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ナイトオブブルーローズ  作者: 陽山純樹
第2話

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19/106

友人からの勧誘

「達樹、部活入らないか」


 そういう提案が来たのは、いつものように昼食を済ませた後のことだった。


 多少くせ毛のある髪をした人物――達樹は多少けだるそうに見返す。

 場所はオープンカフェのいつもの一席。食後に水を一杯飲んでいる最中の出来事であった。


「部活?」


 聞き返す達樹に、相手――友人である優矢は「ああ」と答えた。


「増幅器使用により試験に余裕ができた以上、他にも何かしといた方がいいだろう」

「点数稼ぎ、とか言いたいのか?」

「それもあるが……交友関係を広げろという話だ。実技がどうにかこなせるようになった以上、今度は勉強の方にも力を入れるべきだろう。お前は要領悪いから、少しくらい助けになる奴を探した方がいい」

「……ほっとけ」


 言いながら達樹は水を飲む。


「勉強なら間に合っているよ。落第する点数にはならないさ」

「そこが問題だろう。落第などというレベルで話をしている時点で、お前の目標とするところには届かない」

「それは、そうだけどさ」

「お前にとっては良い助けとなる。で、俺の部活は人数が四人で、あと一名で入れば正式に部として申請ができる。ウィンウィンの関係で万々歳だ」

「それが勧誘の理由か」

「お前には悪くない話だと思うから提案したんだぞ。勉強できる人もいるからな」

「……それだけが理由じゃなさそうだな」


 達樹は勘ぐって尋ねる。すると、優矢は隠す素振りも無く答えた。


「ああ……後は、多少戦力になるだろうというのが理由だ」

「戦力? 戦闘でもするのか?」

「ああ。場合によっては」

「……嫌な予感しかしないんだけど」


 達樹の言葉に、優矢はにっこりと笑う。


「大丈夫だ。そんな馬鹿な真似にはならない。ただ、もし……もしもの場合、そういう事例が起きるわけだ」

「何かヤバイことがあった時の、捨て駒とかじゃないよな?」

「無論だ」


 胸を張って答える優矢。達樹は彼の所作に辟易しながらも、とりあえず部活の名称だけは訊くことにする。


「で、名前は何だ?」

「魔法研究会……名前の通り、魔法に関することを調べるのが主な活動」

「なんか、普通だな」


 達樹は感想を漏らす。そういう系統の部活はこの学園にはいくつもある。ただ――


「そういう名前の部活って、他になかったか?」

「似たような名前はあるから、部活の申請をする際名称は変更する」

「そうか……」


 と、そこで達樹はじっと友人の顔を眺める。


「どうした?」

「いや……お前がそんな固い部活をやっているようには、どうしても思えなくて」

「手厳しいな。俺は結構魔法については努力しているぞ?」

「それは認める……が、普段から飄々としているお前に、その部活は似合わない――」


 そう言った時、優矢はどこか、面白がるような表情を見せた。


「何だよ?」

「いや、あれだ。達樹は俺の本質をよく掴んでいると思っただけだ」

「そうやって言うということは、何かあるわけだな」

「ああ」


 あっさり頷く優矢。達樹は訊こうとして――回答は相手からやって来た。


「実を言うと、魔法研究会というのは表向きの名前だ。俺達と似たようなことをやっている部活は他にも腐る程ある……で、俺達はそれを隠れ蓑にして、活動する予定だ」


 ――達樹はなんとなく、嫌な予感がした。表向きとか隠れ蓑とか、そういう口上が入っている以上、きっと良い部活ではない。


「では、俺達がやる活動の正式名称を、特別に話そう」


 どこか芝居がかった口調で優矢は語る。達樹は「どうぞご勝手に」と面倒そうに返答した時、


「簡単に言えば、彼女を見守るというのが目的の部活だ」


 そう言われた。


「……は?」


 達樹は聞き返す。言っている意味がわからなかったのだが――すぐに、優矢から返答がやってきた。


「本当の名前は『青薔薇応援団』という、立栄さんを見守るための部活――」

「じゃあ、俺行くから」


 すぐさま立ち上がり、達樹は踵を返した。


「って、おい? 達樹?」


 呼び掛けられたが、達樹の足は止まらない。


(……アホくさ)


