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不撓不屈の勇者の従者  作者: くろきしま
第2章 三者三様奇想曲
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PROLOGUE2

ひっそりと再開

よろしくお願いいたします。

この世界は灰色で出来ていた。

狭く、平坦で、変わらない。


ただひたすら同じ日々を繰り返し続ける。

ただひたすら平坦な日々。


この頃を思い返すとゾッとする。

この狭い世界に何の違和感を感じずに過ごしていたのだから。


良く言えば穏やか……そう、そんな日々に満足していた。

満足出来なくなったのは……やっぱり彼のせいだ。


優しくて、太陽みたいな笑顔で手を引いてくれた少年は、


怠け者で、毎日呑んだくれるダメダメな人間になっていたけれど……。


でも村の誰かが困っていると自然と助けてくれる彼。


皆は怖がっていたけれど、私はそんな彼に惹かれていた。

この胸に灯った感情を自覚した時、私の世界は確かに色付き始めたのだ。


そして閉じた世界は開かれた。

森の木々は舞台幕のように開かれ、踏み出した一歩の向こう側には広大な景色が待っていた。


もう、元の世界には戻れない。

既に私の世界は拡張してしまった。


行き当たりばったりだった食事。

後先考えない状況。


整備されていない悪路さえ楽しくって仕方なかった。


何もないのに……。

ご大層な皮だけの空っぽの自分。


それでもこの空っぽの中身が、いつかは満たされると信じた。

守れなかった故郷があった。

守りたい仲間が出来た。

守って欲しい人がいた。


皆で過ごした時間は今も輝き煌めいて、かけがえないものだった事は間違いない。


間違いだったとするならば……



私が勇者になった事が既に間違っていたのだ。



戻れない。

私はもう、戻れない。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



コツコツと静まり返った中で、己の足音だけが響く。

仄暗く、人の手が入っていない岩壁の通路の先に、家が一件丸々入る程の空間が広がっている。


もっとも、人が隠れ住んでいるわけではない。

そこにあるのは家ではなく祭壇だった。


天井には門と鍵を拵えた印が刻まれ、中央に向かって土が凸の字に盛られている。

その中心には黒いローブの人間と巨大なクリスタルが鎮座していた。


地面には溝が掘ってあり、その溝は至る所に伸びている。

溝を目で追っていくと、空間の四隅が起点になっているのがわかる。


四角い空間の四隅には篝火がパチパチと燃え、橙色に辺りを照らしている。

その篝火の側で鎖に繋がれた裸体を晒す女達が、お互いを庇い合うように身を寄せていた。


囚われの身となってどれほど経ったのだろう。

艶を失ったボサボサの髪、悪臭漂う垢まみれの肌からして昨日今日ではない。

だが誰も気に留めはしない。

陽の光さえ届かないこの場所に限って言えば、時間という概念は稀薄なものとなっていた。


女達は身体を震わせ、その目には怯えの色で染まっている。

鎖で繋がれ逃げ出す事が出来ない女達は、ここで何が行われてきたのかを知っている。


その瞳で、耳で、鼻で、既に味わっていた。


だがそれは表面上の事でしかない。

より根元、根本的な恐怖。


それは生への執着だ。

つまり、彼女達は未だその境遇に陥っていても、未だに生きる事を諦めていない。


実に素晴らしい。


かくも人間は素晴らしい。その魂に賞賛を送ろう。

例えそれが無駄だとしても、無意味だとしても。


例えどのような事が起ころうと、それ等に抗う術を彼女達は持ち合わせていないのだとしても……。


女の誰もが現れた私を罵倒しない。

ただ恐怖で歪み、息を荒げ、唸りながら私をただ見る。

それだけが彼女達に許された意趣返しとでもいうように。


私は彼女等に笑顔を返し、規則正しい歩みを崩さずに空間の中央に進む。


「お待ちしておりました町長」


男を出迎えた者は黒いローブを被り、顔には女性の笑顔を模った奇妙な面を付けている。

とても人を迎える格好ではないが、私達にとっては瑣末な事だ。

現状の声も姿も性別も、私達にとっては意味も価値もないものだからだ。

一言で済ませるならば探求心。

それこそが私達を繋ぐ絆であり、思想であり、理念なのだ。


恭しく出迎えたその者にゆっくりと近づく。


「調子が良さそうで何よりだ」


町長と呼ばれた細身の男だ。

鼻の下に髭を蓄え、身なりの良い服を着ている。


「えぇ、虫食い状態の外典もあなたのお陰でここまで形に成りました」

「偏に君の献身的な探究心の賜物だ。誇ると良い」


お面を付けた人間は気恥ずかしいのか、身をよじり悶えながら振り返り、空間の中央に鎮座する巨大なクリスタルに寄り添い頬磨りする。


「一つ懸念が生じた」

「――――なにか?」


町長の言葉に頬磨りしていた人間の首がぐりんと回る。

正確には振り返っただけなのだが、その動きは人のそれではなかった。

遠くで女性の悲鳴らしき声が届くが、気にせず続ける。。


「東方の森の奥で太陽が昇った。アレは天族と勇者のみが扱える審判の炎だ」

「……勇者宣言から日が経っていないはずでは?」

「時期的にほぼ同日に起こった事だ。そもそも宣言自体に意味はない。本来であればもっと『馴染む』まで時間がかかるはずなのだが……」

「何かあると……これまでの勇者宣言と何か違うと?」

「例え何かがあるとしても、『運命』が絡んでいるのであれば結果はこれまでと同じはず。問題はその過程に我々が呑まれるやもしれん」

「ならばいっその事、我々で『勇者』を使いましょうか」


町長の言葉にお面の者は、まるで些事であるかのように軽く返した。


「自分で言うのも何ですが、妙案では? 勇者ならばきっと気に入ってくれる……むしろ僥倖? あぁなんという思し召しか!」

「……まぁ君がそれで良いというのなら私は構わんよ」

「えぇ、えぇえぇえぇそうですとも! もうすぐです。もうすぐ……」

「私も楽しみだ。君の願いはもうすぐ叶う」

「えぇ、是非特等席にて御照覧下さい! オーラフ町長!」


オーラフ町長と呼ばれた男とお面の者の不気味な笑顔が鈍く響いた。

不定期更新になりそうですが、続けてまります。

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