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ナイトオブブルーローズ  作者: 陽山純樹
第1話

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13/106

重騎士と裏切者

 青井が達樹たちに気付く。二人の出現に、彼は目を見張った。


「君達は――!」


 彼が言い終えぬ前に、笹原が動く。腕を先から雷の槍を生み出した。

 魔力に反応したか騎士の動きが止まり、その隙に笹原が槍を投擲し――逃げる青井の横をすり抜け、騎士に直撃した。


 雷が弾ける乾いた音と共に、騎士が力を失くし消える。青井はそれを見て、安堵したのか息をついた。


「ごめん……助かった」

「追われているんですね?」


 達樹が確認すると、彼は深々と頷いた。


「口ぶりからすると、事の核心をおぼろげにも掴んでいるみたいだね。できればすぐにでも事情を話したいけど……」


 青井は即座に周囲を窺う。警戒する素振り。


「だけどまだ、アイツが残っている」

「アイツ?」

「人馬一体の敵だ。増幅器を使ったデコイでどうにか撒いたんだけど、直に追ってくるはずだ」


 重騎士だ。達樹もまた周囲を警戒しつつ、青井へ告げる。


「ここはひとまず退却しましょう。安全な場所へ――」

「危ない!」


 達樹の言葉を遮り、笹原が叫んだ。直後、黒い影が達樹たち正面に飛来してくる。

 相手は轟音を立てて着地した。以前見たのと同様の、槍と盾を持った重騎士。


「私が時間を稼ぎます。西白さんは一旦家まで」


 笹原が二人の前に立つと、両腕に炎を収束させる。その魔力を感じ取ってか、重騎士は笹原へ槍を向けた。


「……行きましょう」


 達樹は敵を刺激しないよう、小声で青井に告げる。

 ゆっくりとその場を移動しようとして、重騎士が動いた。槍が笹原へ放たれ、彼女はそれを炎の力で弾く。さらに、右手を相手に構えた。


 レーザー状の炎が射出される。重騎士はそれを盾で防ぐ。その時、達樹の目には重騎士の体が少し前傾したような気がした――

 次の瞬間、重騎士の姿が消える。


「え?」


 達樹が驚くと同時に、何をしたかわかった。跳躍したのだ。

 影は一気にこちらへ突き進んでくる。達樹は何をするのか把握した途端、即座に青井を庇うようにして立った。


 直後重騎士は、達樹や青井が進んだであろう逃げ道を塞ぐように、着地した。

 巨体が道路に轟音と衝撃をもたらす。さらに重騎士は即座に振り返ると、槍を放った。


 攻撃に際し、達樹は背後にいる青井のことを考えた。横手に避ければ、最悪青井に槍が突き刺さるかもしれない。

 様々な考えが一瞬で巡り――槍が来る刹那の時間で、達樹は両腕に力を込めた。ほとんど制御できていないその力を奮い立たせ、眼前の槍へ拳を放つ。


 狙ったのは槍の側面。刃先が達樹の目の前に来た瞬間、拳が槍を弾いた。その一撃は槍の軌道を確実に逸らし、青井の横を槍が通り過ぎる。


「くっ!」


 即座に達樹は反撃に転じる。以前と同じように間近まで迫り、先ほどと同様腕に力を入れ、跳躍し拳を突き込もうとした――しかし、


「っ!?」


 悪寒が走った。達樹は攻撃を中断し、後方へ一歩下がる。その瞬間、達樹の立っていた場所に重騎士の盾が地面に突き刺さった。


(危ない……!)


 一歩間違えれば盾に押し潰されている所だった。達樹が慌てて体勢を整える間に、重騎士は槍を引き返し再度差し向けようとする。

 達樹はすぐさま後退する。槍が振るわれる寸前に、青井の隣に戻ってくる。


 そこへ、笹原が援護に入った。炎の槍が重騎士目掛け放たれ、敵は盾で防ぐ。だが、威力は先ほどよりも上なのか、衝撃で僅かに身じろぎした。体勢を戻す僅かな時間で、槍の攻撃範囲から全員が逃れる。


