未だ知られない真実
秋真っ盛りになっても、幻想郷は暖かくなる。
桜が咲かないように、紅葉が紅くならないというわけではない。
そのせいか誰も異変だとは思わなかった。
しかしそんな中でも変わったことはあるものだ。
「今日の夕飯は何にしようかしら……」
霊夢は食材の買い出しの為に人里に来ていた。
八百屋で野菜を買っていると。向こうがざわついていた。
そちらの方へ行くと人が集まっていて真ん中に少女が一人いた。
「今は外来人に多く見られるポイ捨てをやめるべきです!物を大切に扱いましょう!!」
少女はしばらくの間、熱弁するが適当に流されてしまう。
「熱心なこと……」
悔しそうにしている彼女を関心の眼差しで見ながら霊夢はそう呟いた。
「買い物か?」
後ろから声がしたので霊夢は振り向いた。
「慧音じゃない。ええ、買い物よ。」
「買い物出来る程の金があったとはな……」
驚きの表情をする慧音に、霊夢はひきつった顔を抑えつつ答えた。
「失礼ね……ちゃんと最低限暮らしていけるくらいのお金はあるわよ。」
「………ホントか?」
「誰が貧乏巫女よ。」
「誰も言ってないぞ。」
「考えた。絶対今考えたわ。……ところであの子はいつもやってるのかしら?」
霊夢は悔しがるのをやめ、再び頑張って呼びかけている少女を指す。
「そうだな……毎日、気がついたらあそこで呼びかけをしている。」
「ふぅん……まぁ確かに一理あるわよね。」
霊夢は博麗神社に帰ってくると台所に行き、買ったものを置いた。
「霊夢?いるかしら~?」
居間の方から声がする。
声の主は紫だった。スキマから覗くような体制になっていた。
「いるわよ。何かしら?」
「宴会開きたいのよ。」
「今から呼ぶのかしら?めんどくさいわよ。」
「もう呼んだわ。夕方頃に集合って。」
「ぬかりないわね……」
「貴方だって食材買ってきたじゃない。」
「これは私だけの!!」
「今夜は旬な料理が沢山ね~」
「人の話聞きなさいよ。」
霊夢はそう言い、呆れた。
紫は別の場所からもう1つスキマを開き、そこから降りた。
「良いじゃない。ちゃんと皆には食材を持ってくるよう言ったし私もお酒持ってくるから。」
「……仕方ないわ。あいつは来るのかしら?」
「来るわよ。何やら守矢の神様が話があるとか言ってたし。」
人指し指をたてて紫は言う。霊夢はヤバイんじゃないかという顔で、
「………それフラグじゃないかしら?」
「なんで?」
「いや、あいつがホントの幻想入りをした時って守矢のところじゃない……」
「大丈夫よ。あの二人は“覚えているわ”。」
「………は?」
笑顔の紫に対して今度は意味がわからないという顔。
勿論霊夢は聞いた。
「………なんで?」
夕方になると宴会のメンバーが次々とやってきた。
龍二も先に来て宴会の準備を手伝っていた。
「悪いわね手伝ってもらって。」
「いつもの恩返しってことで。あの人の命令でもあるしな。」
龍二は霊夢にそうこたえる。すると後ろから誰かの声がした。
「藤崎君~♪」
「?」
聞き覚えのある声で龍二は後ろを振り向いた。
するとそこには懐かしい顔が笑みを浮かべて腕を組んでいた。
「………神奈子さん?」
「……こんなところで何しとんじゃいワレェ!?」
「ぐふっ!?」
溝ではなかったが、神奈子の右ストレートが見事龍二の腹に命中した。
「ちょ……ていうか何で覚えてむぐ!?」
「何で覚えて?スキマ妖怪があんたがやること教えてきてくれたからあたしらも例外にさせに行ったんだよ!!」
今度は龍二の顔をギュッて掴みながら、神奈子は少々キレ気味で答えた。
「アンタ……自分がやった事がわかってるのかい?」