 そう思いつつ、少し早いが教室へ向かうことにした。






 ――九秋研究所を発端とした一連の事件が終わり、二週間ほど。次の実技試験の心配もいらないという保証も得られたので、達樹もひとまず平穏無事に学校生活を送っていた。

 そして舞桜との関係は、あのすれ違い以後、一切なかった。というより、達樹自身避けている部分もあった上、それでいいとさえ思っていた。


 以前の戦いでそれなりに役に立ったとはいえ、達樹自身落ちこぼれ生徒であることに変わりない。あのケースはあくまでレアケースであって、本来自分が立ち入るべきではないと考えるようになっていた。


(まあ、舞桜と名前で呼ぶくらいに認められたのなら、それで十分だろう……)


 そんな風にさえ思えてくる。なんだか過去になりつつありちょっとばかり寂しくもあったが、彼女のことを思えばこれが一番のはずだと、達樹は自分に言い聞かせる。


「おーい、達樹」


 そんな風に考えていた時、優矢が声を掛けた。


「おい、聞いているのか? なあ、おい。おーい」

「……うるさいな」


 再三の呼び掛けに、達樹は苛立ちを抱きながら答える。


「何だよ?」

「いや、何だよって……何が不服だったんだ?」

「不服も何も、そんな部活誰が入るか」


 突っかかるような言い方に対し――優矢はやれやれと肩をすくめる。


「ずいぶん強情だな。以前の訓練で立栄さんを認めさせるとか啖呵を切った以上、お前は何かしら思う所があるんだろう?」

「いや、あれは彼女が学科生徒の中でトップに立っているから、言っただけで」

「いやいや、俺にはそう見えなかった」


 決めつけられても――反論しようとした達樹だったが、次の言葉により二の句が継げられなくなる。


「しかも最近、俺が立栄さんの話をするとなんだか綻んだ顔を見せるようになったじゃないか」

「――え」


 達樹は固まる。その態度により優矢は「ほら」と追及する。


「なんだか彼女を気にしている風に感じられる……だからこそ、お前を誘ったわけだが」


 達樹は言われて、思い当たる所を探してみる。けれど、思い当たらない。

 自覚がなかっただけで、あの事件のことを思い返しニンマリとでもしていたのだろうか。


「何の根拠もなくお前に話したりはしないぞ……で、どうなんだ?」


 優矢が悪だくみでもするような顔を浮かべながら尋ねた。達樹はちょっと体をたじろがせながらも、どうにか反撃を試みる。


「いや、ちょっと待てよ。俺、そんなこと一言も――」

「なんだよ、俺が立栄さんのことを語るとニンマリするようになったのは気のせいか?」


 ――懸念していたことが、すっぽり当てはまってしまうようだった。


(これは、まずいな)


 達樹はどうにかこの場を収めようと必死に頭を回転させる。

 疑いを持つ相手である以上、頭ごなしに否定するのは却って疑念を深めさせるだろう。けれど肯定するのも、達樹としては避けたい。


 結果、沈黙することとなってしまった。それもまた疑念をもたらす――優矢は何か考えついたようで、口元に手を当てた。


「……ふむ、もしやお前、何か立栄さんと……」

「いや、それはないから」


 事件のことを思い出しつつも、手をパタパタと振る。そこだけはきっちりと否定できた。


「というか接点ないだろ?」

「まあ、そうだな」


(良かった、そこはどうにか誤魔化せたようだ)


 達樹は内心安堵する――が、さすがにこの状況下で否定すると怪しまれると確信する。


「……まあ、そうだな。憧れみたいなものを抱くようになったのは、事実かな」

「お、認めたな」


 優矢が問うと、達樹は仕方なくといった様子で首を縦に振った。


 ――実際、間近であの強さを見せつけられて、羨望を感じたのもまた事実だった。一ヶ月の間に一つの属性しか使えないという制約はあれど、あの強力な魔法は達樹にとっても魅力あるものだったのだ。


