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第3回 とあるコックピットにて

『私としては君がパイロットになってくれたら嬉しい。見たところ君は正常で善良な、この世界においての模範的な人間のようだ。私と私を内蔵する機械とそのシステムが、この世界で正しい振る舞いが行えるように、君の力を貸してほしい』


 なんかベタボメしてくれてるが。

 しかし流石に高校生ともなると、そう美味い話に易々とは乗れない。ホームルームでは様々な詐欺への注意が度々繰り返されている。

 そもそもこんな凄いロボットを作れるのは、大企業とか国の研究機関とかしかないだろう、それらが所有するロボを一時的にここに置いているだけだとしたら、そんなロボを勝手に乗り回してしまったらかなり怒られるんじゃないか。

 それだけでは済まなくて訴えられたりしたら… 本日2度目のそして警察へ… が甲太の頭に流れる。


「いやそんな無理だよ、今会ったばかりでそんな」

 

 恋話(こいばな)のような台詞を吐いてから、もっと早く聞くべきだったことを聞く。


「だいたいあなたは何なんですか? 誰が造ったんですか?」


『私は───ここではない世界で創られた ───マシンだ ───ちょっとしたハプニングでここに不時着した』


 ロボットは自分で自分の言葉を修正しながら喋っているような言い方をした。削除した部分を咄嗟に言いつくろっているような、歯に物が挟まったような言い方だが。

 話の内容に仰天した甲太には、気にしている暇はなかった。


「宇宙人が作ったってこと? えマジか!」


 “ここではない世界”から一足飛びに宇宙を連想する甲太。


「何星人なんですか?」


『───それを詳細に言うことはできない』


「いや信じらんないんだけど、なにか宇宙語喋ってみてよなんでもいいから」


 早口になってきた赤井手甲太君。


『───機密保持の観点からそれはできない』


「日本語上手だよね!」


『この地点から観測できる、あらゆる人工的な電磁波を傍受、解析しデータベースとした。この場所でその外観の君に対しては、日本国の言語が通じる可能性が最も高いと判断した』


「う~~~ん」


なんか言いくるめられてるような気がしてくる。


「何か宇宙のロボだって証拠ある? 何でもいいから宇宙のモノ見せてよ」


 全く専門知識のない甲太に宇宙のモノを見せても理解できないであろうが、ロボは返す。


『そもそも君が想像する宇宙とは───機密保持の観点からそれはできない。だが今まで見てもらっただけでもこの機体の能力は、地球にこれまで存在しない程度だと思われるが。どうだろうか』


 そう言われると確かにこれ程のものは、未だゲームかアニメでしか見たことがない。地球にも巨大なロボットのモニュメントが、あちこちに建てられるようになったが、透明になるものは無いだろう。

 しかし手に乗せてくれてコックピットまで運んでくれる位だったら、今の技術でも出来そうだ。


「こっから歩いてくれたらな~ そうしたら信じられるのに」


 少々挑発気味に甲太は吹っ掛ける。ロボットである以上、操縦席が光るぐらいでは認めてやらないんだぞと。


『歩くのは痕跡を残さずに行うのが不可能なので出来ない。今は。だが君の信用を得るためにやれることをやろう』


 そう言うと、コックピットの前面だけだった外を映すモニター表示が、部屋の横・後ろ・天井、さらには床にまで広がる。甲太は操縦席に座ったまま河原の傍に浮遊している感覚になった。


「うわあああ」


 こりゃ楽しい。

 ガラス製の吊り橋やエレベーターはあるけど、ここまで何の支えもない乗り物は他にないだろう。甲太は家電量販店でちょっと体験したVR映像に近いかと思った。それにしてもゴーグルが必要ないし鮮明さも肉眼と変わらない。

 ここまでやってくれるなら「信じたよ」と言ってあげてもいいかなと思う。「君の信用を得るために」なんて言われたことのない台詞に、すっかり気持ちよくなってしまったし。

 だが、空中に浮かんでる甲太は、さらに上に上がっていくのに気づく。微妙に揺れながら風船のごとく上昇している。


(ああ、そうか。立ち上がってるんだ!)


 最初、岩からこのロボットに飛び乗った高さからすると、ロボットは寝ころんだ状態だったに違いない。さっき見たロボットの頭の大きさから考えると、立った大きさは相当デカいものになるはずだ。そして操縦席はロボの胸部にある。

 その予測通り空に浮かんだ(ように中からは見える)操縦席は、かなりの高さまで上がり、止まった。マンションの上層階からの眺めのようだが、ここは山の中、周りの木々も山登りのときは見飽きるものだったが、上から見渡すと美しい景色だったと気づく。

 しかしマンションと違い、床が透けているので下が見えて怖い。操縦席からはみ出たら、そのまま地面まで落ちてしまいそうだ。

 これはロボットの全身に備わったカメラからの映像を合成したものなのだろうか。

 山々を俯瞰する眺めを堪能している甲太だったが、


(あ・あれ?)