「す、すいません…でした。」
「よろしい。」
神奈子はそう言い龍二を放す。そのまま龍二は力尽きたかのように床に倒れた。
(良いんだ……)
霊夢はそう思ったが思っただけだった。
「で、要件は……?」
倒れた状態で龍二は聞く。
「ああ、なんか最近早苗がやたら昔の事を聞いてくるから……」
「昔の事?」
霊夢が繰り返し言うと、神奈子はうなずいた。
「なんか、三日前に修学旅行の時のことを夢で見たんださ。」
「修学旅行!?」
龍二も三日前に同じ夢を見た。正確には、早苗の修学旅行であって、それでも龍二は三日前に見たのだ。
偶然同じ日に同じ夢を……龍二は思わず驚いた。
「修学旅行って、この前あんたが言ってた……?」
霊夢がそう聞くと、龍二は頷く。
「俺も三日前見たんだ……」
「龍二が?……そういえば、早苗が昔あんたに会ったとか言ってたわ。偶然にしては、気味が悪いね……」
最後にそう呟いた神奈子。
しばらく間が開き、
「まぁとりあえずそれを伝えにきただけ。とりあえず、今は少しだけ警戒ということであまり気にすることはないかしらね。」
龍二にそう告げた。
「わかった。とりあえずそうするとして……早苗は今日来てるのか?」
辺りを見回しながら龍二は聞く。
「今日は来てない。この状況でもしあんたに会ったらややこしくなるし、何故かあんたについてというか……あんたが関わる昔の事を考えると頭痛がおきるらしい。」
「頭痛?」
「ええ。なんだか『藤崎龍二に関しての知識や記憶』のみぽっかり盗まれているみたいね……」
「俺の事だけ……まさか、」
龍二がそう言い、神奈子の方を見ると神奈子は頷き、話を続ける。
「おそらく、いいや絶対東條雪菜の所為ね。」
(確か、ロストメモリーと呟いていた……あの技か?)
2人が話してると再び霊夢が割り込んできた。
「とりあえず、宴会もそろそろ始まるし、続きはまた今度にしたら?」
「そうね。後日またうちに来なさい。早苗は基本神社にいるから“あの湖”でね。」
龍二は頷く。
あの湖という意味も分かったのだ。
そして三人は、宴会の座席へと向かった。
「何の話をしてたのかしら?」
「別に……」
紫に聞かれたが龍二は適当な答えで流した。
(そういえば、神奈子はなんで雪菜のことを……話したっけ?そういえば確か早苗が……にしては随分と詳しそうだったな……)
何より龍二が一番気になったのは、神奈子が雪菜の事を話すときだけ表情が変わっていた。
自分のことのように話していたのだ。
(……今度聞いてみるか。)
「……!………二!龍二ったら!」
「え?あぁ悪い……」
考えることに集中していた龍二は紫の呼びかけに遅れる。
「そんなに考えることで?」
紫は少し笑みを浮かべて聞いたが、そこも龍二は適当に流そうとする。
「いや、何でもない。」
「つれないわね……どうせ東條雪菜のことでしょう?」
「どうせとはなんだ。」
「間違った?」
「いや合ってるけどさ……」
そして少しため息をつく。
紫はそんな龍二にそういえばと呟いて、
「なんで貴方は彼女の話になるとそんな真面目になるのかしら?」
「真面目か?」
「ええ。」
「……あまり気にしたことはないな。ただ、何か忘れている気がする。ついこの間は殺すなんて言ってたが―」
「思念体とわかった以上殺すことは出来ない。」
続きを言った紫に龍二は頷く。
「てか、せっかくの宴会なんだからのんびり飲ませてくれ。」
「あらそう?じゃあごゆっくり。」
微笑みながら紫は席を立ち、どこかへ行った。おそらく霊夢のところだろうが……
「はぁ……なんか疲れた……」
そう龍二が呟くと、横に少女が一人座った。
「酒を飲んでないのにですか?」
