騒ぎのことかな?」


(……旦那さん、喋らないでくださいよ)


 心の中で舞桜は抗議する――旦那も彼女の能力を頼っているのは間違いなさそうだ。


「その辺りの事情はまた今度お話しますので」


 舞桜はとりあえず話を進めるべく告げた――のだが、彼女の表情は変わらない。

 そして、両者の間に沈黙が生まれる。これには舞桜も観念し、


「……悪くは、思っていません」

「おお!」


 すると野乃は驚くような声を上げた。


「あの、あの人と関わろうとしなかった舞桜ちゃんが、とうとう男の子に恋を――!」

「そういう話ではないですから!」


 途端に叫ぶ舞桜。彼女がどう考えていたのか予想していたとはいえ、面と向かって言われてしまい、大声を上げてしまった。


「えー、そんな頑なに否定しなくてもいいじゃない」

「……怒ってもいいですか?」

「むー、わかったよ。とりあえず話を進めると、他には同じ部屋で複数の男子生徒が紙を囲んで話をしている姿。悪いけど内容はわからないわ」

「それ以前は?」

「そこからはかなり断片的で曖昧な内容だけど」


 ――彼女の『夢見』は明確な欠点がある。それは時間が経過した過去の記憶を読み取るのが難しいこと。古い出来事については、彼女の言う通り曖昧になっていく。


「そうね……誰かが狭い部屋で話をしている光景かな」

「その誰かというのはわかりますか?」

「顔とかはわからないわ。ごめんなさい。ただ一人は、白衣を着ている」


(後援会から押収した日誌にあった、研究者の女性か)


 ただ顔まで特定できないため、日誌に書いてあった事実が間違いないという証明にしかならない。


「あとは……うーん、ここからはさらに曖昧だけど、さらに同じ部屋で誰かが話をしている雰囲気」

「わかる情報はないですか?」

「その部屋が本とかプリンタ用紙の資料で埋め尽くされているくらいね……ん、ちょっと待って」


 と、野乃は舞桜を手で制し、眉根を寄せながら夢の内容を思い出そうとする。


「……そうね、話している片方が何だかガラの悪そうな雰囲気を持っているわ。後は……形はわからないけど、ピンバッチ、みたいな物をつけているかも」

「ピンバッチ?」

「ガラの悪そうな人は真正面から太陽の光を浴びていて、その人物が動く度に胸元がピカピカと光が反射するの。名札とかよりも小さい感じだから、たぶんピンバッチかなあ、と――」


 その言葉を聞いて、舞桜の中に一つの可能性が浮かび上がった。


「あの、もしかして、蜂を象っていませんか?」

「蜂……? ああ、言われるとそれっぽいかもしれない」


 返答した野乃は、候補が浮かび上がったのかポンと手を叩いた。


「そうか、『キラービー』ね」

「……旦那さんに警察情報を言わないようきつく言っておいてください」

「不良集団の名前くらいは耳に入るわよ」

「こんな所に住んでいる方が、不良の組織名を耳に入れるとは思えませんけど……」


 意見してみたが、彼女は肩をすくめるだけ。態度を見て舞桜はそれ以上の言及をやめ、彼女に改めて礼を述べる。


「ありがとうございます。とりあえず調べてみることにします」

「わかった……けど、不良集団よ?」

「平気です」

「舞桜ちゃんなら戦っても大丈夫だと思うけど……とにかく、気を付けてね」

「はい。それで、今回のお礼ですけど……」

「気になった男の子のことを教えて欲しいかな」


 ニコニコと野乃は語る――舞桜は僅かに呻いたが、やがて観念し、


「……また今度でいいですか?」

「うん。暇になったら教えてね」

「はい、わかりました」

 嫌な約束をしてしまった――などと思いつつ、舞桜は再度礼を言い、家を後にした。



 * * *



 達樹たちが次に訪れたのは、郊外に位置する廃校だった。


「ここ、ですか?」

「ええ」


 菜々子の問い掛けに塚町は首肯する。

 達樹は門にある名称を確認。どうやら中学校だったらしい。


「光陣学園ができる前からある中学校だったのだけど、老朽化に伴い別の公立中学と併合ということになって使われなくなった……これが、二年くらい前の話ね」

「二年……にしては、ずいぶんと荒れている気がするな」


 達樹は感想を漏らしつつ門付近から概観を確認。正面には昇降口があり扉が開け放たれているのが見えているのだが、所々ガラスが割れている。さらにヒビ割れたコンクリートの道の隙間から雑草が伸び放題で、さらにはコンクリートがめくれているような場所も見受けられる。


「さっきも言った通り、ここは『キラービー』がたむろしている場所の一つ。で、魔法使いと戦った、なんて噂もあるくらい。荒れていても仕方ないわよ」

「……彼らが、魔法使いと?」


 菜々子の問い掛けに、塚町は肩をすくめた。


「真相の程はわからない、ただの噂話よ……けど、壁面なんかを見ると、あながち嘘じゃないかもしれないわね」


 彼女の言葉に合わせ達樹は建物の壁を見る――確かに、コンクリートが破砕し穴ができているような箇所がある。魔法使いかどうかわからないが、ここで戦闘行為が行われたのは確かだろう。


「で、気配だけど……どうも、校舎の中にいるのは間違いないわね」


 塚町はなおも語る――達樹が菜々子へ視線を送ると、同様の見解なのか小さく頷いていた。


「……塚町さん、どうしますか?」

「当然、進むわよ。直に日が暮れるし、さっさと片付けましょう」


 強気な発言と共に、彼女は歩き出す。達樹と菜々子は僅かに逡巡したが――さすがに孤立させるわけにもいかないため、彼女に追随した。


 昇降口から入り、下駄箱を越え廊下へ。道は左右に伸びており、真正面にはコンクリートの中庭が存在していた。

 達樹は左右を見回す。左に進むと真正面にグラウンドらしき場所が目に入った。右はまっすぐ進むとT字路に到達している。


「左へ」


 塚町は端的に告げ一人で歩き出す。慌てて追う達樹と菜々子。靴音が嫌に響き、これは相手にもバレるだろうと達樹は思い――


「誰だ? お前ら」


 後方から声が飛んできた。即座に振り返る達樹。そこには学ランを着た同年代の男子学生が一人。スポーツ刈りに加え睨むような視線は、内気な人物であるなら身動きが取れなくなること請け合いだ。


「ああ、丁度よかった」


 と、塚町が歩み出て男性へ告げる。


「バッジは身に着けているわね。悪いけど、あなた達に話があるのよ」

「……お前ら、光陣学園の人間だな? 何の用だ?」


 警戒を露わにして問う男子。対する塚町はそれに臆さず口を開く。


「あなた達が裏で色々とやっているのは把握済みよ。よって、その辺の情報を吐き出してもらうわ」


 ――言葉の直後、男子の顔がかなり険しくなる。何が言いたいのかは察した様子だった。


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