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洞窟暮らしの魔族の娘に転生しても、皇子様と結婚したい  作者: 渓夏 酔月


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10.地方都市ドーエル

 わたしとハンス先生は、乗合馬車に乗って街の中心部へと向かった。馬車と聞いて、檻で運ばれて散々吐いた嫌な記憶がよみがえり、かなり警戒していた。しかし荷物を運ぶ荷台と人を乗せるものでは構造が違うのか、意外と快適に乗ることが出来た。


 街の中心部は『転がる雌豚亭』のあった町とは比べようのないほど立派だった。大きな建物が立ち並び、すぐ近くには立派なお城が見えていた。ドーエルはかなり大きな地方都市といった感じだった。


 賑やかな商店が軒を連ねる通りには、ブティックが立ち並び、綺麗なお洋服が展示されていた。ウインドウショッピングでも一日ここにいて飽きなそうだ。


 ハンス先生はそのお店の一つにつかつかと入っていくと、店員さんに話しかけた。


「この娘に似合う服をいくつか見繕ってくれ」


「お久しぶりですハンス先生。あら、綺麗なお嬢さんですこと」


 そう言って、少しきりっとした感じのある綺麗な店員さんがわたしの方を見る。


「グレアと申します。よろしくお願いします」


 日本でもこんな高級そうなブティックに入ったことはない。緊張してしまう。


「グレア様、どのようなものがお好みですか」


「えっと、あの、普段使いで着たいので、そんなに高価じゃないものが良いです」


「あら、ハンス先生に気を遣っているのね。お優しいお嬢様ですこと」


 そう言って店員さんは笑った。ハンス先生はこんな高級そうなブティックの店員さんと、何でそんなに親しいのだろう。全く結びつかない。


「以前はこの店に、ハンス先生は亡くなった奥様と一緒によく来てくださったのですよ」


 わたしの疑問を察したのか、店員さんが教えてくれた。そうか、このお店はハンス先生の奥様の趣味か。奥様の趣味はハンス先生と違ってなかなか良かったのだろう。そう言えば妹のマリエット様も優雅なお方だ。


 店員さんがあれこれと服を持って来てくれる。そのうち三着まで絞ったが、決めきれなかったのでハンス先生にどれが良いか聞いてみた。


「じゃあ三着とも買えばいいだろ」


 そう言ってハンス先生は三着とも買ってくれた。ハンス先生を初めて素敵な人だと思った。その後で下着屋さんにも寄ってもらい、下着もいくつか買うことが出来た。ハンス先生には今まで言えなかったが、サイズの合う下着が無かったので本当に助かった。


 この流れで夕食はどんなレストランに行くのかとひそかに期待していたが、ハンス先生が選んだのは日本の居酒屋っぽい酒場だった。カウンターに座ると、驚いたことに焼き鳥が出てきた。しかも安くてとても美味しかった。つい日本を思い出してしまう。


「ここの焼き鳥美味いだろ。値段も良心的だし俺のお気に入りだ」


 お酒を飲みながらそう言って焼き鳥を食べるハンス先生は、本当に楽しそうだ。


 わたしはこの世界で一つ年を取って17歳になったものの、まだ未成年なのでお茶を飲みながら焼き鳥を食べていると、雰囲気のせいか酔っぱらった気持になってしまった。がやがやと雑然とした居酒屋の雰囲気と、酔っぱらった気持のせいで、わたしはついハンス先生に聞いてしまった。


「ハンス先生って、転生者なんですか?」


 ハンス先生は、世間話でもするようにお酒を飲みながらこう言った。


「どうしてそう思う」


 あ、否定しないのだなと思った。


「だって血圧を測ったり、人体の構造を詳しく知っていたり、どの患者さんに聞いてもこっちの世界の医者はそんなことしないし知らないって言っていましたよ」


「そうか。俺は元の世界の日本でも医者だったんだ。でも、働き過ぎで過労死で死んでこっちの世界に転生したってわけだ。ひどい働き方をさせられていたから、もう医者なんてやらねえって、こっちの世界でいろいろな職業をやってみた。大工に漁師、商店みたいのをやってみたこともある。」


 ハンス先生はお酒と焼き鳥を追加注文した。


「でもどれもダメだった。どうにもモノにならなかった。それで結局、こっちの世界に来てもあれほどもうやらねえと決めた医者になっちまったのよ。我ながら呆れるよ」


 そう言って笑いながら、ハンス先生はもつ煮込みを突っつく。


「でもこの世界の医療の水準は、元いた日本に遠く及ばねえ。診断をつけることは何とか出来てもろくな手術は出来ないし、そもそも薬がない。薬がなけりゃ、医者なんて何も出来ない。診断するだけで結局患者に何もしてやることなんて出来ないのさ。湿布作ってやるくらいが関の山さ」


 ハンス先生がわたしの方を向いて言った。


「そこでお前さんさ。お前さんの出現で診断がようやく治療に結び付いた。やっとこの世界でも医者として役に立てるようになったってな。感謝してるぜグレア」


 びっくりした。ハンス先生は転生者じゃないかってうすうす感じていたけど、こんなにいろいろ考えていたなんて意外だった。元の日本での医者の知識に胡坐(あぐら)をかいて、自堕落に日々お酒を飲んでいるダメ人間かと思っていた。


 追加注文した焼き鳥とお酒が運ばれてきた。その焼き鳥を食べながらハンス先生は言った。


「で、グレア。お前も転生者なんだろ」


 完全に気を許していた。まさか自分のことを言われるなんて思ってもいなかった。


「ど、どうしてそう思うんですか」


「俺が血圧測っているのを見て、何にも疑問に思っていなかっただろ。医者ならそういうことをするだろうって目で見ていた。こっちの世界ではだいたいあれ見てみんなびっくりするよ。逃げ出した患者もいたくらいだ」


 ということは、かなり早い段階でばれていたのだろうか。


「わたしは日本で普通のOLとして働いていました。でも魔族に転生しちゃって……」


「魔族か……いままで大変だっただろ」


 不意打ちすぎる。こんなこと今まで誰にも打ち明けられなかった。誰にも分かってもらえなかった。わたしは声を上げて泣き出してしまった。止まらなかった。とうとう号泣してしまった。


 お店では、若い女の子を悪いおじさんが泣かせていると、ハンス先生はもの凄い非難の目にさらされていた。居酒屋のおかみさんがわたしを抱きしめてくれた。あんな男やめておきなさいと言われた。





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