表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ナイトオブブルーローズ  作者: 陽山純樹
第2話

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/106

部活訪問

「そう、順調のようね」


 乱雑に散らかった部屋で電話を受けた白衣の女性は、にこやかに電話口の相手に告げる。


「けど、作戦は一度きりしか使えないから気を付けなさい……何より、それを行えばどうなるか……」


 そう告げた女性は途端に、苦笑した。電話の向こうにいる相手が、当然だと憤慨するような声音を放ったためだ。


「ま、そっちのことだから心配していないわよ……ところで、約束は守りなさいよ?」


 確認の問い。それに電話口の相手は応じて見せ、女性は笑った。喜んでいるらしい。


「ええ、それじゃあ頑張って」


 言うと彼女は通話を切る。その顔には、笑みが張り付いていた。


「ようやく、といった感じねえ……さて、どういう展開になるか楽しみだわ」


 呟きつつも――自分がその場に行けないという事実を少しばかり残念に思う。


「ようやく本気を出すかもしれないのに……直接見れないのは至極残念。ま、基本あの子達の援護をすることはできない以上、仕方ないけど」


 そんな風に言葉を漏らしつつ――彼女の笑みが少し変わる。傍から見れば表情は変わっていない。しかし、彼女を見知った者ならば怪しげな、謀略的な笑みに変わっていると思ったことだろう。


「さあて、ここからが本番ね……彼女のために動いている子達は、どう動くつもりかな?」


 最後にそう呟き彼女は想像する。そして後の報告に強い期待を抱き、待ちわびるように天井を見上げた――



 * * *



 授業が終わり空が少しずつ茜色になりつつある時間。先んじて達樹が集合場所に辿り着き、遅れて菜々子と塚町が姿を現した。


「で、学園周辺を調べ回るのか?」

「ええ」


 達樹の質問に、塚町はすかさず頷く。


「とはいっても、破棄された魔法の研究なんて大っぴらにやっているはずもない。まずは、怪しそうな場所から調べることにする」

「部活動をしている所とかですか?」


 菜々子が予測できたのか問う。それに塚町は「ええ」と応じた。


「特に研究関係の部活をしているのなら調べる価値はある……さすがにテニス部がそんな真似をしているとは思えないし、今日はひとまず文科系を当たることにしよう」

「口実は?」


 今度は達樹。それに塚町は見返しながら口を開く。


「口実?」

「敵だって何か探りを入れているのがわかれは引っ込むんじゃないか?」

「そんなことを気に掛ける必要はないわよ。そもそも、彼らは既に警戒しているだろうし」

「は?」


 達樹は理解できず聞き返す。それに塚町はため息をついた。


「良く考えればわかるでしょう? あなた達は先日騒動を巻き起こし、廃棄された研究であると警察に知れ渡ってしまった。相手がどんな人物達だとしても、気付いている可能性は非常に高い」

「……そうだとしたら、相手だってボロは出さないんじゃないか?」

「昨日の今日だし、相手も資料なんかを取りまとめてない可能性がある。その辺りに気付くかどうかは、私達の力量にかかっているわね」


 塚町はそこまで言うと、小さく肩をすくめた。


「ま、そんな風に色々と言うことはできるけど、あくまで噂話。親衛隊の絡みでちょっと調べさせてもらうくらいの理由でいいんじゃない?」

「……そうだな」


 あくまで噂――根拠なき情報から調べるわけだから、そう肩に力を入れる必要はないかもしれない。


「名目上は立栄さんに迷惑を掛けた人間がいるため、という感じにしておきましょう。笹原さんもそれでいい?」

「構いません」


 即答する菜々子。顔はやや硬く、それを見た塚町は肩をすくめた。


「そういった表情はあまり見せないようにしてよ」

「……はい」


 菜々子は返事をした後、改めて塚町へ言った。


「では、行きましょう」

「ええ。まずはクラブハウスね」


 そう語り塚町は達樹たちを先導し始める。それに追随しつつ、達樹はクラブハウスの場所を思い浮かべた。

 光陣学園の高等部が保有するグラウンドは学園から見て西側に存在している。その近くにクラブハウスはある。運動部と文科系の部活が一緒となっているのが特徴で、基本的にどんな部活でもその建物を中心にして活動している。


「一日で見て回るのは難しいかもしれないわね」


 歩きながら、塚町は述べる。達樹は内心同意しつつ、この後の展開を想像する。

 噂は噂なので、何もない可能性の方が高い。しかしもし、昨日捕まった後援会のメンバーと関係があるとしたら――


「戦闘の覚悟はしておいた方がいいか?」

「向こうだって学園内でどうにかするつもりなんてないだろうし、大丈夫でしょう」


 達樹の質問に塚町が答える。それに菜々子も賛同するのか、


「学園内で無茶を起こせば自殺行為ですしね」

「そういうことよ……さて、着いたわ」


 塚町が呟いた時、当該の建物が視界に入った。


 入り口にはジャージ姿の運動部員の他、荷物を小脇に抱え中に入る制服姿の人物もいる。そして達樹は建物を見上げた。クラブハウスというものに今まで縁が無かった達樹は、改めてそれを見て僅かながら驚いた。

