中井凉一
Boom!Boowm!BoowwーーRuRuRuRuDooーーー!!
今宵、響き渡るは二人の放つマフラー音。
赤のナナハンにそっと手を添える中井凉一。夜間はツービームが車道を照らす。
1985年にスズキが手掛けたスーパースポーツ車。中井は細身だ。
中井は愛車から目線を変え3カ月前に台頭してきた物静かなスッとした目を持つ加藤浩一を見据えた。加藤はこの3カ月の間に中井と対峙すべく、4チームを傘下に持つ横浜ヘッドナイトにレースで勝利してきた。
どれもあり得ない速さで
中井は思う。俺だってヘッドナイトには勝ってきた。もっと早く昇りつめたい。
勝たなきゃいけない相手がいる。奴はいつも卑怯な駆りをする。…上に昇ってからアイツは何かを競うより何かを賭けなきゃ駆らなくなりやがった。…つまんねぇ!大きな後ろ盾を手にした男の駆りは、マジつまんねぇ…。
この加藤って男の話は1週間前に聞いたんだ…。
助けて下さい!ナナハンに幽霊が乗っているんです…
正直、背中が寒くなった訳じゃない。ピンと来たんだよ。アイツの、アイツが初めて負けを認める日が来るって…。
ヤマハを愛した伝説の先輩に花を渡せるって…。
だが、3日前にヘッドとしてこの加藤浩一って野郎を初めて自分の眼で捉えた時はゾッとしたね。
表情がない…。 嘘だろ? コイツまさか…?
どの言葉も自分の声じゃない気がして''恐ろしい''って思ってしまったんだ。目には力があるのにだ。その夜、久しぶりに…寝れた気がしなかったな。
ふと思ったんだ。俺の感じた言葉の中で、どれが一番強い言葉だったんだろうって。これを捜さないと加藤に負けるってな。
加藤のナナハンを後輩を名乗る男が持ってきた。加藤は後輩に声をかけ静かにありがとうと礼を伝えた。後輩はフルフェイスを頭からとり加藤の右手に移動した。
加藤のナナハンはホンダ社、1987製のF車だった。中井からは加藤のF車は左側面しか見えていない。後輩は電灯の光が届きにくく顔しか見えていなかった。
中井は思考を張り巡らせている。中井のチームのメンバーは5名。皆、口を開かなかった。これは中井の指示だ。チームメンバーには泣きそうになっている者もいた。噂が更に大きくなっていたからだ。
ヘッドナイトの負けた駆り屋が一人消えた…
中井のチーム名は非公表だった。
肩書きより実績。中井は常々この生き方を貫いてきた。信頼も厚い。社会に迷惑も掛けていない。人数はそんなに大きくなくて良いとお教えられていて、中井の気持ちもありそうしていた。
…。変だな。ナナハンを持って来やがった時に加藤の後輩は声を出していねぇ。小さな揺らぎだが、加藤は音の近づきで振り向いて後ろを向いた!テメェの愛車ならもっと早く後ろを振り向いてもいいんじゃねぇか!?
「あの…中井さん、すいません」
どうした?っといつもの様に中井は後ろを振り向いて後輩の顔を見た。
指示を出していたのにっとは中井は思わない。チームのメンバーの感情や気持ちを芯に捉えたいとの中井の心掛けからくる自然な反応だった。中井が後ろから視線を少し強く感じた瞬間に
「変だと思うんです」




