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半妖の黙示録ー契約の成れの果てー  作者: くろあげは。
第3章 お前の核は、我が手の内に
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第21話 束の間の休日

餓狼との戦闘から1週間が経ち、紬の腕に残った傷は、まだ薄く痛んでいた。


制服の袖が擦れるだけで思い出す。


あの日の恐怖も、血の匂いも、餓狼の唸り声も。


けれど、


『ちゃんと眠れた?』


『朝ご飯は食べた?』


『今日は雨だから、足元気をつけるんだよ』


毎日のように届く透からのメッセージに、紬は何度も救われていた。


大丈夫だと言っても、透は心配をやめない。


けれど、その優しさが嫌だと思ったことは一度もなかった。


むしろ嬉しかった。


「……お礼、したいな」


ぽつりと零した言葉に、自分で顔が熱くなる。


先程から、スマホを開いては閉じて、文字を打っては消しての繰り返し。


『あの』


なかなか送信できない。


『今度のお休み』


ずっと心臓がうるさい。


『もし良かったら、一緒に』


「〜〜っ……!」


紬はベッドに顔を埋め、手足をばたつかせた。


透に、ちゃんとありがとうを伝えたい。


意を決して、送信ボタンを押す。


『もし良かったら、今度のお休みに一緒にお出かけしませんか?』


送った瞬間、息が止まりそうになる。


「どうしよう……!」


絶対変だったかも、重かったかも、迷惑だったら——。


そんな事を考えている内に、スマホが震えた。


『もちろん』


あまりにも早い返信に、紬は目を丸くする。


さらに続けてメッセージが届いた。


『紬ちゃんが行きたい場所、教えて?』


『無理はしないでね』


なんだか、胸がじんわり熱くなった。











そして、約束の日。


待ち合わせ場所に着いた紬は、落ち着かない様子で辺りを見回していた。


白いワンピースに、薄いカーディガンを身にまとい、鏡の前で何度も悩んだ服。


「変じゃ……ないかな」


「全然」


「ひゃっ!?」


突然後ろから声がして、紬は肩を跳ねさせた。


振り返るとそこには、柔らかく微笑む透がいた。


「おはよう、紬ちゃん」


淡い色のシャツに黒のジャケットは、シンプルなのに驚くほど似合っている。


透は紬を見ると、少し目を細めた。


「可愛いね」


「っ……!?」


あまりにも自然に言われて、紬の顔が一気に赤くなる。


「と、透先輩っ……!」


「あ、ごめん。嫌だった?」


「ち、違います……!」


「なら良かった」


心臓が、壊れそうなくらいうるさい。


そして二人が向かったのは、水族館だった。


館内は少し薄暗く、青い光がゆったり揺れている。


「綺麗……」


巨大な水槽を泳ぐ魚達に、紬は目を輝かせた。


そんな紬を、透は静かに見つめている。


「透先輩?」


「ううん。楽しそうで良かった」


また優しい顔を見せてくれる。


その視線だけで、胸が苦しくなる気がした。


二人で並んで歩いていると、時々肩が近づいて、その度に紬は緊張した。


「紬ちゃん、あっち見て」


透が指差すと、水槽の奥で小さなペンギンが、転びそうになっていた。


「ふふっ……かわいい」


「うん。紬ちゃんみたい」


「えっ!?」


「……あ」


透も言ってから気づいたらしく、少し気まずそうに目を逸らした。


「ごめん、変な意味じゃなくて」


「だ、大丈夫です……!」


全然大丈夫じゃないし、顔が熱い。


ずっとこんな感じのまま、昼食は館内のカフェに向かった。


窓の向こうを魚が泳いでいて、オシャレだ。


「傷、まだ痛む?」


「……もう大丈夫です」


「そっか」


 透は安心したように微笑んだ。


「でも、無理しちゃだめだよ」


「……はい」


少しの沈黙でも、不思議と居心地は悪くない。


むしろ安心する気がする。


「あの……」


紬は勇気を出して顔を上げ、


「その……あの時、助けてくれてありがとうございました」


と、透は一瞬きょとんとして、それから優しく笑った。


「お礼なんていらないよ」


「でも……」


「僕が助けたかっただけだから」


その言葉が、じんわりと胸に沁みる。


透はコーヒーを一口飲んでから、小さく呟いた。


「……でも」


「?」


「紬ちゃんが笑ってくれてるの、嬉しい」


(好き……)


その言葉が喉まで出かかった。


けれど、


「……っ」


怖くて言えない、


この関係が壊れてしまいそうで。











デートの帰り道、夕焼けが街を赤く染めていた。


二人並んで歩くが、沈黙はあるのに不思議と苦しくない。


むしろ、ずっとこのままでいたいと思ってしまう。


「今日はありがとうございました。……また、一緒にお出かけしたいです」


「うん。また行こうね、紬ちゃん」


その声が、あまりにも優しくて、紬はまた自分の気持ちが溢れそうになるのを必死に隠した。











紬と透の淡いデートが終わった、その頃。


高いビルの屋上では、夜風が深紅の着物を揺らしていた。


白い彼岸花の柄に、片目に嵌められたモノクルが、街の灯りを反射する。


(よい)は、スマホ画面を静かに見下ろしていた。


そこに映るのは、笑い合う透と紬。


「……随分と幸せそうですねぇ」


穏やかな声だが、その瞳に温度はない。


宵はモノクルを指先で押し上げた。


「これが、紅蓮様の執着ですか」


愉しむように笑った宵は呟く。


「赫焉様。対象を確認しました」


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