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ナイトオブブルーローズ  作者: 陽山純樹
第2話

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出てきた資料

「その……研究室の資料をお借りして、自分達で色々と実験を重ねたもので」

「それって、規約違反じゃないの?」


 塚町の問いに、賀川は押し黙る。


「学生級の人達は、基本実験に関することは報告しろと言われているはず。なおかつ、資料の標榜……これは、規約違反よね?」

「それ、は……」


(別のことが炙り出されてきたな)


 達樹は何の感慨も無く二人のやり取りを眺める。塚町は一気に畳み掛ける雰囲気に対し、賀川はどう取り繕うか必死に考えている様子。


「……親衛隊の件とは別に、私も研究員と多少ながら接する身だし、ルール違反は許せないわね」

「そ、それは……」


 口ごもる彼に、塚町は苛立ったのか腕を組み数度靴で床を叩く。


「そうね、じゃあこうしましょう。あなた達が独自研究した資料見せて頂戴」

「……え?」

「ほら、独自と言っても単なる教科書の真似事かもしれないでしょ? それだって十分に規約違反だと思うけど、完全な独自研究とかと比べれば大分マシ。だから内容を見て、どうするか判断するわ」


(……まあ、時間も掛けてられないしそういう結論になるよな)


 達樹としてはなんとなく予測していたので、この状況下でも黙ったまま。そこでふと菜々子の様子を窺う。彼女の表情は険しいもの。


「そ、れは……」


 賀川は、視線を逸らしつばを飲み込む。


「……で、どうする?」


 塚町がとどめと言わんばかりに問う。声音は、間違いなく何かをやっているという確信を秘めていた。

 ――直後、突如賀川が動く。達樹たちに背を向け、資料の置いてある場所へ駆け寄ろうとした。


「はい、待った」


 けれど、塚町に首根っこを掴まれ、それ以上進まなくなる。


「二人とも、中に入って扉を閉めて」

「わかった」


 達樹が指示に応じると、菜々子が先んじて入った。達樹が続いて入り扉を閉めた時、賀川の叫びが室内を満たした。


「お、俺は……何もやってない!」

「見るからに怪しい行動をしておいて、その言い草はないわよね」


 対する塚町は冷淡そのもの。そして掴んだ襟を一切離さず、片腕一本で逃げようとする賀川を抑えている。魔力強化の賜物だ。


「さて、笹原さん。私は手が塞がっているから、代わりに調べてもらえない?」

「はい」


 頷いた菜々子はすぐさま資料の傍に近づき、調べ始める。途端、賀川が何やら喚き出すが、塚町が空いている手で口を塞いだ。


「……これは」


 そうした中、菜々子は呻く。


「見覚えがあります……昨日、後援会が借りるアパートで見た資料と同じ……」

「何だって?」


 達樹は驚き隣へ行き、覗き見る。確かにそれは、昨日アパートの一室で発見した魔法陣の絵。


「写真があるので確認しましょう」


 菜々子は言うと携帯電話を取り出し、昨日記録した魔法陣のデータを表示させる。それとここで発見された紙を交互に見比べ――やがて、菜々子は断定した。


「間違い、ありません」

「後援会絡みとあっては良い話じゃなさそうね」


 塚町は述べると、首根っこを掴んだまま賀川へ問う。


「どういうことか、説明してもらえる?」


 ――その言葉の瞬間、彼は突如ジタバタするのをやめた。どうやら、あきらめたらしい。


「その……俺は、ここで預かってくれって言われて」

「そんな嘘通じると思っているの?」

「本当なんだよ!」


 塚町の声に、賀川は絶叫した。


「突然部室に現れて、資料を押し付けられたんだ! 相手はいかつい奴で拒否すれば殴られそうだったから、抵抗できなかった……そして目を通して、全容を理解できないまでもヤバイものだってのはわかっていた……」

