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線路の上の約束 ― 出発進行の朝に ―  作者: リンダ


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民事判決の瞬間

78 拒否


民事判決が出た瞬間、世界が整うわけじゃない。

むしろ、世界はぐちゃぐちゃになる。


判決文には、はっきり書いてある。


「被告らは、連帯して金五千八百万円を支払え」


連帯。

つまり、七海側から見れば――

“誰が払ってもいい”ではなく、全員が払う義務を負う。

払わなければ、差し押さえが来る。


でも、加害者側の家族会議は、法律とは別のところで燃え上がった。


「払う必要あるの?」

「うちは、そこまでやってない」

「撮ったのはあっち」

「煽ったのはあっち」

「男は、利用されただけ」


“責任の押し付け合い”が始まる。


そしてその中で、最も強く拒否の色を出したのが、笠木孝介の家だった。


79 孝介の家――「女子に唆された」


孝介の父は、弁護士事務所から戻ってくるなり、吐き捨てた。


「馬鹿馬鹿しい」

「孝介は、唆されたんだ」

「主導したのは女の方だろ」


母も頷く。

目が乾いている。泣き疲れる前に、怒りだけが残っていた。


「そうよ」

「女の子たちが勝手に暴走したんでしょ」

「孝介は……巻き込まれたのよ」


孝介は、黙っていた。

黙ったまま、スマホを握りしめている。

その沈黙が、“認めたくない”という意思だけを外に出していた。


父はさらに言う。


「女子の家族が全責任を負えばいい」

「うちは、払わん」

「払うなら、向こうが払った後に考える」


母が言葉を重ねる。


「だっておかしいじゃない」

「うちまで家を売れって?」

「孝介の人生が終わるのよ?」


“終わる”。

その言葉が出た瞬間、孝介はピクリと肩を動かした。


でも七海の人生は、もう終わっていた部分がある。

夜が壊れて、学校が壊れて、体が壊れて――

それを作ったのは誰か。


孝介はその場で、初めて小さく言った。


「……でも俺、金のこと送った」


父が睨む。


「黙れ」

「言うな」

「向こうの弁護士に、そんなこと言ったら終わりだぞ」


母が言う。


「そう」

「余計なことは言わないで」

「“唆された”で通すの」


孝介は口を閉じた。

閉じたというより、閉じさせられた。


80 “払わない”という宣言が、刃になる


拒否は、法廷の外でしか通用しない。

判決は判決だ。

履行しないなら、強制執行が来る。


茂の弁護士は淡々と言った。


「支払い意思がないなら、執行手続を進めます」

「資産調査を行い、預金、不動産、給与、動産――差し押さえの対象になります」


それでも、孝介の父は言い張った。


「勝手にやれ」

「うちは悪くない」

「悪いのは女の方だ」


その言葉が、別の火種を生む。


平田家に伝わる。

鎌田家に伝わる。

市田家に伝わる。


そして“家族同士の戦争”が始まる。


81 加害者家族同士の崩壊


平田沙代里の母が怒鳴り込む。


「ふざけないで!」

「孝介くんが一番、中心だったでしょ!」

「最初に声かけて、引っかけて、金の話までして!」


笠木の父が怒鳴り返す。


「黙れ!」

「お前ら女がやりすぎたんだ!」

「殴ったのは誰だ!」


沙代里の母の声が裏返る。


「殴れって空気作ったの誰よ!」

「“晒すぞ”って言い出したの誰よ!」

「金持ってこいって、誰が送ったのよ!」


鎌田家は青ざめる。

市田家は泣き出す。


“誰が悪いか”は、もう分かっているはずなのに、

家族はそれを認めた瞬間に崩壊するから、認められない。


責任を背負う=自分の生活が終わる。

その恐怖が、家族を嘘に追い立てる。


そして最悪なのは、

この争いが“被害者の前ではなく、加害者側の都合のために”起きていることだった。


七海の痛みは、議題にすら上がらない。


82 七海側が見る“拒否”の正体


七海は、その話を弁護士から聞いた。

孝介側が「女子に唆された」「女子側が全責任を」と言っている、と。


七海は、静かに笑いそうになった。

笑えるはずがないのに。


「……唆された?」

「じゃあ私は、誰に唆されて殴られたの」


咲子が言った。


「七海、聞かなくていい」


七海は首を振った。


「聞く」

「こういう人たちがいるって、知っておく」

「これが現実なら、現実として、止める仕組みを考える」


茂が言った。


「拒否しても、払う義務は消えない」

「差し押さえになる」

「それだけだ」


七海は頷いた。

感情は燃えているのに、声は冷えた。


「じゃあ……やってください」

「履行させてください」


83 “払わない”が招く、もう一段深い崩壊


拒否は、家族を守らない。

拒否は、家族をさらに壊す。


差し押さえが現実になれば、職場に連絡が行く。

口座が凍る。

カードが止まる。

家賃が払えなくなる。

引っ越しが必要になる。


そして何より、兄弟姉妹が折れる。


「なんで私まで」

「なんで俺の進学が」

「なんで家が」


答えは一つしかない。


“軽い気持ちでやったこと”が、家の基礎を抜いたからだ。


孝介の家は、その入り口に立った。


「女に唆された」という言葉は、

責任を逃がすための言葉で、

その瞬間、家族は“責任を果たす家”ではなくなる。


責任から逃げる家は、

責任によって追い詰められ、

最後には、責任に飲まれる。

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