「ああした魔法……増幅器で無理だとはわかっているけど、やっぱり使いたいと思うよ」


 達樹は肩をすくめ、本心を告げた。


 現在も制服の中で増幅器を取り付けている。それでできることは魔力を収束させ拳によって攻撃すること――身体強化と魔力収束のみ。

 開発者の青井神斗によると、応用で様々な魔法は使えるようにする予定だそうだ。つまり、まだ機能は備わっていない。


「ま、これは青井さん次第だけどさ」

「ふむ、そうだな……で、達樹。部活はどうする?」

「いや、立栄さんが気になるから入るという帰結は、どうかと思うけど」

「もしかしたら憧れの彼女と話せるかもしれないぞ?」

「魔法について憧れていると、さっき言わなかったか?」

「それは彼女に憧れているのと同義だろう」


(違うと思うけど……)


 解釈を捻じ曲げられている気がする。達樹は否定しようとして――はたと気付く。


「なあ……ここでうんと言わないと、これから同じような問答が続くのか?」

「ああ」

「あっさり言うなよ……わかったよ。入ればいいんだろ?」

「おお! さすがわが友!」

「こんな時に友人を強調されてもね……」


 立栄に興味を抱いたと確信したからこそ、優矢は誘いを敢行した――勉強云々は、話しの切っ掛けに使っただけ。事の真相は、そんなところだろうと達樹は思う。


(ま、しょうがないか)


 下手に勘ぐられるよりはマシだ――頃合いで脱退する方法だってあるはずなので、怪しまれないよう達樹は流れに身を任せることに決めた。


「で、優矢。具体的な活動は?」

「ん? ああ、じゃあ早速部員を紹介したい。いいか?」

「今日?」

「そうだ」

「他にやることもないからいいよ」

「わかった。それでは放課後カフェに集合だ」

「了解」


 達樹が承諾すると、優矢は先んじて歩き出す。


「じゃあな」


 スキップすらしそうな雰囲気で言い、彼は足早に去って行った。

 やや遅れて達樹は歩き出す。内心は、心なしか面倒臭さもある。


「……けど、ああ言うしかなかったよな」


 ため息一つ。力押しで説得させられた気もするが――今更嘆いても仕方ない。


「とりあえず、授業だな」


 気を取り直して、達樹は空を見上げる。秋の空は非常に澄んでおり、なおかつ今日は雲もほとんどない快晴。

 実技がどうにかなるという状況であるため、達樹としては少しばかり気分が良い。優矢へ公言した目標は遥か彼方だが、それでも大きな進歩だと言っていい。


 そのきっかけをくれたのは、間違いなく舞桜の存在。だからもしかすると、無意識の内に気に掛けていたのかもしれない。


「顔に出ていたんだろうな」


 達樹は呟きつつ、過去の自分を反省する。優矢にわかってしまった程なので、今後注意する必要がある。


「次からはわからないようにしないと」


 口に出して視線を戻し、そこからは無言で教室へ向かうこととなった。






 特に目新しいこともない一日が終わり――ここから、昨日とは異なるイベントになる。

 達樹が集合場所のオープンカフェへ行くと、優矢は紅茶を飲みながら待っていた。


「来たぞ」

「よし、行くか」


 優矢はカップの中身を飲み干し、立ち上がる。


「案内しよう」

「他の部員は?」

「先に借りた教室に行っている」

「借りた教室?」

「まだ部として申請していない以上、部室をもてるわけがないだろ?」

「あ、そうか」


 おそらく授業で使用する教室を借りて会議でもするのだろう――達樹は思いつつ、歩き始めた優矢の後を追う。


「で、優矢……建前上の活動は、するのか? それとも、一切しないのか?」


 道中、達樹は尋ねる。対する優矢は「もちろんやる」と答えた。


「そちらも本腰でやるからな」

「結構本格的なんだな……で、応援団としての活動は何をするんだ?」

「そのままだ。彼女を応援する」


 何一つ回答になっていない。達樹はちょっと困った顔をしつつ、


「具体的には?」

「彼女の動向を見つつ、自分にできることを考える」

「……聞いていると、ストーカーみたいだが」

「失敬な」


 優矢は即座にかぶりを振る。


「少し前に『青薔薇後援会』という組織が問題を起こしたが……あのようにはならない」


 そう決然と、達樹へ告げた。


 ――ちなみに学内はおろか学外でも有名である舞桜は、当然ファンクラブも存在する。だが基本彼女は放っておくというのがスタンスであるため、どこも公的なものとは見なされていない。

