ラウル・ヘンドリック①
ラウル・ヘンドリック
王国の筆頭公爵家のヘンドリック公爵家の嫡男であり、文武両道。
おまけに顔も良く、性格もいい。
同じ筆頭公爵家の令嬢を妻に迎え、幸せになるはずだった。
それなのに、どうしてこうなってしまったのだろうか。
ラウルは今ヘンドリック公爵領の邸宅にいた。
もう何日も外へ出ていない。
「リリス・・・。」
リリスとは彼の元婚約者の名前である。
オーギュスト公爵家の令嬢で、美しく聡明な人だった。
ラウルとリリスは政略結婚ではあったが彼は彼女を愛していたし彼女も彼を心から愛していた。
ラウルは初めて彼女と出会った日のことを思い出した。
目の前で美しく微笑むリリスに一目惚れしたのだ。
高位貴族なのに傲慢なところもなく、使用人たちにも優しく接する女の子だった。
それからは彼女を大切にした。
定期的にお茶をしたり、誕生日には必ずプレゼントを贈った。
それなのに・・・
どうしてこうなったのだろうか。
いつからリリスを疎ましく思い始めたのかわからない。
シルビアに初めて会った日だっただろうか。
血筋も容姿も教養も、全てにおいてリリスに劣る彼女に何故だか心惹かれたのを覚えている。
それからはシルビアしか見えなくなった。
シルビアを目の敵にするリリスが許せなくてきつく当たったりもした。
舞踏会のエスコートも最低限しかしなかったし、誕生日のプレゼントも贈らなくなった。
そして、ある日シルビアが泣きながらリリスにドレスを汚されたと訴えてきたのだ。
シルビアのドレスにはジュースがかけられていた。
その時には激しい怒りを覚えた。
リリスに婚約破棄を言い渡し、シルビアと婚約を結び直すことを決意した。
公爵家に帰って父と母にそれを伝えるとこっぴどく叱られたが数日後シルビアに会わせると「可愛らしい令嬢だ」とすぐに婚約を認めてくれた。
そして公爵家の人間全員でシルビアを虐げたリリスの悪口を言ったりもした。
だけど今考えればすぐに分かる。
リリスがそのような愚かなことをするはずがない。
嫌がらせをしていたのはリリスではなく、シルビアの方だったのだと。
むしろリリスが本当にシルビアに嫌がらせをしていたとしてもそれは仕方ないことなのではないか。
突然家にやってきた少女に家族を全員奪われたのだ。
彼女の絶望はどれほどのものだっただろうか。
いつからか彼女は笑わなくなった。
公爵邸で虐げられ、婚約者も彼女にきつく当たった。
シルビアはもちろん許せない。
だがそれと同じくらい自分も許せない。
ラウルは今完全に領地に引きこもっている。
(・・・もう誰にも会いたくない。)
そう思っていたその時―
コンコン
部屋の扉がノックされた。
開いた扉から顔をのぞかせたのは―
「・・・兄上。」
弟のグレイルだった。