 変化に気づいた。


(まだ上がってる!)


 近くの山の斜面がだんだん下にスライドしていき、下の眺めもどんどん小さくなっていってる。


 そして、浮遊しているといった状態から完全に、


「飛んでる?よ。これ!」


 とうとう山の高さを越え、元居た河原は模様にしか見えなくなった。


「こわいこわい!やばいこれこわい!」


 座席一つで空中に投げ出されている感覚の甲太が騒ぎ出すと。


『これで大丈夫かな』


 操縦席を中心として床が放射状に半透明になる。足場が出来た格好に一息つける。

 高度を上げ続けたクリアなロボットは、雲に届きそうな高さで上昇を止めた。


『軽量なガスや高温のエネルギーを使わずに重力から逃れる方法は、地球にはまだないと認識しているが、どうだろうか』


「もう信じる信じるよ。これは宇宙パワーだわこりゃー」


 体験のインパクトによって圧倒されてしまった。

 さてそうなると、先ほどの話。パイロットの件に戻る。

 宇宙(?)から来たという話は信じるとして、その証明で空まで飛んでしまわれると、かえって高性能ロボットすぎて敷居が高すぎるように思えてしまう。


「さっきのパイロットの話、ホント? ほんとにこれのパイロットにしてくれる気があるの?」


『勿論だ。先ほどと状況は変わらない』


 大空に静止し、地平の彼方を見回す甲太。ここからは遠くまで町並みが一望でき、自分の住む街も探せそうだ。

 普段景色の写真とか撮らない甲太でも、スマホを河原に置いたリュックの中に入れてたのが悔やまれるほどの眺め。


「これオレのカッコ、下から見えてないよね」


『ああ。光学処理によって、こちらからは見えるが向こうからは見えない』


 操縦席で、片膝を抱えて考える。


「もうちょっとこのロボット… 君のこと知りたいな」


『当然の権利だ。可能な限り要求に答えよう』


 そこで甲太は矢継ぎ早に質問をロボに投げかけてゆく。


「どこまで飛べるの。海外まで行ける?」


『地球を周回するのに制限はない。どこまででも行ける。ただし現在はパイロットがいないので、この地点より大きく動くことはできない』 


「クーラーとか付いてる? 南極とかで寒くない?」


『操縦室の温度管理は人間にとっての適温がオートで調節されている。パイロットになれば細かく個人用設定が決められる』


「武器はあるの? 悪の軍団と戦わなきゃいけないんじゃないの?」


『兵器として運用可能な装備に関わる情報はトップシークレットだ。パイロット以外に開示はできない。悪の軍団に関して言うならば、現在本機が継続的に交戦している国家及び団体はない』


 そのほかにも色々聞いてみたのだが、ロボの答えは大体パイロットになれば分かる、というものだった。

 そこには何が何でも搭乗者を得ようとする、隠しきれない強い意思が透けて見えるようで。ロボットに意思があるかどうかは謎だが。


 ロボとのやりとりに夢中になっているうちに、周囲の色が青から赤へ変わってきた。この高さから観る夕焼けは美しいの一語に尽きる。

 暮れゆく夕陽を見下ろしながら甲太は。


「もう帰らなきゃ・・・」


 夢から現実へと、心の中を調節する作業に入る。


『残念だな。君との時間はとても有意義だった。……今は心が決まらなかったかい?』


 優しい口調で語りかけるロボ。機体の高度がゆっくり下がっていく。


「う~~~ん。出来たら明日まで考えたいんだけど。ダメかな」


『勿論OKだ。そんなに深く考えてくれていることは嬉しい。感謝する。ただ……』


「ただ?」


『期限は長くとれない。この機体は相応しいパイロットが現れるまで秘匿しなければならない。君にはその資格があるのだが、決めるのに時間がかかり過ぎるようなら、機密保持のため機体を別の場所に移動させなければならない。そうなれば二度と会うことは出来なくなるだろう……』


