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ナイトオブブルーローズ  作者: 陽山純樹
第2話

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部活による試技

 というわけで移動を開始。目指すは運動場とのことで、優矢含め羽間と土岐は前で雑談しながら達樹を先導している。


「……しかし、見た時は驚いたよ」


 そんな中、達樹は優矢達に気付かれないよう隣を歩く笹原に声を掛ける。


「まさか笹原さんがいるとは思わなかったから……何か理由が?」

「はい。初めは監視目的だったんですけど」

「監視?」


 聞き返すと、笹原は苦笑を交えながら話す。


「その、舞桜は色んな意味で目立つため、この部のように大小色んなファンクラブがあるわけです。私、ちょっと前まで青薔薇後援会に在籍していて……危ない行動をし始めたのをリークしたのも、私なんです」

「あ、そういうことか」


 舞桜に余計な負担をかけさせないようにするため、調査しているというわけだ。


「後援会の事例については親衛隊に連絡をして対処してもらいました。で、次に入ったのがここ……西白さんが来るとは、思いもしませんでしたが」

「そっか……友人のしでかしたこと、申し訳ない」


 言いながらちょっとだけ頭を下げる――しかし、笹原は首を左右に振った。


「その、役に立っている部分もありますし」

「役に立っている?」

「はい……実を言うと舞桜は警察に関わり、なおかつサポートが必要な場合以外、私に連絡を寄越さないのです。前の事件の時も最初聞かされておらず、警察の人から事情を訊き、舞桜に問い詰めてやっと聞き出したくらい……前の時は、忙しく私に話すことができなかった、とも言っていましたが」

「となると、笹原さんにも舞桜の行動はわからないと?」

「はい……ん?」


 と、笹原は言葉を止めた。達樹が反射的に首を傾げた瞬間、なぜそうした態度をしたか悟る。

 思わず、前の事件の時のように名前で彼女を呼んでしまった。


「あ、いや……」


 誤魔化そうとしたのだが、笹原はどこか納得したような表情を浮かべ、


「舞桜が呼びつけで、と話したんですね」


 意を介した言葉に対し、達樹は沈黙した。


「そうですか……ま、少なからず認めたということでしょうね」

「認めた、か」


 こんな落ちこぼれの魔法使いを――胸中を読んだか知らないが、笹原はふいに笑みを浮かべた。


「そう自分を貶める必要はありませんよ」

「え、そう見える?」

「はい。増幅器を使用していることで負い目を感じているように見受けられます」

「それは、まあ当然だと思うけど」


 言いながら、前を歩く三人を見据える。正面に立つ面々は間違いなく立派な魔法使いだ。学内で、自分の実力だけを用いて一定の評価を得ている人達――よくよく考えれば至極当然のことなのだが、達樹にはそれが眩しく思えてしまう。


「増幅器使用であっても、舞桜の命を助けたことに変わりはありませんし」

「……事情、聞いたのか?」

「少しだけ」


 どこか含んだ笑みを伴い答える。できれば詳細を聞きたかったが、そこに至り運動場に到着してしまった。


「よし、では端の方で」


 優矢はの隅を方を指す。達樹たちはただ流されるままに従い、やがて目的の場所へと到達する。

 そこにはずいぶんと錆びたベンチが一つ。達樹はそこへ鞄を置いた後、


「格好はこのままでいいのか?」


 優矢へ質問を行う。彼は「ああ」と言いつつ、


「じゃあ、そこに立ってくれ」


 指示され、達樹は制服姿のまま所定の位置に着く。

 そして真正面に、なぜか羽間がやってくる。


「ん?」

「彼とスパーリングだ」


 優矢が端的に語る。達樹は流されるまま「わかった」と了承し、


「羽間、用意はいいか?」

「いいよ」


 彼が答えた瞬間、優矢は二人に笑みを浮かべた後、


「では、始め」


 と、唐突に告げ――羽間が跳んだ。


「っ!」


 達樹は呻きながら後方に下がりつつ、腕をかざす。同時に増幅器――四肢に着けられた道具により、魔力を体の外に出す。


「へえ……」


 途端に、土岐による感嘆の声。達樹はそれを耳にしながら、羽間が放った拳を自動迎撃機能で弾いた。

 その瞬間、さらなる魔力が羽間の体から生じる。こちらの手合いを見て、出力を上げたらしい。


(彼は、俺と同じような能力を使うらしいな……)


