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不撓不屈の勇者の従者  作者: くろきしま
第2章 三者三様奇想曲
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第4話 食事する時はお行儀よく食べましょう。

 風呂をあがり、俺達は宿を出て食事処に向かっている。


 皆が着ていた服は洗濯中。

 今着ている物はサカモトが用意してくれた。


 俺の服は既にボロボロだった為、残念ながらごみ箱行きとなった。

 ……すまん、ボルカの爺さん。


 皆それぞれ軽めの装いで、レイラと俺は腰に帯剣していた。


「日が落ちたっていうのに賑やかなもんだ。どこの町もこんななのか?」

「流石にいつもって訳じゃないよ。ほら、勇者宣言あったじゃない? その影響かな」

「色んな町でお祭り騒ぎなのです」

「騒ぐ口実が欲しいだけの気もするがな」


 そういうステラもイースラも自然と頬が綻んでいる。


「南側に美味しい店があるんだよ。レイラ様嫌いな食べ物あります?」

「…………だぃじょぅぶ」


 レイラはまた俺を盾にして隠れてしまった。

 この子は一体どうしたんだ?

 サカモトはサカモトで「まいったなぁ」と苦笑いを浮かべていた。


 店に入ってからもレイラはまるで借りてきた猫のように大人しい。

 食卓を囲んでいるのにまるで葬式のように空気が重い。

 美味しい匂いがしてるのに……。


「レイラ……その態度は駄目だ。料理を不味くする。それでも村一の給仕係か?」


 俺としては皆で食事を美味しく頂きたいと、ただそれだけだったのだが、他の皆から非難の目線がこちらに向いた。


「イクス、あまりレイラを責めるのは酷な話だ」

「お兄さん……ちょっとあんまりなのです」

「へ?」


 意外な事にステラもイースラもレイラを擁護した。


「考えてもみるのです。本人の意思ではないとはいえ、レイラ様はサカモトさんを襲ったのですよ」

「……あ」


 忘れてた。

 そう言えば村でレイラっぽい何かがサカモトを見るや否や、殺そうと襲ったのだ。

 でもそれはレイラ自身の意思ではなかった。

 だから俺もそこまで深刻に受け取らなかった。

 でもそれは間違いだ。


「サカモト君……ごめんなさい」


 レイラは頭を下げた。

 レイラっぽい何かがサカモトを襲った時の事を、レイラは覚えていた。

 レイラの中でその時の出来事が『経験』として残っていた。

 だからレイラは居た堪れない様子だったのだ。


 サカモトはレイラの肩にそって手を添えて返した。


「……受け取ります、その謝罪」

「良いのか?」

「良いんだよイクス。でも水には流せない。怒っていないし、恨んでもいない、怖い……は少しある」


 でもね、とサカモトは言葉を続ける。


「何故って気持ちが凄く強いんだ。これが分からないとレイラ様がボクを襲った事は水に流せない」


 やっぱすげぇよサカモトは。

 それが俺の素直な感想。

 命狙われて、危うく殺されそうになったのにコイツは『怒っていない』『恨んでいない』とさらっと言って退けた。

 自分には到底真似できない。

 ……出来なかった。


「ごめんなさい。……分からない。意識はあったし感触も残ってるけど、『アレ』が何を考えて動いていたのか私には分からないの」

「まぁ……町の入り口で会った時に予想はついたけどね」


 ……レイラの様子がおかしかったのはその時からか。


「またサカモト殿を見て、襲いかからないかレイラは恐れたのだ」

「ボクも少しヒヤヒヤしたのです」


 マジかぁ……気付いていなかったの俺だけかぁ……。


「僕としては是非その何故を知りたいんだけどね、分からないなら仕方ないよ。だからレイラ様もあまり気落ちしないで、可愛い顔が台無しだよ。あとついでによだれも」


 レイラは涙と鼻水とよだれをサカモトに拭いてもらった。

 そんな諸々台無しなレイラとサカモトの男前っぷり通り越した『何か』は、傍目からは男女のそれよりも兄妹というほうがしっくり来た。


「僕はシリアスって苦手でね、まずは美味しい物でお腹を満足させよう」

「やったのです! ようやく食事の時間なのです」

「ふむ、何を食べれば良いか迷うな」

「好きなもの食べると良いよ」


 サカモトが気軽に出したこの言葉。

 この時、俺達は勘違いをしていた。

『好きなもの』を『好きなだけ・・』と。


「「「「すいませーん、ここからここまで!」」」」

「ちょっ――――」


 とりあえずこの店の品目全種完食を目指した。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 食べきれないと思った?