 ただこれはファンクラブに限った話でもない。彼女を取り巻く親衛隊――達樹にとっても嫌な経験のある彼女達であっても、舞桜から承認を得たわけではない。彼女たちはあくまでボランティアに近い形でやっている。


 舞桜はそれを拒否するわけでもなく――というより、現時点で拒否などしたら混乱の元になるとわかっているため、あえて静観を決め込んでいるのだと、達樹は推測している。


「……そういえば、厄介な事件があったな」


 達樹はふと、優矢の言っている『青薔薇後援会』という存在を思い出す。それは親衛隊とは別に組織された、彼女を支援する会だった。

 女性も少なくなかったが、親衛隊が女性しかなれないので、こちらの組織は男性が多かった――結果どうなったかというと、一部が先鋭化し、親衛隊と対立するなどという事態になった。


「優矢、後援会の顛末ってどうだったっけ?」

「めでたく親衛隊により壊滅。ついでに、問題を起こしたということで会は解散」

「最悪な終わり方だな……そういう風にはならないでくれよ」

「無論だ。あんな馬鹿なことはしない」


 と、優矢は小さく肩をすくめた。


「最終的にあの会は、なぜここまでやっているのに認められないんだという解釈に行き着いたらしい。問題を起こした中心人物は後援会の会長をやっていた現二年生らしいが、彼には現在も監視がついているらしい」

「そうなのか……大変な事件だったんだな」


 感想を漏らしつつ、優矢の姿をじっと眺める。


(舞桜に熱を上げているが、理性的な行動はできるから大丈夫だとは思うけど……)


 いざとなればフォローくらいは入れる必要があるだろう――達樹が結論付けた時、建物の中に入った。

 いくつかある教室棟の中で、やや古い建物。二人はコンクリートの床を進み、一番の奥の部屋で、優矢は立ち止まる。


「ここだ」


 言うと彼は扉を開ける。中には、三人の人物がいた。


「お、来たか。優矢」


 その内の一人、やや高めの声の男子が優矢へ呼び掛けた。


「ん、そいつが友人か?」

「そうだ」


 優矢は頷き、達樹を中へ入るよう促す。けれど、当の達樹は立ち止まり、


「三人が、部員でいいんだよな?」

「そうだ」


 優矢が答える。達樹は「わかった」と応じつつ、まず教室から見回す。

 中学や高校の教室で使われるような、三十人程度が入れる小教室。教室の右側には窓。左側には木製の壁。正面には黒板があり、チョークで『本日の予定 会議』と書き込まれている。


 次に三人を観察。先ほど声を上げた男子は立つくらいに短い髪をした、やや背丈のある、スポーツマン風の人物。達樹が目を向けると、彼は「どうも」と答え小さく頭を下げた。

 次に残りの二人を確認。双方とも女子で、片方はやや小柄な、黒髪ショートヘアの人物。さらには眼鏡をかけ、図書館にでもこもっていそうな印象を受ける。


 そして最後の一人――そちらに目を向け容姿を確認しようとした瞬間、優矢は声を上げた。


「お前、彼女と確か知り合いだっただろう? だからこそ勧誘したというのも理由の一つだ」


 ――そう語られた最後の相手は、達樹にも見覚えがあった。


「……どうも、西白さん」


 彼女が挨拶をする。相手は舞桜の友人である、笹原菜々子だった。


(なぜ……彼女がここに?)


 こんな部に入る要素が何一つ見当たらないのだが――


「達樹? どうした?」


 優矢が問う。そこで達樹は我に返り、


「いや、知り合いがいたからびっくりしただけだ」


 弁明し、彼らに近寄った。


「よろしく」


 三人へ再度頭を下げつつ声を上げる。その中で代表し、男子が「こちらこそ」と返事をした。


「じゃあ座ってくれ」


 後方から優矢が言う。流されるまま三人の後ろにある席に着くと、優矢はおもむろに教壇に歩み寄り黒板を背にして語り始めた。


「達樹には申し訳ないが、会議を始めよう……議題は、羽間(はざま)

