1. 自由奔放
男はアサルトライフルで武装した。
銃口にマズルブレーキを捻り付け、レシーバー上部にショートスコープを取り付け、中身をBB弾で満たされた弾倉を銃身下部に装填する。当然、本物ではない。エアガンだ。
自動小銃のエアガンを手に、男はアパートの一室を飛び出した。半袖半ズボンというラフな格好で。
ツタや雑草に荒らされた廃墟が目立つ住宅街を歩く。閑散としていて人の気配はない。男は不意に立ち止まり、手に持った自動小銃を顔に近づけた。
スコープを覗き込む。視線の先には、最近になって耳障りな歌声を奏で始めた昆虫。照準の中心の赤い点にセミの体を重ねた。
引き金を引く――――直前に銃をわずかに傾けて狙いを逸らす。プラスチック製の弾丸がまっすぐに飛び、セミがとまっていたところのすれすれを射抜く。BB弾は電柱に跳ねてどこかへ飛んでいく。驚いたセミも間抜けな鳴き声と共に飛んで行った。
男はこれを満足気な顔で眺める。これは男の趣味だった。エアガン片手に日中から住宅街を歩き回り、虫や鳥に向かって射撃する。ただし殺生はしない。付近を撃って脅すだけや、当てても致命傷になる部位は避ける。
昔からこの男は周りの者と趣味嗜好や行動がまったく合わない。自由奔放と言えば聞こえはいいが、男は変人であった。休日になれば近所のプールや公園などの公共施設に一人で赴き、周りの目も気にせずに童心に帰る。学生時代は授業中にもかかわらずフラフラと教室を立ち去ってしまう。自由気ままなあまり、他人と足並みを合わせる協調性は皆無であり、親しい友人もいない。特段他人に迷惑をかけるわけでもないが、行動ひとつひとつが奇妙すぎるが故に周りの人間は男とは距離を置く。
職場の同僚にエアガンで生物を撃つ遊びをやめておけと注意をされてもいうことを聞かない。今日も独りで街を闊歩する。
本当に静かな街だ。遠くで鳴く小鳥のさえずりが明瞭に聞こえる。
この国も人口が激減してかなり廃れた。世界中の人口減少と同様、この国も出生数の減少により、最大時の10分の1にまで人口は減った。一軒家は大半が空き家となり、賃貸も空室ばかり。孤独死は増えすぎて日常の一部と化した。もはやゴーストタウンと呼んでも差し支えない。それでも最低限の公共施設や学校の運営、会社や小売店の経営は細々と存続している。大都市を除き、大半の都市郊外や地方はこのような惨状だ。
男は再びアサルトライフルのエアガンを構えた。弾倉に入っている弾丸はただのプラスチックではなく、生分解性BB弾という。植物由来のプラスチックで作られているため、土壌や水中でも微生物に分解され、最終的に自然に還る。
次にスコープに映り込んだのは、廃屋の屋根の上にとまったハト。中心の赤いドットはハトの胴体を捉えた。




