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其処に草が生えている 緑之章—踏み潰す—  作者: 宮林 實
第四章『希望の先へ』
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第四章『希望の先へ』(6)

 *


 次に衝動が来れば絶対に殺そうと、心躍らせていた。やっと人を殺せる。

 すぐに“衝動”がやって来た。不良仲間の増田(ますだ)という男だった。

 少し前から家の事で悩んでいると相談されたのだ。


 放課後、マンホール近くの校舎裏に呼び出し、地面に倒して雑草で身体中を徐々に締め付けて苦しませながら殺した。

 そのまま死んだ増田をマンホールの穴に押し込むように投げ落とした。一瞬で増田は見えなくなった。落ちた音もしない。蓋は完全には閉めず、十センチほど開けた状態で閉めた。 


 全て拓実の思い通りになるのだ。

 実際、行方不明だという噂は流れたが、不思議なほどおおごとにはならなかった。いつの間にか退学になっていて、増田の存在は完全に消え失せた。


 増田を殺してから約一ヶ月が経った頃、告白をしてきた女に“衝動”が来たので、周りには内緒で付き合うことにして、校舎裏でじゃれ合いながら雑草で骨を砕きながら殺した。


 引き摺ってマンホールまで持ってくると、増田の時のように投げ入れた。

 やはり落ちた音はしなかった。拓実は前回のようにマンホールの蓋を少し隙間を開けた状態で閉めた。


 その時、

「——ねぇ、何してるの?」

 背後から声がした。


 心臓が止まるかと思うほど焦った。

 まさか誰かに見つかってしまうなんて——この不思議な力は気のせいだったのかと——なんて言い訳すればこの場を切り抜けられるのかと——様々な感情が渦巻いたまま、拓実は振り返った。

 振り返った先にいたのは、同じ学年の塚川雄一(つかがわゆういち)だった。


「…………」

 塚川雄一。

 成績優秀で人当たりも良く、正真正銘の優等生だ。中間テストも期末テストも全教科ほぼ満点で、その上スポーツ万能の、まさに完璧な存在だった。

 不良はおろか、こんな優等生に見られてしまったなんて終わりだった。


「こ、このことは言わないでくれ」

 それくらいしか言える言葉がなかった。

 ここで雄一を殺せば解決するのではないかとは思った。でも今の状況では力は使えない。

 もう素手でどうにかするしか……一か八かマンホールに入れてみるか——。

 すると雄一は、ニコリ、と笑った。


「僕は五十嵐君をどうこうするつもりはないよ。むしろ感動してるくらいさ」

 一瞬、雄一の言葉が理解できなかった。


「……感動だって?」

「だって君、一ヶ月前もここで増田君を殺して落としていたじゃないか」

「なんで——」

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「僕は君の力に興味がある。だって殺しても公にならないんだよね? それってとてもすごいことだよ」

「すごいこと……?」

 雄一は嬉しそうに頷いた。

 そしてゆっくりとこちらに近づいてくる。


「僕は常々、人の心を痛めつけて殺したいと思っていたんだ。でも無暗に殺してしまうと逮捕されてしまうだろ? それだけは避けたくてさ。どうしようか悩んでいた時に、ちょうど五十嵐君が殺していたところを見たんだ。五十嵐君の周りにはなんの気配もなかった。在るのは草木だけだった」


 雄一は拓実の目の前で立ち止まった。

「ある意味、五十嵐君は絶対的な存在なんだよ。世間では良いと思われていないことでも良いことにできる」

 真っ直ぐこちらを見ながら、雄一は続ける。

「五十嵐君の力の事は誰にも言わないからさ、その代わり人を殺す時は僕も呼んでくれないかな?」


「…………」

「困ったことがあれば協力するし、どうかな?」

「それは……」

 頭がうまく回らない。殺したいと思っていた? 絶対的な存在?


「ちなみに僕を殺そうとなんて思わない方がいい。僕は君をすぐに殺せる力くらいはあるから」

 今まで笑顔だったのに、すっと笑みがなくなり、無表情になった。

 冷たい、情のない、暗い瞳。

 雄一は、拓実の知らない“何か”を持っている。

 拓実の力は今後も絶対に雄一には発動しないだろう。そして殺さないにしても、この提案を拒否することはできない。拳を握ると手汗が噴き出していた。


「……分かった。殺す時、塚川も呼ぶよ」

 気づけば、そう言っていた。


「ありがとう。君と(えん)があって良かった。これから宜しくね」

 そう言って、雄一はまた、ニコリ、と笑った。



 *



 目覚まし時計が鳴った。

 拓実はベッドから起き上がった。今日はなんとなく目覚めが悪い。

 煙草が吸いたくなってベランダに出る。

 朝一で吸う煙草は美味かった。目覚めの悪さから少し解放された。


 昔の夢を見た。今更どうという事のない過去の出来事だ。

 拓実にしてみれば、人を殺す快感を味わうことができれば、細かいことはどうでもよかった。

 最初、雄一に畏怖の念を覚えたのは事実だが、今となっては雄一がいてくれて良かったと思う。


 雄一と出会ったことにより、学校の外で殺しても見つからない確信のある場所が見つかりやすくなり、行動もしやすくなった。死体を消せる場所も何度か変わっていった。現在はあの雑居ビルだ。

 それに拓実だけが異常ではないという安心感もあった。


 だから今回の敵の存在が自分のように世間から逸脱した存在だったなら、仲間になれるのでないかと思った。ただそれを言えば雄一は嫌がるだろうとも思う。

 何にしても、拓実にはその敵を探すことはできないので、どうすることもできなかった。


 煙草を吸い終え、本格的に出勤の準備を始めた。

 いつものように拓実は完璧に身だしなみを整え、いつものように職場へ向かった。



第四章『希望の先へ』【完】

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