ラウル・ヘンドリック②
グレイルはラウルの2つ下の弟で、もうすぐ公爵位を継ぐ予定だ。
ラウルが嫡男から外れることを両親である公爵夫妻は止めなかった。
彼らもまた、リリスに罪悪感を抱いていたうちの一人だからだ。
公爵夫妻はラウルの婚約者だったリリスを気に入っていた。
だから、ラウルがリリスとの婚約を破棄した時はラウルをこっぴどく叱った。
それなのに、シルビアと会った瞬間から変わってしまったのだ。
公爵夫妻やラウル、使用人達全員でリリスの悪口を言ったりしていた。
弟のグレイルはそれが不快で仕方なかった。
「・・・グレイルか。」
グレイルはひどくやつれた兄の姿を冷たい目で見つめていた。
リリスは多くの貴族令嬢の憧れで、グレイルも彼女を慕ううちの一人だった。
だから兄や両親をどうしても許せなかった。
もちろんシルビアが魅了魔法を使っていたことは知っている。
しかしリリスが今までされてきたことを思うと到底許せそうになかった。
「父上と母上は・・・」
ラウルがグレイルに尋ねた。
「もうすぐ爵位を私に譲るそうです。義姉上・・・いえ、リリスのことで罪悪感を抱いているのでしょう。」
リリス。
リリスはもうラウルの婚約者ではないので義姉上と呼ぶのは間違っている。
彼女は貴族籍を抜け平民になっているのでリリス嬢と呼ぶのもおかしな話だ。
ラウルは改めて自分たちのしてきたことを痛感させられた気がした。
「・・・そうか。」
ラウルとグレイルの両親である公爵夫妻は穏やかな方だった。
政略結婚ではあったが仲が良く、互いに愛人を作ったこともない。
今思えばあの両親が何の罪もない令嬢の悪口を言うなどありえない話だった。
魅了魔法はその人物の人格すら変えてしまう。
なんとも恐ろしい。
「公爵家は私がしっかりと存続させますからご心配なく。兄上は領地で療養でもしていてください。」
「・・・」
グレイルはそう言い残して部屋を出て行った。
(あぁ、何もかも嫌になる。)
ラウルはリリスを心から愛していた。
もしシルビアに出会わなければ、今頃きっと最愛の人と結婚し温かい家庭を築いていただろう。
自分が不幸になったことよりも、自分がリリスにしてきたことのほうがラウルにとっては許せなかった。
リリスはもう別に愛する人がいるようだった。
ラウルは最後に見たリリスを思い出した。
自分たちのことなど眼中にもなく、新しい家族がいた。
(あぁ、リリス・・・。もし願いが一つだけ叶うのなら・・・もう一度だけ、君に会いたい・・・。)
ラウル・ヘンドリックは今も部屋で一人、孤独に耐えながら過ごしている―。




