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第99回 とある地方都市にて




 ハビリスは成層圏上方の界面近くまで上昇していた。

 ここで機体の状態を確認する。


「ブースターのチェックは? 確認は終わった? そう、じゃあ、またブーストかけられるのね?」


『はい。再び高速移動が可能になりました』


「よしッ。じゃあ行きましょうか」


 Chimaeraは機体を傾ける。


『? どこへ行くのですか? 方向が違います』


「もちろん下へですよ。忘れ物をとりにいかなくっちャ」


『!? どういうことですか? 一度帰還するのでは…』


「ここまで帰ってきたでしョ? ここからまた行くんですよ。あッ、あいつに挨拶しておかなきゃですね♪」




--------------------------------------------------------------------------




『ビーム ハンノウ アリ! チュウイ! コウシュツリョク!』


「ええっ」


 何事かと甲太が思う間もなく、周りに次々と光の柱が三本突き刺さった。サンゴーが今いる場所を囲う、周囲の山々に落とされた。

 油膜に火がつくように、撃たれた地点から円心状に火が一気に燃え広がっていく。紅葉で染まる木々が、さらに鮮やかな輝きに上書きされていく。


「どういうことだ……」


 呟く甲太。 

 停戦に応じたばかりの相手にいきなり裏切られた。このビームは間違いなくハビリスのもの。

 そんな驚きと同時に、疑問が浮かんだ。

 これは何の為の攻撃?

 サンゴーグレートを狙ったものではないだろう。

 高高度から地表のロボットを撃つのは難しい、まず当たらないしビームが減衰してダメージにならない。

 地球人類に向けての攻撃だとしても、町ならともかく山を撃つというのは不可解だ。

 だとすると、考えられるのは。


「嫌がらせか… いや」


 サンゴーグレートと同調して回転が速くなってる甲太の頭が、敵の真の狙いを推察する。だが。


「あっ、あそこにも!?」


 見れば、30分程前まで甲太たちがいた山にも、火の手が回っていた。


「キ太郎…… ルード……」


 あの山の上には、コックピットを取られて動けないルードルフとキ太郎がいる。

 それにまだ、甲太を追っていた捜査員たちも残っているかもしれない。

 そうでなくとも、この異常な火勢を放っておくことは出来なかった。


「あ~、くそっ」


 甲太はサンゴーグレートを、燃え盛る山へ向け飛び立たせた。


 飛び立つサンゴーグレートが背を向けた方向の先に、街へと落ちていく火球が見えた。




--------------------------------------------------------------------------




「確かこの辺に……」


 街に降りたったハビリスは、何かを探していた。

 高高度から一気にこの街へ降り立ったが、先ほどの戦闘でサンゴーグレートにブースターを破損させられた影響で、僅かに進路が狂ってしまった。

 ただ目当てのものがある地点は、人工衛星のデータを漁って把握済みだ。

 乱雑に建つビル群を、ジャングルのようにかき分け、お宝を探す。


「おおッ。あれですね!」


 1区画ぐらい先に半壊したビルがあり、その積もった瓦礫の中に眩い光放つ巨大な金属の柱が立っていた。アポロンソード。

 ハビリスはこれを求めて来た。さっきイダルトゥの手から弾き飛ばしたものだが、その目を見張る威力に、後で回収しようと考えていたもの。

 段取りが変わり、一足早くこれが必要になった。


「これがあればあんな奴……」


 Chimaeraは機体を進ませる。

 そこで、000195000は異変に気付く。


『待ってくださいChimaera。なにかおかしいです。周辺にこの星のものではない物質の反応が───』


 だがすぐ目の前の宝剣に目が眩んだChimaeraは、細かいことは後と先を急いだ。

 すると、ハビリスの脚が止まった。

 急停止したことに驚くChimaera。


「え何? なんか引っかかった?」


『いえ… これは……』


 ハビリスの足を止められる強度のものが、普通の町にある筈がない。

 だとすると、これは。


『非常事態です… 特殊な線のような物が足に絡みついています。これは… この生成物は、商品のロボットが生み出したものです』


「罠ってこと? でもこれぐらい切れるでしョあんたなら」


 ハビリスが足を強引に上げると、引っ張られた線は千切れた。

 

「よし! 仕掛けた奴は後回し。さっさと剣を!」


『待ってChimaera! 恐らくこの一本じゃ───』


 000195000の言葉が終わらないうちに、ハビリスの横にあったビルから数本の線が浮かび上がり、ハビリスの腕にフワリと掛かった。


「え。これ…」


『上昇してください。急いで!』


 しかし遅かった。

 ハビリスの周りにある建物から同様に、線が次々に現れハビリスへ降りかかっていく。線は光ファイバーのように透明で、センサーにも引っ掛からないので、気が()いていたハビリス側はここに来るまで気付かなかった。

 四方八方から迫りくる透明な線は、ハビリスの巨体を包みその手足に絡みついていく。


「オートガードは!? 早く切っちゃってよ! 早く!!」


 Chimaeraの指示で、ハビリスは鉤爪を使って次々に線を切断していくが追いつかない。そうしているうちに、鉤爪を振るう腕にも線が絡まっていき、とうとう動きが止まった。それはまるで蝶がクモの巣にかかるようで───

