13.皇女殿下
ベッドに横たわる皇女殿下に、ハンス先生が話しかける。
「皇女殿下、ちょっと失礼します。診察しやすいようにもう少しベッドの端に寄ってください」
わたしは診察が他の男性達から見えないように、天蓋のカーテンを降ろした。すかさず侍女達が手伝ってくれる。
ハンス先生は触診したり、聴診器を当てたり指でおなかをトントンと叩いてみたり、いろいろとやっている。エコーがあればなあ、などと独り言を言いながら、時々皇女殿下に問診をしている。
しばらくしてハンス先生の診察が終わった。
国王陛下と皇子達がハンス先生に駆け寄ってくる。
「先生、娘はどうでしょうか。治りますでしょうか」
ハンス先生は腕を組んで唸ってから言った。
「その、王立医師会の先生方は何と言っていたんですか」
「……もう少し早ければ取り出すことも出来たかもしれないが、今となってはどうすることも出来ないと」
「ああ、さすが王立医師会、激しく同意だね」
「ということは、ハンス先生でも娘の命を救うことはできないと……」
国王陛下と皇子様達がうなだれる。皇女殿下は本当に愛されているのだと思った。
「国王陛下が唯一の可能性に賭けてみると言うのなら、人体実験やってもいいですか?」
ああ、本当にハンス先生を殴ろうかと思った。言い方ってものがあるだろう。
目を丸くする国王陛下達にハンス先生が説明する。
「皇女殿下の御病気は、おそらく卵巣嚢腫というものです。年頃の女性がなった場合、恥ずかしくて言い出せないうちに巨大化することが時々あります。ただこの世界の技術では、小さいときには何とか取り出せるかもしれませんが、ここまで巨大化するともう無理です」
「つまり、ハンス先生とその魔法を使えるグレア殿なら可能と」
国王陛下がわたしを見る。
「分かりません。我々も初めての症例です。人体実験と言ったのはこのことです。初めての症例にぶっつけ本番で挑むことは人体実験にほかなりません」
ハンス先生が続ける。
「しかも、卵巣嚢腫は通常は良性で、切り取ることが出来ればそれで治りますが、ここまで巨大化していると悪性化している可能性もあります」
「つまりは取り出しても手遅れだと」
「そうです。命がけで取り出しても命が助からない可能性もあります」
第二皇子様がハンス先生に聞く。
「では、王立医師会の医師が言うように、このまま様子を見るとどうなりますか」
「まあ、多分ですが、かなり大きくなるまでは皇女殿下の体が持ちこたえるかもしれませんが、いずれ限界が来るでしょう」
「……王立医師会の医師もそう言っていました」
しばらくの沈黙の後、皇女殿下が口を開いた。
「ハンス先生、お願いします。もし命を失っても構いません。治療してください。このままどんどんお腹が大きくなっていくのを耐えるしかない人生なんて嫌です。お願いします」
国王陛下が頭を下げて言った。
「ハンス先生、グレア殿、娘を、どうか娘をお救いください。お願いいたします」
皇子達も頭を下げた。
魔族だからって嫌がらせを受けたらどうしようと気にしていた自分が情けない。家族を救いたい気持ちに魔族も人間も関係ない。魔族のわたしに国王陛下も皇子様達も頭を下げてくれた。これは意地でも成功させなくてはならない。覚悟は決まった。
「グレア、どうだ?」
「ハンス先生、分かっていて聞くのはやめてください。やります。やって見せます」
国王陛下がハンス先生とわたしの手を取って言う。
「ありがとうございます。よろしくお願いします。よろしくお願いします」
治療は、明日の昼決行と決まった。