「いや、最近ちょっと体が鈍ってるだけかもな……」
「ちゃんと修行しないからですよ……ちゃんと鍛錬を怠らずにしてくださいよ。というか私が誰かわかって話をしてるんですか?」
「犬走椛。」
龍二は横目を見ず、ただ前の盃を見てただけで当てた。
声でわかったみたいだ。
「覚えてたんですか。」
「忘れはしねぇよ。雪菜の一件はアンタのおかげでもあるからな……」
「……見た目もですが、性格変わりましたね龍二殿。」
「そうか?椛が変わらないだけなんじゃないのか?見た目も性格も。」
椛を見て龍二は言う。
「ここ最近はちょっといろいろあったからな……特にここに来てから。」
「そうですか……なら今度、妖怪の山に来ませんか?滝のところに私はいつもいますので。」
「仕事か?」
「手伝ってくれるのも有難いですが、たまには将棋でも。」
「お前には絶対勝てる気がしないよ。」
苦笑いでこたえる龍二に椛は微笑みを浮かべ
「まぁ暇な時に来てください。いつでも待ってますので。」
「わかった。」
「あ、椛こんなところにいたんですか。」
突然声がする。
その方向を見ると顔が少し赤い文がいた。
「懐かしい顔がいたので。」
「見た目も変わってんじゃないのか?」
「青い髪に青眼」
「え?」
「貴方の特徴ですよ。特定の種族にしかない特徴ですから。」
「それでわかるのも凄いけどな……」
「でも勝手にうろちょろしないでくださいよぉ~私の椛なんですからぁ~。」
甘えるような態度で文は椛に寄りかかる。
「ちょ……文先輩!?」
(完全に酔ってるな……)
龍二はそう思いながら退く準備をした。
「じゃあ後はお二人で……」
「え、りゅ…龍二殿!?」
デレる文から逃れようとする椛を後に他の場所へ移動した。
「あいつらも相変わらずだったな……」
移動しながら龍二はそう呟く。
妖怪は人より寿命が長いものが多い。
彼女達も天狗という妖怪な為、寿命が長く成長や老いも遅い。
それに比べ半人半妖の龍二は単純に考えれば人間と妖怪の間。
彼の場合は成長の早さが人間で寿命そのものは妖怪なのだ。
しかしあくまでも半妖。妖怪ほど長生きすることは出来ない。
龍二にとって3年は大きく変わるのも、彼女達にとってはそこまで変化が起きない期間だ。
「大丈夫か?」
そう言いながら龍二は霊夢に水を渡す。宴会はお開きに近くなっていた。
「あんた……恨むわよ。」
水を受け取ってから龍二を睨む霊夢。
つい先程まで霊夢は紫に捕まっていた。理由は勿論、酔っ払った紫が霊夢を襲っ……捕まえたのだ。
そして霊夢は抱き枕にされていたのだが、誰も気づかず、気づいた龍二も気づかないフリをしていた。
「あいつに逆らったら俺の首が飛ぶ……」
「アンタの首なんか……飛べばいいのよ!!」
「……なんだ、お前も酔ってるのか?」
見ると霊夢の顔は赤くなって目もたれ目になっている。
「うるさいわねぃ!よ、酔ってなんか……ないわよ!!」
(酔ってるじゃないか……)
ため息をつく龍二。
「何よ……ため息なんかついちゃって……」
「何でもないさ。」
「嘘だ!なにかしら考えてるでしょ!何も出来ないくせに!」
「はぁ?俺だって必死なんだよ!」
思わず少しキレ気味に言ってしまった。
そして同時に、霊夢が何か違うことに気づく。
「…何も出来ないくせに………誰も守れないくせにぃ……」
「…………霊夢?」
「ヒグッ…アンタが弱いから……“靈夢”が……」
(???)勿論、その言葉に龍二は引っかかった。
(靈夢って……お前じゃないれいむがいるのか……?)
そのまま泣いてしまった霊夢を見ながら龍二は考える。
(靈夢って……誰だ?)