「だ、そうだけど」


 塚町が達樹たちへ話を向ける。


「本当かどうか疑わしいけど、二人は信じる?」

「……何か、それを証明する様なものはないのか?」


 達樹が間を置いて問う。すると賀川は口をつぐんだ。無い、と表情で語っている。


「……でも、本当に俺は知らない」

「なら、その人の特徴とかを教えてもらえないか?」

「……見たこともない人だったよ。けど制服を着ていたから、学園内にはいると思う……あ」


 そこで、彼は声を上げた。何か思い出したようだ。


「そうだ、一つだけ……あいつは、変なバッジをつけていた」

「バッジ?」

「ああ、そうだ……確か、蜂を象ったピンバッチ――」

「……もしかして『キラービー』のことですか?」


 それに菜々子が反応する。賀川は首を傾げたが、彼女はどこか確信をもったのか塚町へ視線を送った。


「どうも、きな臭い雰囲気が漂いますね」

「そんなの、始めからじゃない」


 塚町は言うと、賀川から手を離した。直後、彼は部屋の隅へ転がるように移動し、達樹たちへ恐怖の眼差しを向ける。


「お、俺が知っているのは……このくらいしかないぞ」

「どうする? 彼の言葉を信用する?」

「……資料は押収して『キラービー』のことを調べましょう」


 菜々子からの提案。それに塚町は「そうね」と同意し、改めて賀川へ告げた。


「悪いけど、資料はこちらで預からせてもらうわ。それと、もし当該の人物が来たなら親衛隊の塚町に奪われたと言えばいいから」

「で、ですけど……」

「あと、このことは他言無用。もしあなたが『キラービー』と連絡をとり、それが判明すれば……わかるわよね?」


 冷たい眼差しが賀川を射抜く。彼はゴクリとつばを飲み込み深く頷いた。


「よし、それじゃあ笹原さん。わかるだけの資料を集めてもらえない?」

「はい」


 菜々子は承諾し資料を漁り始める。達樹はその光景や怯える賀川を見る等して待機し――やがて、


「これで、全部でしょうか」

「なら、出るわよ……悪いけど、さっき言った通りしなさいよ」


 塚町は一方的に言い放ち、先んじて外に出た。達樹はその後に続き、外に出た時彼女に問い掛ける。


「なあ、さっき言っていた――」

「『キラービー』のこと? 知らないの?」

「あ、ああ。まあ」

「関わらない限りは、知らずに終わるでしょうね」


 これは菜々子の発言。達樹が目を向けると、歩きながら資料を確認する姿があった。


「有体言えば、市内にいる不良集団です」

「不良……?」

「もっとも、大半は光陣学園ではなく外部の人達ですけど」

「つまり、学園内でくすぶっている人とか、外の奴らが魔法使いとして風切って歩いている私達を見てムカつき、対抗しようとしているというわけよ」


 塚町の意見。達樹としてはどうにも理解できず首を傾げた。


「対抗……?」

「要はやっかみよ。魔法を使えることでもてはやされる私達に対し、嫌悪を抱いているというわけ」

「そんなのがいるのか……」

「ちなみに彼らの大半は市外の人間で、純粋な魔法使いは少なく増幅器使いが多いわね」


 言いながら、塚町はチラリと達樹を見る。


「同じ使い手として、意見を訊こうかな」

「いや……俺はどちらかというと例外みたいなものだから」

「そう……ならいいわ」


 塚町は切って捨てると同時に――妖しい笑みを、浮かべた。


「まあ、どういう経緯であれ『キラービー』が資料を持っていたなら、行ってみるのが良いわね。敵がはっきりとわかってやりやすくなったわ」

「今から向かうんですか?」


 菜々子が驚き問い掛ける。調査があっという間に済んだことで、日の入りまで余裕がある。とはいえ、ここからさらに活動するには時間が足らない可能性が高い。


「ええ。善は急げと言うでしょう?」

「しかし、当てはあるんですか?」

「立栄さんの害を及ぼす可能性があるとして、親衛隊の調査で目星はついている。私の頭の中に入っているから、今すぐにでも向かえるわよ」


 そう語る塚町は、笑みを消し菜々子へ視線を送る。


「そうだ……資料だけど、一時的に私が預かっておくわ。本当はしかるべき研究機関で調べてもらうのが良いんでしょうけど、ひとまず『キラービー』の調査を優先させましょう」

「わかりました。どうぞ」


 菜々子はあっさりと資料を差し出す。それに塚町は多少驚いた様子。


「あっさりと渡してくれるのね」

「私は持っていてもかさばるだけなので」

「あ、そう」


 彼女は資料を受け取り、軽く腕を振る。すると魔力が生じ、受け取った資料の束が突如、光に包まれ――やがて、ピンポン玉くらいの大きさを持った球体に変わる。


「圧縮魔法、か」


 達樹は呟く。圧縮――物質に対し魔力を加えることで小さくできるのだが、難易度は結構高く、学生でも使える人間は少ない。


「さて、行くわよ」


 気を取り直し、塚町は言うと進んで歩き出す。達樹はこのまま向かって大丈夫なのかと多少ながら不安に思ったのだが――

 彼女と同様、進むと決意したらしき菜々子の表情を見て、帰るのはあきらめた。


(……立栄さんのため、か)


 達樹は胸中呟く。果たして今から行われることが本当に彼女のためになるのか――昨日の激昂ぶりから考えれば、非難があってもおかしくない。

 けれど――達樹も彼女達と同様、行くべきではと思った。菜々子たちを止めることはできないのは間違いないため、二人の支援をするのが得策では。


(……二人がいれば、大丈夫だよな)


 何せ、学園でもトップクラスの実力者――加えて相手は不良集団とはいえ、魔法使いではなく増幅器使いが多い――

 そこでふと、以前の事件を思い出す。あの時も不良らしき人物が動いていた。それが『キラービー』なのかどうかわからないが、ああした人物達が動いているのは事実。


 途端に、多少ながら不安になる。この案件も、以前の事件と同様大事となるのか。


(何か動いているなら、尻尾くらいは掴まないといけないかもしれないな)


 そんな風に達樹は最終結論を導いた。そして黙って進む二人の後を、どこまで追い続けた。


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