 そして達樹は胸中で呟き――彼に応じるように魔力を加え、拳を振った。

 次の攻防で先手を打ったのは達樹。真正面から放った拳を羽間は後方に下がりながら上手に受け流し、反撃に転じようとする。


 しかし達樹は追撃を加えた。今度は拳ではなく前蹴り。対する羽間は攻撃を見極め両腕をクロスさせ攻撃を防いだ。

 さらに彼は数歩後退し、達樹と距離を取る。


「やるね」


 羽間の声。達樹は「どうも」と答えつつ、目の前の相手を見据える。

 同じような能力。こういう場合達樹としては非常にやりにくい。似た者同士ということは能力の意表をつくなどという行為も難しい上、力勝負になりやすい。


 理解すると、達樹はこの戦いが相当不利であると悟る。



(相手の攻撃力がどの程度かわからないけど、少なくとも俺よりは上だろうし)


 増幅器を身に着けている自分よりは確実に上――理解と同時に羽間が仕掛ける。


 今度は達樹が防戦に回る番だった。まず右腕から放たれた手刀を避けると、今度来た左手の突きを自動迎撃で弾きながらかわす。

 さらに狭間は左足で足刀を放つが、それを紙一重で横に避けた。


「速い――!」


 羽間の驚嘆する声。達樹は心の中でいっぱいいっぱいだと思いつつも反撃を試みる。蹴りを放ち隙のできた狭間に向かって、魔力を収束した右腕を放つ。

 対する羽間は体勢を戻しながら防ぐ。全力で放った達樹の一撃を、いとも容易く彼は叩き落した。


(やはり、力は相手の方が上か)


 達樹は即断しつつ後退しようとする。だが今度は羽間が追いすがり、さらなる手刀が繰り出された。

 まず最初の攻撃を達樹は捌いて見せた。しかし二撃目は威力を完全に殺せず、腕に僅かな痛みが走る。


(出力も大きい……!)


 攻撃を弾いただけ結果がこれ――もし直撃すれば一撃KOかもしれない。


(前の戦いの時とは大違いだな……!)


 同時に達樹は自嘲めいた考えを抱く。舞桜と関わったあの事件で、自分は目の前の彼より何倍も強い敵と戦ったはず。しかし、やはりあの時とは異なり打つ手がないように思えた。


(前みたいな力を引き出しさえすれば勝てるだろうけど……)


 あの最後の巨人を倒した力を――けれど今の達樹には引き出せず、思考する間にも状況が悪くなっていく。


「はっ!」


 羽間が短く声を発しながら拳を放つ。それをからくも避けた達樹だったが、後続からやってきた攻撃に対し回避できず、ガードした。


「ぐっ!」


 拳を腕で受けた直後、またも痛み。


(これ以上受け続けたら、窮地に陥るだろうな……)


 もう余裕はない。しかし痛みにより動きの鈍った状況で、反撃を繰り出しても間違いなくかわされ――間違いなくカウンターが来る。

 羽間の拳がさらに繰り出される。達樹は今度こそ万事休すかと思いつつも、避けられず全力で防ぎにかかる。


 直撃する――達樹が奥歯を噛み締めた、その時。


「そこまでよ」


 聞き慣れない、新たな声。途端に羽間の拳がピタリと止まった。

 達樹は即座に振り向く。そこには見慣れない女子が立っていた。


「応援団とやらが何やら張り切っていると聞いて、駆けつけてみたはいいけれど……ずいぶんと物騒なことをやっているのね?」


 問う彼女。腰まで届く、くすんだ金髪を持つその女子は、腕を組みながら応援団メンバー全員を見下すように視線を送っていた。


「……どうもツカマチさん。こんなところまでわざわざ確認ですか?」


 彼女に応じたのは優矢。対する彼女は「ええ」と答えた後、悠然と語り始めた。


「親衛隊として、多少なりとも神経を尖らせているからね。後援会の、二の舞にならないように」


 親衛隊――その言葉で彼女が親衛隊に所属する人物であるのはわかった。


「それはどうも、しかし今回は魔法の研究ということでやっているだけです――」

「どうかしら」


 飄々と答える優矢に対し、彼女は疑わしげに応じる。


「一応言っておくけど、後援会の件があってあなた達のような訓練については、かなり気を張っているから。もし変な動きをしたら、容赦しないわよ」


(……舞桜を一瞥しただけでも因縁つけられそうな雰囲気だな)


 達樹はそんな感想を胸中で漏らしつつ、事の推移を見守る。


「わかっていますよ」


 優矢は彼女に対しにっこりとしながら答えた。達樹自身胡散臭い顔だなと思ったのだが、彼女はそれによって気勢が削がれたのか、


「……気を付けなさいよ」 


 そう言い残し、彼女はあっさりと立ち去った。


「……ふむ」


 そして彼女が遠ざかっていく中、優矢が口元に手を当て呟く。


「結構警戒しているようだな。しばらくは控えた方がよさそうだ」

「みたいですね」


 彼の隣にいる土岐が応じる。達樹もまた頷き笹原を見ると、なんだか苦笑している彼女がいた。

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