第13話 竜の試練を越えて
「おいこら、いつまで死んだふりしてるんだよ」
げしげしと、倒れて動かなくなった古樹竜の顎を蹴りつけている。
大丈夫、まだイースラが掛けてくれた神聖術の効果時間内だ。
「ねぇイクス、そんな死体に鞭打つ行為は良くないと思うわ」
「あの程度で死ぬほどやわじゃない! というかなんで『お前達』戻ってきたんだ!?」
申し訳なさそうに岩陰から二人の影が出てくる。
「ばばばバレてるのです!?」
「う、む」
もちろん、先に行ったはずのイースラとステラだ。
「わ、私達は止めたのだぞ。だが振り切られてしまってな……」
「……ったく、怒るのは後だ。それよりも、こいつが大人しくしてるうちに仕留めないとな」
「お、怒られるのは確定なのです?」
「無抵抗の竜を仕留めるなんて……可哀想って一瞬思ったけど、考えてみたらイクスが殺されかけてるんだから、そんなの塵一つ残しておけないよね」
「レ、レイラ様……目から光彩が消えて怖いのです」
「そもそもコレは本当にどうこう出来るのか?」
ステラの言うことも一理ある。
さっき変にテンション上げて殺す気満々だったけど、今考えると困難に思える。
「確かに。塵一つ残さないというのは冗談として、皮の強度もだが再生力が尋常じゃないからな。俺が出来た事と言えば鱗を剥ぐのと目を潰した事ぐらいだ」
「お兄さんがしたことは十分異常なことなのですよ」
「だが、それもあの再生力の前じゃ無意味だったな」
イクスが指差したところには既に新しく生え変わった鱗があった。
「目も潰したけどあっという間に再生しちまった」
「じゃあ、どうしよう……」
皆腕を組んで考える。
レイラが何か思いついたのか、それを口にした。
「玉取っちゃう?」
「「「たま?」」」
「ほら、猫ちゃんや犬ちゃんに時々やったりするでしょ?取っちゃった後って大人しくなったりするじゃない?」
「「あぁ……」」と二人が納得する。
男の身としては、なんとも複雑ではあるんだが……。
「そもそも、これって雄なのか?」
「雄よ」
間髪入れずにレイラは答えた。
「なんで雄だと分かるんだ?」
「……見たからよ」
「……おまえ」
正真正銘の命を懸けた局面でなにしてんの?とは口に出来なかった。
流石に恥ずかしくなったのか、レイラは顔を背けた。
「コレが雄だとして、どうやって取るかだが……潰しても再生しそうだよな」
「ステラのさっきのトゲトゲの魔法でなんとか出来ない?」
「刺してもすぐ回復すると思うのです」
「それはこう……空からフォークみたいなのを一杯ザクザクザクってやればポロッと……ね?」
ね?じゃねぇよ!!
世界中のどこを探したってそんな恐ろしい去勢みたことないぞ!!
「い、嫌だ!! わ、私の魔術をそんなお下劣なことに使いたくない!!」
「えぇ、でも他に方法はないし……ねぇお願いステラ! ほんの少し! ちょっとだけ! ちょっとザクポロしてもらうだけだから!」
レイラが手と手を合わせ頭を下げる。
前にサカモトに教えてもらった所作だった。
見事効いたのか、ステラは口ごもり始める。
……押しに弱いのか。
「し、仕方ない。今回だけ――
「仕方なくないのじゃぁああああああああああああ!!」
「「「「!?」」」」
突如、古樹竜が叫んだかと思うと、その身体が輝きだした。
その発光はすぐに止み、辛うじてその光から目を庇うことができたイクスは目を見張る。
一方三人は光にやられたらしく、三者三様に悶えている。
結果的にその事が幸いとなる。
「……爺さん?」
目の前には竜の姿はなく、代わりにその場所にはボルカの爺さんが立っていた。
全裸で。
仁王立ちで。
ニヤつき、若干頬を染めていた。
「よし、その姿なら殺すのも簡単そうだな」
「開口一番がそれか!?」
「嫌ならさっさと服を着ろ。……こいつらにその汚物を見せる前に殺すぞ」
自然と声が平坦になった。
ぶるっと爺さんは震えると、光の粒が集まり服になった。
服とは言っても一枚のでかい布を巻きつけたような格好だ。
ヒルマティオンとかいう大昔に流行ったやつだ。
「つまらんのぉ、これで満足じゃろ?」
「一々人をイラだてないと気が済まないのか? 俺を丸焼きにした事はまだ許しちゃいねぇぞ」
「小僧……」
悲しそうに目を伏せる爺さん。
「おぬしも裸同然なんじゃが……それは良いのかの?」
「……………………あっ」
すっかり忘れてた。
「――てっ、元々はてめぇが焼いたせいじゃねぇか!」
「かっーーーー細かいことをグチグチと!! ほれ、これでも着ておれっ!!」
そういうと空中に手を突っ込んで上着を引っ張り出し、それを放り投げてきた。
「……なにも着ていないよりはマシか」
爺さんが放り投げてきた上着は焦げ茶色をしたジャケットだった。
…………上半身裸にジャケットってどうなんだ?
「あぁ、まだ目がチカチカす――なにそのエロい格好!?」
「くらくらするの……で……す――」
「くっ、不覚を取るとは……ふむ、品のなさが逆に尊さを高めている……実に良いな!!」
目が眩んでいたのが治ってきたのか、三人が立直る。
俺は立ち直れそうもないがな!!
「まぁ立ち話もなんじゃ。ワシの巣に来るといい」
そういうと、ボルカの爺さんを先頭にさらに上へと向かった。
2017/07/31 一部修正




