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不撓不屈の勇者の従者  作者: くろきしま
第1章 村娘が勇者になったので、従者として一緒に旅に出るようです。
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第25話 村人と言うには腕が立つ

丸々一週間投稿できませんでした。 申し訳ございません。

夜にまたもう一本上げられたらと思います。

ましたが、熱が下がらないので休みます。

不定期になってすいません。

 黒い全身鎧の男の首を撥ねるため、イクスは剣を横に振るったが、寸でのところで妙な違和感が全身を走った。


「……なんだ今の」


 馴染みのない感覚にイクスは戸惑う。

 全身に風が肌を撫でたかのような奇妙な感触に鳥肌が立つ。


『どうやら始まったようじゃの』


 背後から声をかけられた。

 イクスは振り返るまでもなく、声の主が誰だか見当がついていた。


「ば……かな」

「やっぱり生きていたな爺さん」


 そこに立っていたのはボルカだった。

 黒い全身鎧の男の声が震えている、よほど信じがたい光景のようだ。


『いやぁ死んだ死んだ。まさか精神世界まで越えてくるとは思わなんだのぉ』


 手をパタパタ振りながら、事もなげに言うボルカにイクスと黒の全身鎧の男は困惑する。


 ボルカもそんな二人の様子を察するが

『竜脈にとって肉体は滅んでも魂は消えないんじゃよ。それよりも――』

 そう言いながら自らの朽ちた身体を指さす。


 その身体は金色の粒となって村に向かって飛んでいく。


『どうやら村で何かあったようじゃな。それもかなり悪い意味で』

「……なに?」

『ワシの死骸は濃厚なマナの塊じゃからな。誰かがワシのマナを使って何かしようとしているようじゃ』

「……さっきの魔族か!?」

『たかが犬っころに使うマナの量じゃないのぉ』

「……ちっ!!」


 イクスは弾かれるように駆けだし、迷う事無く斜面に向かって飛び降りた。


『まったくせわしない奴じゃのぉ。別れの言葉も告げられんかったわい……さらばじゃイクス。シュメラの子よ……』


 まるで霧が散るかのように、ボルカは姿を消した。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「…………」

『見逃して……もらえた?』

「……言うな」

『でも……動けない』

「……言うな」


 結局黒の全身鎧の男、ガベルトは死ぬことはなかった。

 取るに足らないと思われたのか、自分達の存在を忘れ去られたのか……どちらにせよ、屈辱的な事には変わらない。

 未だ身体中にべっとり付いた竜の血が、結晶化したせいで身動き一つ取れないでいた。


「随分面白い事になっていますねぇ」

「っ!? 何故……貴様がここにいる!!」


 ガベルトに声をかけたのは、村に向かっているはずの魔族、イシャルタであった。

 イシャルタは恭しくお辞儀をすると満面の笑みで言葉を続けた。


「この度は私事ながら退職することに致しまして、あなたには帝国に戻った際にその旨伝えてもらいたいのですよ」


 イシャルタはそう言うと影からヤカンを取り出すとガベルトにお湯をかけた。


「竜の血には高濃度のマナが含んでいます。体外に流れ出ると大気中のマナと反応して結晶化しますのでお気をつけ下さい」

『今……それを言う』

「んふふふふ、一度結晶化してしまうとこれがなかなか取れません。マナとマナが強く引き付け合っているからです。そこでこのヤカン、なかのお湯にはマナが含まれております。これかけるとあら不思議! マナが再度引き付け合おうとして緩くなるではありませんか! さぁこれであなたは自由の身です。これと共に帝国にお戻り下さい」