「……さすがに、倒さないとまずそうだな」


 達樹は呟く。攻撃速度もそうだが、あの巨体でかなりの移動速度がある以上、走って逃げても確実に追いつかれるだろう。


「そうですね。私もそう思います」


 笹原も認め、警戒しながら両腕に炎をまとう。最初よりもさらに強力な炎に、重騎士も動きを止め様子を窺っている。

 達樹は重騎士を見ながら考える。今までは全て立栄が倒してきた相手。さらに先ほどの戦いで自身の攻撃が通用しないのは実証済み。自分にできることは、青井の護衛くらいしかない。


(だけど、それすらできるのかって感じだな……)


「達樹君」


 青井の声が聞こえた。達樹は振り返らないまま重騎士を注視し、言葉を待つ。


「魔力を意識的に一点に収束させるんだ。そしてそれを、彼女のように腕にまとうイメージを構成させて」


 増幅器に関するアドバイスだろうか。思えば今まで増幅器は全身に魔力を込めるようなやり方で使用していた。その光景を間近で見たことによる、製作者のアドバイスだろう。

 達樹は彼の教えに従い、試しに右腕に魔力を集中させてみた。すると魔力が固まり、半透明な白い光に包まれる。


「これは……」


 呟いた瞬間、重騎士が動く。槍が達樹の隣にいる青井へ放たれるが、笹原が援護に回り、素早く彼の前に立つ。

 炎の渦が彼女の前方に発生し、それが槍を押し留め――達樹が動いた。彼女の横を抜け、再び重騎士へ迫る。そして、今度は懐ではなく、槍を持つ右腕に照準を定めた。


「はっ!」


 炎とせめぎ合い動けない重騎士の腕へ、発光する右腕を叩き込んだ。光と黒い腕が衝突し――重騎士の腕が、脆くも崩れ槍が地面に落ちた。

 そこで笹原が好機と悟ったか、魔力が膨れ上がった。達樹は即座に回避に移る。彼女の邪魔をするのはまずい――


「達樹君! ボールを投げる要領で腕を振れば、投擲もできる!」


 またも青井の言葉が飛ぶ。達樹はすぐに反応し、再度右腕に力を込めた。光が生まれ、敵を見据える。重騎士は腕を失くし、なおかつ笹原の動きに対し盾を構えようとしていた。

 それ目掛け、達樹は野球ボールを投げるようなやり方で腕を振った。


 白い光が達樹の腕を離れ、一筋の槍となって盾と衝突し――盾にひびが入り、光の消失と共に盾もまた崩れ落ちた。


「弱点は胸部だ!」


 青井が指示すると、笹原が追い打ちを掛ける。凝縮した炎の槍が彼女の手から放たれ、重騎士は避ける暇も無く胸部に一撃を受けた。

 炎は重騎士の体を貫通し、大きな穴を開ける。そして、重騎士は崩れ落ちるように倒れ、やがて消滅した。


「……倒した」


 達樹が呟く。気が付くと体に僅かだが疲労が生まれていた。魔力を集中させた結果だろう――

 だが、青井の言葉を受け確実に手応えがあったことで、高揚感から多少の疲れも吹き飛んでしまいそうだった。


「君の増幅器はかなり苦労して作ったからね。効力は保証済みだよ。ただ、そこまで制御できるのは、君が増幅器の訓練をしていたからだろうけど」


 青井が笑いながら語ると、達樹は黙って頷いた。どうやらここに来て、金欠となった訓練の成果が出たらしく、増幅器の真価を発揮できたようだ。

 達樹は改めて青井の無事を確認すると、笹原の様子を窺う。彼女も疲労があるのか小さく息をついていた。


「二人とも」


 青井が呼び掛ける。残る二人は同時に首を向けた。


「できればすぐにでも事情を話したいけど、そんな余裕も無さそうだ。ひとまず、あれが来ない場所に行くしかない」

「はい。わかってます」


 笹原は頷くと、手で方向を示す。


「急ぎましょう」

「はい」


 青井が返事をして、三人は移動を開始した。






 立栄の家の玄関に入った時、日町が出迎えてくれた。


「ご苦労だった……ふむ、怪我はなさそうだな」

「かなりギリギリでしたが」


 達樹が答えた後、三人はリビングへ入る。


「まずは状況を説明するよ」


 次に青井が口を開いた時、全員が椅子に座る。青井は床に旅行鞄を置いて、達樹と向かい合うように座った。笹原は達樹の横に座り、日町は青井の横を陣取る。


「ペンダントは、ひとまず私の手に戻った。どうにか盗んできたというのが、この場合適切かな。分の悪い賭けだったけど、どうにかできたよ」

「実験を、止めさせるためにですか?」


 笹原が尋ねる。青井は静かに頷いた。


「三石さんが動いているからね。おおよその見当は君達にもついているかもしれないが、今回の事件における主犯者はあの人だ。あの人こそ、ペンダント開発の全てを取り仕切っていた」

