その名はルミナス、あるいはリナ
魔導兵器の爆煙が立ち込める戦場。しかし、そこには死体も血の海もなかった。
あるのは、心地よさそうにいびきをかいて眠る人間軍の兵士たちと、それを唖然と見下ろす魔族の兵士たちだ。
「……ふぅ。これでよし。セレス、フィア、お願い」
ペールミントの髪をフードの奥に隠し、リナ・ルミナスが天を仰ぐ。
すると、彼女の影から二体の巨大な影が立ち上がった。
山のように巨大な、白い毛並みのペールドッグ・セレス。そして、宝石のような瞳を持ち、音もなく地を駆けるペールキャット・フィアだ。
セレスが遠吠えを上げると、柔らかな光が戦場を包み込み、兵士たちの精神的な痛みを「癒やし」、深い眠りへと誘う。一方でフィアは、その巨体で傷ついた兵士を優しく掬い上げると、放たれる光で致命傷を瞬時に「治療」してしまった。
「お疲れ様。……二人とも、ありがとう」
リナが呟くと、二体の巨獣は光に包まれ、手のひらサイズにまで小さくなった。セレスはリナの足元に擦り寄り、フィアは彼女の肩に飛び乗る。
「おいルミナス!またこんな回りくどい真似を!」
黄金の鎧をギラつかせたレオナールが歩み寄ってきた。
「俺様の剛剣で一薙ぎすれば一瞬で塵になったものを! 貴様はいつもいつも、眠らせるだの運ぶだの、女々しいんだよ!」
リナはフードを深く被り直し、感情を殺した声で短く答えた。
「……効率を考えただけ。死体が増えると病気が流行る」
「フン、相変わらず可愛げのない奴だ。だが……」
レオナールはリナの顔を覗き込もうと、ぐいっと顔を近づける。
「前々から思っていたが、貴様、そのフードの下……実は、ものすごい面長でブサイクな男だから隠しているんじゃないか? 腕っぷしは認めるが、男なら男らしく堂々としろ!」
「……レオ様、嫌い」
リナは冷たく言い放つと、眠った人間たちを魔法で浮かび上がらせた。
彼らを「敵本部の近く」まで、こっそり送り届けるために。