「ああ」


 優矢の呼び掛けに男子――羽間が答え、


「今日の議題は、とある人物について」


 そう切り出した。


「仕事の関係かどうかわからないが、最近立栄さんの周辺に怪しい男子が近づいている」

「……おいおい」


 思わず達樹は声を出した。すると、途端に優矢が問い掛ける。


「達樹、どうした?」

「いや……内容だけ聞いていると、監視しているようにしか思えないんだけど……」


 達樹はなんとなく笹原へ視線を送る。彼女は首だけこちらにやり、苦笑に近い笑みを浮かべていた。


「心配するな、別にそれでどうこうしようということではない」


 優矢はすぐさま答える。けれど達樹の不安は消えず、険しい顔をしたまま。

 その反応に、優矢は難しい顔で応じた。


「ふむ……そうだな。まずはこの部の活動方針から話すべきか」


 優矢は言うと、一度教壇を下り達樹へと近づく。


「達樹、最初に言っておくが、この部はあくまで彼女の動向で気に掛かったことを議題に上げているだけだ」

「それを監視と言うんじゃないのか?」

「話を聞け……学内では親衛隊が活動しているから問題ないだろう。しかし、外部で仕事をしている時は常に単独行動だと言っていい……もし外部で怪しい人物がいたら、彼女は無防備なわけだ」


 聞きながら――あの強さがあるから心配いらないと思うけど、と達樹は思う。


「だからこそ、例えば仕事についても依頼主がどういった人物なのか調査をする……彼女は警察からの仕事以外も色々と引き請けているからな。何か危ない案件に突っ込んだりはしないか、見守る必要がある」


 物は言い様――達樹はそう心の中で断じつつ笹原の顔を窺う。すると、


(……なんだか、同調する気配だな)


 苦笑しつつも、瞳の奥ではどこか優矢の言に賛同している節がある。


(彼女なりに、何か考えがあってここにいるということか)


 そう悟ると、達樹はすぐさま優矢へ告げた。


「わかったよ……よくよく考えればどんな風に活動するのかわからないし、少し様子を見よう」

「助かる」


 優矢は答えるとすぐさま足を反転させ、再び教壇へ戻った。


「で、だ……羽間、解説を」

「ああ……で、その人物は立栄さんに人探しを頼んでいる様子。それ以上の詳細は不明だが、現在立栄さんはその仕事をこなしているみたいだ」

「人探し……警察が介入しているわけではないのか?」

「ああ」


 優矢の問いに羽間は答える。


「そこからの詳細は不明。今後はその男性について調べるくらいかなと思う」

「そうか。なら今日の議題は終わりだな」


 と、いきなり終了を宣言される。達樹が驚いていると、優矢は唐突に口を開いた。


「で、ここからが本題だ。達樹」

「本題?」

「ああ。実を言うとお前をこの部に勧誘したのは様々な理由があるが……その大きな理由としては、彼女の存在も大きい」


 言って、優矢は残る最後の女子へ目線を向ける。


「紹介をしておこう。名前は土岐(とき)小春(こはる)。将来増幅器の製作者を目指している、魔法学科の生徒だ」

「……それで、俺の増幅器を?」

「ああ。色々と調べさせてもらいたいらしい」

「いや、そういうのって青井さんに直接掛け合ったら?」

「彼はあくまで研究員であるため、重要なデータなんかは教えない。だから実際どういった効果があるのか目で確かめたいらしい」

「……これ、普通の増幅器じゃないんだけど」


 一般人が使用する物とは少し異なる仕様。その返答に優矢は「無論だ」と応じた。


「彼女だって了承しているさ。そういった例外の物についても色々と調べたいそうだ」

「……よろしくお願いします」


 小さな声で土岐が言う。達樹は彼女を見て――興味ありげな視線を投げかけているのに気付く。


(……彼女のような存在もいることも、声を掛けた一員なのか)


 勧誘には複雑な理由がある――達樹は思いつつ、優矢へ尋ねる。


「それが魔法研究会に関する活動というわけか?」

「そういう一面もあるということだ。ついては今から実証実験を行いたいのだが、いいか?」


 確認の問い。達樹は一度土岐へ視線を送る。彼女はどこか懇願するような目をしていた。


「……わかったよ。無意味にボコられるとかは嫌だからな」

「無論だ。頼んだぞ」


 優矢が笑う。そんな彼を見ながら達樹は、やはり面倒事が増えたと小さくため息をつくこととなった。

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