 建物は三階建てで、入口付近から見える窓には、部活動の準備を進めている生徒の姿が見える。一部屋に窓は一つだろうと達樹は予想しつつ、三階建ての建物を見てこれだけ部活の種類があったのかと、なんだか感心してしまう。


「文科系の部活を集中的に見るよ」


 塚町は述べると先んじて中に入る。その後を菜々子が歩き、彼女に追随し達樹が入る。中は白く塗装されたコンクリの壁が見え、冬場になれば寒そうな様相。


「目星はつけているんですか?」


 ふいに菜々子が問う。対する塚町は彼女を見返し、


「多少は……といっても、手掛かりは人の繋がりだけよ」

「繋がり?」


 菜々子が聞き返した時、塚町は立ち止まった。達樹が見ると、彼女の前に一枚の扉。

 確認すると、扉に『強化魔法研究会』という名称がある。


「ここは?」


 達樹が問う。けれど塚町は何も言わずその扉をノックした。


「はい」


 男性の声。達樹は注目し扉を注視し――開いた。

 奥から出てきたのは、細身かつ身長の低い眼鏡を掛けた男性。図書室で本を読む姿が似合いそうな人物。


「カガワ君よね?」


 塚町が早速問う。呼ばれた人物は、塚町を見て驚きながら頷いた。


「あ、はい……そうです」


 そして多少なりとも委縮する。態度から見て、塚町のことは知っているようだが――


「達樹」


 そこで菜々子が達樹の近くでささやくように口を開く。


「土岐さん同様、研究関連で優れた成績を収めている方です。名は思い出せませんが……苗字は、賀正の賀に三本の川という……賀川」

「親衛隊の用事で、あなたに用があるの」


 菜々子の解説を聞くと同時に、塚町が切り出した。それに彼――賀川はビクリと反応する。


「な、なんでしょうか……?」

「取って食べたりはしないわよ……少し中を改めさせてもらいたいのだけど、いい?」

「り、理由は?」


 オドオドした態度の賀川。隠したい物があるからそういう反応なのかもしれないし、親衛隊であるため委縮しているのかもしれない。


「立栄さんに関する件で少しね」


 端的に告げ、塚町は再度確認する。


「で、良いの?」

「……どう、ぞ」


 やや躊躇いながら賀川は返答。その様子はやはり塚町を意識しているものであり――


「怪しいですね」


 小声で、隣に立つ菜々子が呟いた。その間に塚町が部屋へと入っていく。


「二人はそこに立っていて」


 彼女は告げると、部屋をぐるりと見回す。すかさず賀川が彼女の隣に立ち、部室の中について説明を始めた。


「ずいぶんと警戒している様子」


 さらに菜々子は続ける。それに達樹は首を傾げ、一つ提言を行う。


「親衛隊の人が突然やって来て、萎縮しているんじゃないか?」

「それにしたって、警戒する気配が濃いですね。普通、突然来られたら困惑の方が強いはず。けれど、彼の場合は警戒が多い」

「……そんなこと、わかるのか?」

「魔法とかではなく、純粋に彼の態度を見た私の感想です」


 根拠がない――と言いたかったが、達樹は押し黙った。自身も彼女の言を否定する材料がないことに気付いたためだ。

 とはいえ塚町が部屋を見始めた直後から彼は態度を軟化させ、説明を行っている。その態度は怪しい点もなく、これは外れだなと達樹は考え始めた。


(ま……噂だし、いきなり当たるなんてこと、ないよな)


 そう胸中で呟いた――次の瞬間だった。


「ん?」


 突如、塚町が声を上げる。何事か見ると、視線の先は部屋奥かつ端。そこには資料の束が置かれていた。


「あれは?」

「あ、はい。研究資料です」


 賀川が答えた瞬間、塚町は足をそちらに向ける。すると彼は彼女を呼び止める。


「あの、独自研究資料もあるので、できれば……」

「見ないで欲しいと?」

「え、ええ……まあ」


 濁した言い方をする賀川。そう主張するのは無理からぬことだと思い、達樹は黙していたのだが――


「研究所との共同研究?」

「え?」

「独自といっても、この部活内の話じゃないでしょう? どこの研究室との合同?」


 話が変わった方向にいく。達樹としては首を傾げる他なく、事の推移を見守るしかない。

 どういう返答をするのか――達樹が黙ったまま二人の動向を眺めていると、やがて賀川が口を開いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