VS木村
「中井さん負けないで下さい」
後輩の一人から声を掛けられ、中井はあぁと返事をする。
木村も木村で、また勝ち続けるんでよね?と仲間から声を掛けられ、当たり前だと返事をしていた。
お互いの話す声が聞こえていたのはこれが最後で、その後は距離が離れて相手の話す内容は聞こえてこなかった。
盛り上がりの際にオォーとか、拍手が聞こえたくらいだった。
時間が来てスタート位置に並ぶ二人。
中井は体が熱くなってきているのを感じる。
そして加藤戦でした危険な駆りが脳裏に浮かんでは消える。あそこのカーブは気をつけないと―と、念入りにその前の風景と事故を起した時の想像を再び思い浮かべるのであった。
チキンラン開始30秒前、現場はザワザワと話し声で満たされていた。しかし、スタート開始が近づくと次第に静寂に包まれていくのだった。
ピッピッピップーとスタートがきられると中井と木村はエンジンをかけ駆りだすのだった。
連勝数の多い木村が内側だがスタートはほぼ同時に発進している。
峠をのぼる際も二人は並走している。
内側と外側でドライブテクニックは違うのにだ。
二人は駆りの中、並走しているのであった。
中井の頭の中は常に加藤との駆りで勝利の要因となった最後のカーブでのブレーキとエンジンのかけ具合にあった。
あそこのムチャを同じ感覚ですれば勝てると、しかし怖がってブレーキをかけると負けるだろうと思っていた。
木村は寸分の狂いもない様なドライブテクニックで中井に並走している。
だが最後のカーブは加藤と対決していないので危険な駆りは中井の様に体験できていない。
S字カーブ、U字カーブをほぼ並走してみせて、観客は大盛り上がりだ。
直線でもどちらも前に出れず、デットヒートの様に盛り上がる。
そして最後のカーブで中井が加藤戦でみせた駆りを中井は想像してブレーキに手がかかりそうになるが、
木村に勝つと決めた中井は前の経験をプラスにとらえエンジンを吹かす。
そのほんのわずかな差で中井が木村を制し勝者は中井となる。
帰ってきた中井に声をかける後輩達は
「中井さん、もう最後のカーブでエンジンかけるの止めて下さい」
と、本気で心配しており
「あぁ。そうだな…」
と呟くのが精一杯だった。
一方、木村は最後に負けた事が悔しいらしく、メットやバイクの座席を叩いたりと当たり散らしていた。
「何とか勝てたよ…」
中井が呟き、中井は先輩に花を添えられたと思うのであった。
そして中井の心臓の鼓動は落ちついていくのであった。