「そして、死人が出たと?」


 なおも笹原が尋ねると、青井は無念そうに語り始めた。


「私は研究チームの一人で……それを止められなかったのを後悔した。告発しようと何度も悩んだよ。しかし、同じように内部告発を行おうとした同僚が行方不明になった。きっと何かしようとしたのを、三石さんが捕捉したんだと思う」

「口封じか」


 日町が険しい顔つきで呟く。青井は痛々しい笑顔を伴って、それに応じた。


「ええ……以後、研究に参画し異を唱える人間はいなくなり、誰もが黙々と仕事をするようになった。けれど最近になって、突然研究を中断した。理由を聞かされないまましばしチームは解散となって……私はここしかないと思いペンダントを盗み出し、商店に隠した。後になって、三石さんはどこからかの内部告発を聞きつけ警察が動いていること知ったらしい。もっとも、それは今回とは別件の話らしかったけど」

「そして、彼は不良を雇いペンダントを捜索させたと」


 日町が言う。青井は再度頷いた。


「きっとあの人は増幅器である以上、その筋の店舗のどこかにあると踏んで、調べ回っていたんだと思う。対する私は捜索していることに気付かず盗まれてしまった。幸い、その時は私の所にあったという情報が三石さんのへ伝わらずに済んだ。けれどいずれ露見するし……どちらにせよ、ペンダントは取り返す必要があった」

「そこで、俺が現れたと」


 達樹が言う。青井は柔和な笑みを浮かべ答えた。


「天啓だと思ったよ。私と関わり合いの無い人が訪れるなんて滅多になかったから、これはもしかしたらと思って、戦えるよう増幅器も渡した。君が身に着けるそれは、それなりに魔力が無ければ使えない、一般の人にとっては何の役にも立たない代物だが、君になら扱えた」

「戦えると踏んで、俺にGPSも渡したんですか?」


 尋ねながら達樹はポケットからGPSを取り出し、彼に渡す。


「けど、何で俺に……? 元から知り合いである優矢とかに頼めばよかったのでは?」

「彼は青薔薇――立栄舞桜さんだっけ? 彼女を心酔していると聞き及んでいたから、彼を介し彼女に情報が漏れる可能性を危惧した。最悪彼女から私に関する情報が三石さんに伝わるかもしれないし、少し交流があったから、三石さんは彼も調べているかもしれない。そうなれば、私は破滅だし優矢君にも迷惑が掛かる」

「なるほど、そういうことですか。それなら納得できます」


 そう返しながらも、まだ腑に落ちない点があった。


「ですが、青井さん。あの騎士みたいな存在は?」

「あれは……三石さんが増幅器のプロジェクトとは別に研究していた分野で、私もよく知らない。実を言うと、君にペンダントを持っていてもらったのは、事件が収まるまで関連性の無い君が持っていた方が安全だと判断したためなんだ。仕事を依頼したのは、休みなんかで君が街を離れたりする可能性を考慮し、それを防ぐためだった。私としては手の届く場所にいてもらいたかったからね……騎士が出てきたのは予定外だった。結果どうなったかは私も知っているよ。君は大怪我をして、私に関する情報が伝わってしまった」

「すみません……」

「いや、仕方なかったと思う。大怪我をして事情を話さないわけにはいかないだろうし……ともかく、私は情報を聞きつけ即座に身を隠し、事前に聞いていた君の寮へGPSや資料を送った。君ならもしかすると、調べてくれるという可能性に賭けて」