 言葉の終わり、感情を込めるように締める。


「えっ・・・っちょ…… いつまでまってくれんの?」


『待てて二日後の日が沈むまでだ』


 焦燥感に包まれる甲太。なんで日が沈むまでという不明瞭な期限なのか、という疑問を差しはさむ余地も心にない。


「そっかぁ・・・ じゃ明日までに決めるよ…」


 期限を区切られると自由な思考が封じられるようであった。


 そこだけ色が付いたロボの掌に乗って、地上に降ろしてもらう甲太。

 地面に置いていたリュックを背負いながら振り向くと、ロボットはもう姿を消していた。コックピットがあった辺りだけがぼんやりと光っている。


「あの… 聞こえる!?」


 急に寂しくなって声をかけてみる。

 すると大きくないのにハッキリと判る音声が聞こえた。耳にだけ届く指向性の音のよう。


『大丈夫。聞こえているよ。大声を出さなくてもいい』


 今日味わったとんでもなく密度の濃い時間が、夢や幻ではないと確認出来て安心する甲太。

 呼びかけた以上は何か聞かなくてはと、用件をひねり出そうとする。


「そういえば君の名前はなんて言うの? 聞いてなかったよね?」


『今は地球人には発声の難しい形式番号しかない。パイロットが好きな名前を付けられる。君ならどんな名前を付けてくれるんだい?』


 それが決定打になった。



 山道はすでに夜に覆われていた。

 普段の甲太ならこんな暗い道、泣きそうになりながら恐る恐る歩くとこだが、今日に限っては早足だった。来るときに息も絶え絶えになった疲れもどこへやら、やるべきことを見つけたように家路を急ぐ。


(そういえば何でここへ来たんだっけ)


 と脳裏によぎったが、そっか楓がいたんだ、と思い出しそのままどうでもいいことのように忘れていった。



 家に帰った甲太は夕飯も自室に持ち込み、早速パソコンでネット活動に取り掛かった。

 帰るなりネットは何時ものことだが、この時ばかりは違う。彼はスーパーロボットの命名という、この世で最も重大な任務を帯びているのだから。

 ロボットらしい名前とは何ぞやと、ネット検索でざっと調べていく。

 気分の高揚もあって、あまり詳しく学習する気は起きない。大体のノリというか感覚を掴めればいいのだ。

 それにしても…… 世の中にはこんなにも大量のロボットが存在するのだなあ。日本人はどんだけロボットが好きなんだよと、驚嘆の念にかられる。

 これなら町中にロボットが歩いていても可笑しくなさそうなのにな。そういえば近所のファミレスには配膳用のロボットがいたな。

 でもあれ、声とデザインで可愛い子ぶってるけど、実際はただの動く棚だよな。

 現実のロボットはあんなもんだよな。と、これから自分の手に入るロボットの特異性に改めて思いをはせる。

 参考のために過去のアニメロボットを、画面をスクロールしながらざっと眺めていく。


「〈まくろす〉は飛行機に変形できるのか、〈ぼとむず〉ってのは小さいんだな」


 検索サイトのサムネイル画像を見ながら、なんとなくの傾向を掴んでいく。

 こうしてみると兵器として造られたロボットは、四文字くらいのシンプルな名前で、正義のために戦うヒーロ-タイプのロボットは、長めでゼットとかキングとかが付いている場合が多いようだ。

 河原のロボットは後者だろう。そうであってほしい。

 そちらの方向で探っていこう。

 自分のロボットになるのだったら何よりも最強でなければならない。

 甲太にとって最強とは何か。

 そういえば小学校6年だったかのとき「少年マンガで最強なのは誰か」という議題で男子10人ぐらいで議論、というかだべってたことがあったな。

 あのときの結論は、〈そんごくう〉こそ最強というものであった。

 相手がどんなにスゴい能力やパワーを持っていたとしても、〈そんごくう〉は地球ごと破壊できるから通用しない、という意見が説得力で優っていたのだ(男子には)。

 地球を破壊しても瞬間移動で自分は脱出できるとか、全宇宙の人間からパワーを取ることが出来るという点も高評価だった。(地球を破壊して逃げたり全宇宙からパワーを取ったり、どんなキャラだよという話だが)

 〈ゔぁにらあいす〉や〈ぱーぷるへいず〉が最強だという意見もあったが、分かる奴が少なかったため却下となったのだった。

 甲太自身は〈そんごくう〉を、昔ゲームコーナーでやったカードゲームぐらいでしか知らないが、自分の知識上最強の存在ということでこれをヒントに考えることにした。

 けれども問題は〈そんごくう〉を構成する字がカッコよくないこと。


「孫っておじいちゃんがいるの? 悟ってさとるか… これもおじいちゃんっぽいな。空… これぐらいか使えるのは。しかし孫が悟る空ってなに? お墓参り?」


 漢字からワードをとるのは諦めて、語感だけを活かすことにする。


 「サン、太陽。に向かってGOー。そしてグレート! これはロボットらしいんじゃないか?」


 夜遅くまで色々考えてひねり出したのが『サンゴー・グレート』。

 一機なのに3号?とか語呂が悪くね?とか、そういうのは決めた当人には分からないものなのだ。


「これはカッコいいな。あいつも喜んでくれるかな……」


 彼なりに頭を使ったので興奮も治まり、眠りに入ることができた。

 こうして甲太の普通の日常、その最後の1日が終わった。






※「敷居が高い」は本来の意味ではなく一般的な意味で使っています。


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