『ダメ……全然人の話を聞いてくれない』


 イシャルタから渡されたのはボルカの核であった。


「影の中までは察知されなかったようで幸いでした」


 これほどまでに高揚しているイシャルタを見るのは初めてだったが、次のガベルトの言葉を聞いて顔色を変える。


「悪いが私は帝国には戻らない」

「……まさかまた挑まれるとは言いませんよね?」

「おめおめと帝国に帰れるわけなかろう!」


 その言葉を聞いた瞬間、イシャルタの顔から笑みは消えた。


「あなた程度ではあの御方にいくら挑もうと無駄ですよ」

「…………なに?」

「あの御方の前ではあなたは赤子同然、魔槍をもってしても勝つ事は出来なかったでしょう?」

「っ!!…………その貴様の心酔ぶり、何を知っている」


 ガベルトの言葉に過去の光景を思い出したのか、イシャルタは頬を染めて再度昂ぶりをみせる。


「知っている……えぇ知っておりますとも。この二年あの御方と出会うために帝国におりましたから」

「帝国を利用していたのか!?」

「互いの利が一致していたという事でございます。帝国より西に栄えていた国を覚えていますか?」


 イシャルタから投げかけられた問い、ガベルトにとってその答えは容易なものだった。


 ザゥルカ。それが答えだ。

 ヴァルスティンが『法と神聖の国』、帝国が『暴力と秩序の国』と呼ばれるように、ザゥルカにも通称があった。


 悪逆と狂気の国。


 奴隷や娼婦を見世物にし、人身売買が大通りで行われていた。

 帝国を始めとした周辺諸国からどれだけ非難を受けても改める事は最後までなかった。


 ガベルトはかつて、帝国の将としてザゥルカを攻める作戦を考えた事があった。

 ザゥルカは広大な砂漠に囲まれた国だ。

 オアシスも限られており、結局補給路が形成出来ないという理由から諦めたのだ。

 攻める事も、攻められる事も難しいとなれば、軍を動かす選択は出来ない。

 ガベルトだけではなく、帝国の組織全体の判断として奴隷達を見捨てるという結果となった。


 だが、二年前。

 突如ザゥルカは滅亡したと報せが入った。

 調査隊を編成し向かわせ、その報告に耳を疑った。

 ザゥルカの民は全滅、女子供に老人、成人分け隔てなく無残に殺されていたというのだ。

 生き残りは発見できず、専門家からは魔獣の襲撃があったのではないかと挙がったが、肝心の魔獣の死骸が一つも無かった事から否定された。

 民家に損傷がほぼ無かったが、王城と闘技場は完膚なきまでに破壊され、奴隷の死体が極端に少なかった事から奴隷の一斉蜂起ではないかという結論に至った。


「……ザゥルカが滅んだのは必定であった……まさか、あの少年は奴隷の一人なのか!?」

「奴隷の一人? あの御方は確かに当時奴隷として闘技場で弄ばれていましたが……分かりませんか?」

「……確かに、村の少年にしては腕が立ちすぎるが……何が言いたい?」

「はぁ……もう良いでしょう。このままではあの御方の勇姿見損じてしまいますので……ごきげんよう。陛下にはよろしくお伝えください」


 そういうとイシャルタはガベルトの制止を無視して影に溶けた。


 その場に残っているのはガベルトと一振りの槍だけ。


『おにぃ……どうする?』

「……帝国に戻ろう。そして、ザゥルカの事を洗いなおす」

『……気に、なるの?』

「私達は強くならねばならない。その為の一端が二年前のザゥルカにある……そんな気が……アイオン」

『ん……なんかいる』


 一難去ってまた一難。

 いい加減うんざりしてくるガベルトだったが、ここで多少の憂さを晴らすのも悪くないと思い直し、アイオンを構えた。


「出てこい」


 昇った太陽の光に淡く照らされ、薄明かりだがまだ暗闇が支配している夜の山に、ガリガリと不気味な音が響いているのが分かった。

 音の方に注目すると、崖下から何かが這い上がる音だと気づく。

 やがて手が見え、ボサボサの髪の女が姿を現した。

 地面を這いずるその姿は土塗れで、眼は据わっている。

 フラフラと立ち上がるとただじっとガベルトを見つめている。


「…………」

「村の人間か? こんなところで何をしている」

「私を連れて行きなさい」

「……なんだと?」

「私は勇者。帝国へ私を連れて行きなさい!」

「…………」

『あ、おにぃが狼狽えてる。今日は珍しい日』


 この日、ガベルトが最後に出会ったのは悪霊のような自称勇者だった。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 薄明かりに照らされた山を一つの影が駆け下りる。

 足が地面に触れる瞬間、足先だけの力で弾けるように反発し、その度に速度と滞空時間は伸びていく。

 駆け下りながら村の様子を見て見ると、太陽に見間違うほどの丸い火の玉から無数の糸が影狼を絡みとっていくのが見えた。


「なんで魔物を……あれは魔族じゃない……ステラか?」


 実際にはステラでもあの規模の魔法は行使できないのだが、あいにくイクスは他に心当たりを知らなかった。


 だがそんな考えも次の瞬間消え去る事になる。

 無数の糸が今度はサカモトの方へと伸びていたからだ。


「っ!?」


 イクスはさらに速力を上げた。

 ようやく村まで辿り着き、転がってる石を拾い上げて太陽に向かって投げた。

 イクス自身、これで太陽をどうこう出来るとは思っていない。

 そもそも考える余裕がなかった。

 出来るか出来ないかではなく、どうにかするという一念でのみ石を投擲した。


 結果が出るよりも先にイクスは次の行動を起こしていた。

 山から下りてきた速度は、まだ死んではいない。

 イクスは剣を抜き放ち、サカモトへ伸びる全方位の糸を断ち切っていく。


 前方から後方、後方から左、左から上空を経て右、そしてまた後方と一息の間に駆け抜けながら次々と糸を切り刻んで行った。


(切っても切ってもキリがない)


 イクスはもう一度投擲すべく、落ちている石を拾い上げる。

 が、ようやく最初に投げた石が功を奏したのか、上空の太陽は崩れ始め、サカモトに伸びた糸も光の粒になって消え始めた。


 ステラやイースラが唖然とするなか、イクスはサカモトに声をかけた。


「なぁ、これって一体どういう状況なわけ?」


足首を挫きました。

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