 フワっと上から、まさにクモの巣状の網が降ってきて、ハビリスを完全に覆ってしまった。


「クソッ!! こんなの! こんなのォ!」


 ハビリスは全身に線を絡みつかせたまま暴れるが、不思議とその細い線は、ハビリスの巨体を、この場所に縫い付け逃さなかった。


『これは…』


 000195000は悟る。

 この無数の線たちは、この街のいたる所から伸びてきていた。ありとあらゆる箇所に結び付けられ接着されている。その片端がハビリスへと伸びて絡まっていた。そして線同士が絡まり、より合わさり、お互いを支え合っている。

 だから、どんなにハビリスが膨大なトルクで線を引っ張っても、線は無数の分岐で力を分散させ耐えることができた。曲芸師が自身の髪の毛を使って体を吊り下げるというものがあるが、一本一本にかかる力が分散されるので可能なのだ。それと同様に。

 この街の、ポストや電信柱や庭の木など様々な箇所に結ばれた線が、その全てで支え合うことによって、未知の巨大ロボットの動きを封じ込めていた。

 ハビリスは街の一角に、神秘の線「糸」で張り付けられてしまった。


「もう…! だれが… だれがこんなことォ……」


『あそこです! あそこに反応が…』


 モニター上のカーソルが指し示したビルの陰から、のっそりと歩み出てきたロボがいる。

 当然それはヘルメイアス。ゆっくりと車道の真ん中まできて、ハビリスの方を向く。

 無闇には近づかない。100mは離れた場所からハビリスと相対する。

 その腕にはアンテセッサーのビーム銃が抱えられていた。

 

「あれは… さっきいた奴…」


『あの機体は、職業体験施設に収める予定だったロボットですね。あれがこれまで、他の機体の修復を行っていたようです』


 000195000が指摘する中、そのロボットはビーム銃を持ち上げ、ハビリスに狙いをつけた。


「きっとここに来ると思っていたよ。あんたみたいな性悪の気持ちは判るんだ。…あたしがそうだから」


 クラウディアの声が響いた。




 これより前。街での人々の避難をあらかた終えたクラウディアは、急いでハビリスと戦うサンゴーグレートのもとへ援護に向かった。

 敵に見つからないよう、ヘルメイアスの身を低くし静かに進む。

 途中まできたところで2機の戦闘の様子が見えてきた。それは予想を大きく覆し、サンゴーグレートがハビリス相手に善戦するもの、それどころか一方的に翻弄し攻め立てていく様だった。


「すごい……」


 しばし、白金に輝くサンゴーグレートの戦いに見とれていたクラウディアだったが、突如機体を反転させると元来た街へ引き返していった。

 何か大事なことを思い出したように。




 そして現在、糸によりがんじがらめになっているハビリスと、そこへ銃を向けるヘルメイアスの姿があった。


「絶対その剣を盗りにくると思ったよ。コータにボコボコにされたあんたはそうするって。どうせコータを騙してここに来たんでしょ? 戦いは止めにしようとか何とか言って。でも残念でした。嘘つきのやることはあたしにはお見通しだよっ」


 クラウディアは強い口調で、ハビリスに投げかけた。

 000195000は、それを伝えるか迷う。


『こちらを侮蔑する言葉を発してきているようですが…』


「…いいよ。訳して」


 クラウディアの言葉が翻訳され、ハビリスのコックピットに流れる。


「ウソツキねェ… 動物を騙したって嘘にはならないんですよ?」


 Chimaeraは薄く笑う。

 身動きとれない中、銃を向けられているというのに、何故か余裕があった。

 向こうはこちらの急所を撃てない。それもあるが。

 相手の言葉に悪意を、憎悪を感じたから。

 相手はそれをこっちに全部ぶつけてくるまでは攻撃してこない、そんな気がした。なにせ相手は子供だ。子供がヒステリックに喚き立ててきてると思えば、可愛らしくさえ感じた。

 そんな余裕がChimaeraの眼を鋭くさせた。


「ねェ… あいつが持っている銃って… あいつのじゃないよね?」


『はい。最初に回収した機体の本来の付属品です。あれも職業体験施設で使われる予定の、小惑星採掘用のビーム機器ですね』


「そっか …… …… …… ……」


 Chimaeraは何かを考えている。


 沈黙のハビリスに、クラウディアは(あざけ)るように言葉を続ける。


「どうしたの? なんか言ったら? また嘘ついてきなよ、コータにしたみたいにさっ! まああたしには通用しないけどね。コータみたいにいい子じゃないの。普通の家に育ってないから。でもそんなあたしだからあんたを倒せる。みんなを救える!」


 そう言ってビーム銃を高く構える。


「どんなに科学が発展してたって、どんなにスゴいロボットを作れたって、あんたみたいに嘘つきじゃ意味ないね! 地球人より進んだ人間の筈のあんたが、あたしみたいなろくでもない人間に惨めに倒されるのよ! それは悪いことしたからっ、悪いことは自分に帰ってくるの! 自業自得だよっ!」


『クラウ、クラウ。少し落ち着いてっ。リラックスリラックス! 狙いをよくつけて。あいつの上半身に当てちゃダメだよ。脚を撃つの』


 ヒートアップするクラウディアを見かねて、ヘルメイアスが注意を呼び掛ける。


「っ……。うん。わかってるヘレン……」


 息を吐いて、照準を合わせようとするクラウディア。

 その眼前にブンと大きな立体映像が浮かんだ。


「なに?」


 ヘルメイアスとハビリスの間に、突如浮かび上がった立体映像。

 その画面には。


「ピータぁ!!」


 宇宙を背景にアンテセッサーの姿が映った映像だった。



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