 残念、完食でした。


 俺もレイラもステラもイースラも、貪欲なまでに料理を綺麗に平らげた。

 俺たちに比べてサカモトは少食なのか、さほど食べていないように見える。


 森での生活で、俺達は食事の有難味をこれでもかと言うほどに味わった。

 食いたい時に食えるとは限らない。

 一日に出会える動物には限りがあったし、食える野草も分かる範囲でだとこれもまた限りがある。

 七日間の生活のほとんどが野草だったし、辛うじて獲れた肉も皆で分け合い骨までしゃぶった。

 人は空腹だと力が出せないと学んだし、ステラは空腹に負けて齧った野草が毒草で腹を壊した事もある。


 俺達は学んだ。

 食える時に食っておけ! と。


 周囲の人間が異様な目でこちらを見ているが、俺達はそんなの気にしなかった。


「すげぇ、あれだけ豪快に食っているのに散らかしてねぇどうなってんだ!?」

「おい、片付いた皿を見てみろ! ピッカピカになってるぞ! 舐めてねぇのに!」

「おかしいだろ! あの子供はもう自分と同じくらいの量を食べたぞ!」

「ねぇ味わってる? あんな食い方で俺の料理ちゃんと味わえてる?」


 そんな声も遠くから聞こえて来ていたが、なおも食事が止まる事はなかった。


「「「「ごちそうさまでした!」」」」


 その一言の後、何故か拍手喝采を受けた。


「美味しかったのです! ボクは骨つきのやつが一番齧りがいがあって好きなのです!」

「私はステーキだな。まさに王道。ナイフのひとなでで断ち切れ口の中で溶けていった」

「私は煮込みかな。とろっとろで美味しかったぁ〜」

「俺はこの香草焼きだな。肉の臭みと香草の癖の強い香りの相乗効果で堪らなく美味しく感じる。こんな旨味は初めてだ!」

「は、ははは……楽しんでもらえたようで何よりだよ……はぁ」

「お腹いっぱいなので眠いのです」

「じゃあ宿に戻ろうか」


 そうしてサカモトは支払いに席を立ち、俺達も立ったところで声をかけられた。


「やぁお嬢さん達、良い食いっぷりだね」

「まぁね、食べれる時に食べないといざって時に力でないもの」


 冒険者風の男が話しかけてきた。

 だが粗野な感じはせず、立ち振る舞いから育ちの良さを感じる。


(……軍人? ……ぽくもない。貴族?)


 イクスは男を警戒したが、レイラは物怖じせずに返していた。


「随分とご立派な剣を下げているのを見ると、君達は冒険者なのかい?」

「え? 違うけど」

「え? 違うの!?」

「だって私はゆ――――」

「故あってこれから冒険者になるのだ。貴殿も冒険者なのかな?」


 すんでのところでステラが割って入る。


(レイラ! 今自分が勇者だって言おうとしただろ!!)

(……あ!)


「俺はまぁ似たようなもんさ。けれどどうしてこんな田舎に?」

「いきなり随分と根掘り葉掘り聴くものだ」

「君達のように綺麗な女性を知りたくなるのは仕方ないさ」


 ぉひぅおぃぉ!?

 やべぇ、聞いていて鳥肌立っちまった。

 ってステラさん? 何満更でもないって顔をしていらっしゃるのですか?


「ふむ、まぁそういうものか」

「田舎とはいえ、夜が深ければ危険もあるから声をかけさせてもらったけど。余計な御世話だったみたいだね」


 そう言って男は俺に目を向けた。


「俺?」

「服装はそれほどでもないですが、下げている剣は一級品だとすぐ分かります。平民を装ったどこかの貴族様とお見受けしますが?」

「まさか、俺は正真正銘平民だよ。ついこの間まで畑仕事とか木を伐採してた」

「ハハっ、お戯れを。平民風情がそれだけの一級品を持つ事などありえませんよ」

「本当だよ。ついこの間までイクスは呑んだくれてたもんねぇ」


 レイラの言葉に男は凍りつく。


「……本当に?」

「私たちまだ『冒険者』でもないし、ねイクス」

「あ、あぁ」


 俺は何か不穏な雰囲気を感じながら相槌した。


「……そうですか。皆さんは明日もこの町に?」

「ま、まぁ今日来たばかりだからな」

それは良かった・・・・・・・。明日は祭りです、どうぞ楽しんでください」


 そういうと男はそのまま出ていった。


「皆、支払い終わったよ。どうしたの? さっきの人と話してたみたいだけど」

「あ、いや……」


 俺は男が出て行った方を見る。

 ……何もなければ良いんだけどな。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「あ、戻ってきた。アルベルト君どうしたの? 先に店を出てろって」

「ノノン様……不埒な輩を見つけました」


 アルベルトは先ほどの店にいた不埒者について語った。

 明らかに不釣り合いな一級品の剣を下げていた事。

 彼らは平民であり、恐らく本当の事だという事。

 平民がそんな武器を持てるのは『奪ったから』以外になく、十中八九賊の類だという事。


 アルベルトがノノンに説明していくにつれ、彼女の表情はどんどんと呆れたものに変わっていく。


「あのねぇ……君はノノンの『護衛』なんですけど?」

「ですが、見過ごす事は出来ません」

「じゃあどうするの? 自警団に通報する?」


 地方の町には自警団という民間警備組織が存在する。

 王都の騎士団の数ではこの町まで手が回らないからだ。

 王都は幾ばくかの経費と減税処置をダシに、こうした田舎の町に自警団を作らせたのだ。


 本来であれば、そういった面倒事は自警団に丸投げするに限る。

 だが目の前にいる男、アルベルト・ロブネスは首を縦に振らなかった。


「いえ、相手は前衛職二人と精霊術師、自警団では恐らく太刀打ち出来ないでしょう」

「ねぇ……聞くからにメンドイんですけど。明日の興行に影響出さないでよね!」

「ノ、ノノン様……大丈夫です。何せ今は――――」


 淡白なノノンの言葉に力が抜けるアルベルトだが、何とか持ち直して不敵に笑う。


「祭り、なのですから」


 ノノンは何が大丈夫なの? と全く理解できなかった。

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