「最後の最後まで、賭けですね」


 両者が出会い、資料を渡すまで全てが偶然の産物だ。青井も同じように思っているようで、複雑な表情を見せた。


「私に取れる選択肢は少なかったからね。でも、今は全ての事象がこちらに追い風をもたらしている。後一押しで、三石さんを覆せる」

「後は舞桜の働き次第、というわけですか」


 やや尖った口調で、笹原は話す。無理もない。彼女からしてみれば、立栄や笹原は三石と青井の謀略に巻き込まれている形なのだから。

 彼女の口調を察し、青井は頭を下げた。


「すまない。本来ならば私が、一人で片付けるべき問題なのだが」

「不服というわけではありません。事情を聞けば舞桜も絶対に納得します。ただ、場合によっては……」


 笹原は沈黙する。達樹は彼女が立栄の魔法事情を気にしているのだとわかった。


「……現状ではペンダントがこちらにあると連絡する必要もあります。今回は通信機器を持参していないので、かなり大変です」

「連絡手段がないと?」

「今回のように潜入している場合、連絡が取れないよりも、連絡できる物を奪われる可能性を考慮しているようで」


 彼女にしてみれば、その方がリスクは高いのだろう。重騎士を十体相手にしても無傷の彼女ならば、そう考えるのが自然だ。


「嫌な予感がします……これほど長期に渡り、同じ敵と戦った経験は彼女もほとんどないはずですし」

「しかも相手は研究者だからな」


 日町が告げると、達樹や日町も押し黙る。その中で事情が分からない青井が声を上げる。


「何か、あるのですか?」

「いくつか、事情が」


 言葉を濁し笹原が答える。

 青井は彼女の反応を見てそれ以上尋ねるようなことはせず、話を進めた。


「わかりました。それでどうしますか? 彼女に連絡を行うためには、研究所へ入り込むしかなさそうですが」

「私が、行きます」


 笹原は屹然(きつぜん)と答え――青井が彼女へ尋ねた。


「あなたは魔力閉鎖を行えますか?」

「……魔力閉鎖?」

「意図的に体から放たれる魔力を閉じる行為です。警察に協力している青薔薇さんはそれが使えるので問題ないと思いますが」


 笹原は彼に首を振った。途端に、青井は難しい表情を示す。


「それでは、無理でしょうね」

「なぜですか?」

「あなたの魔力の場合、たぶん入口付近も通過できない」

「なるほどな」


 青井の言葉を受け、日町がため息混じりに言った。


「研究所は基本的に魔法使いを寄せ付けない措置を取っている。そのため魔力探知機が至る所に張り巡らされているな。それを潜り抜けるため、魔力閉鎖が必須となるわけだ」

「はい。九秋の研究所も機器が至る所にあります。念話などを用いるケースもあるので、魔力が低ければ反応は出ずに済むでしょうけれど……」

「それって、つまり」


 達樹が声を上げた。青井は不本意な様子で首肯する。


「魔法使いの中でも魔力が少なければ通過できるライン……西白君。君の魔力なら、いけるレベルだ」

「魔力が少ないことが、こんな所で役に立つとは」


 達樹は苦笑しつつ、笹原や日町へ告げた。


「わかった。俺が行くよ。増幅器のコツはどうにか掴んだから、大きい騎士とやりあっても、逃げるくらいはできると思う」

「大丈夫か? 疲労は溜まっていないか?」


 日町が尋ねる。正直に所体は重い――理由は明白で、午後からひたすら戦っているためだ。しかし、体を休めるような時間は無いのはわかり切っていた。


「無理そうなら引き返します」

「私がナビをするよ」


 青井は言うと旅行鞄を漁り、何かを取り出す。それは耳に引っ掛ける形状のイヤホンのような物。


「念話ができる通信機器だ。これを耳にはめれば、魔力を通じここから九秋くらいの距離なら通信ができる」

「外部からの通信は問題ないんですか?」

「さっきも言ったけど、研究所内から外の実験を念話で聞くくらいはしょっちゅうだからね。バレることは無いよ。後は、そうだな……」


 青井はさらに鞄を漁り、何かを取り出す。作業服のような衣装だった。


「見た目はあまり良くないけど、これを着ていくといい。魔力に対して少しばかり抵抗のある服だ」

「……サイズとか、大丈夫ですか?」

「君の体格に合わせた物だから」


 青井の声を聞いて――達樹は彼がこういう事態を予測していたのだろうと推察した。


「わかりました。ありがとうございます」

「気を付けて、西白君」


 笹原が声を掛ける。達樹は「ああ」と答え、準備に入った。

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