伝えられるなら
ブランカはのんびり過ごしていた。ここのところ神からの時渡りの事案もない。
二ヶ月後に控えた学園への編入のためロイエンタール辺境領から先日帰ってきたばかりだ。ロイエンタール辺境伯である祖父と伯父の家督の擦り付け合いは最後まで決着はしなかった。呆れる女性陣に促される形で辺境領を後にした。
ダンジョン攻略中は神の呼び出しが出来ない場所だと理解するとブランカはジオンとの逢瀬をダンジョンで楽しんだ。
ブランカにとって大切な旦那様であるジオンは姿こそ変わってしまったが、中身は変わりなかった。
ブランカは、全てを諦め命が尽きるのを受け入れていた少女を思い出す。心が本当に折れてしまうまで懸命に生きたオーレリィこと、本物のブランカ・ロイヒシュタイン公爵令嬢。虐待に近い扱いを受けながら受けていた教育の記憶が鬼姫ブランカをこの世界で生きる術となっている。
ロイエンタール辺境領から帰って直ぐに第四王子と対面する予定が組まれていたのには驚いたが学園でいきなり会うのよりは良いことだと納得していた。しかし、デイビスは来なかった。学園の生徒会の仕事が忙しいと言う理由で。その頃の彼は聖女に傾倒しすぎて、彼女の仕出かした事件の後処理に追われていたので多忙と言うのは嘘ではない。デイビスのドタキャンに対しての
王家からの謝罪と祖父母の怒りを収めるのに苦労したが、いずれ学園で出会うのだしそれで良いと返事した。
その上でブランカは国王に不敬を許すとの言質をとった上で言ってのけた。
「デイビス殿下のこれまでの失態は聞き及んでおります。学園での成績は良いようですが、殿下が学園で何とかなっているのは優秀な生徒会メンバーのお陰でしょう。挙げ句、聖女なる女に現を抜かし、聖女を増長させ、本性も見抜けずにいたためにミューゼル伯爵子息を危うく呪い殺すところでした。ハッキリ言って不良品を押し付けられたとしか思えませんわ。なので、デイビス殿下との婚約は了承出来ません。」
デイビスと婚姻する場合、彼は王族から抜けて公爵家の婿となるが当主となる訳ではなかった。あくまでもブランカの補佐をする婿としての立場となる。偽ブランカとジオンとの婚姻の条件とはかなり違うものであることの説明も対面の時にされる予定だった。
「王家の持つ爵位でも与えて臣下とすればよろしいのでは?それに、この婚約は、側妃様が魅了の術を使って陛下と宰相閣下を騙して成立させたものだと聞き及んでおります。」
ブランカの発言に戦く面々。ジオルグはジオンに目をやる。弟はニコニコ笑っている。
「何処でその情報を?それにいくら許可が出ているとはいえ、余りにも不敬ではないですか!」
目くじらを立てて怒っているのは宰相補佐。
「ブランカ嬢は元を正せば私の婚約者だ。偽物との婚約は破棄されて当然だとしても本物の公爵令嬢との婚約なら私に意義はないのに、陛下も宰相も勝手に婚約を無かったものにしてしまった。」
「ジオン?お前は納得していたではないか。」
「偽物との婚約破棄はね、ブランカ嬢は本人の預かり知らぬところで苦難に満ちた生活をしていた。偽物だと、ロイヒシュタイン公爵家と言う名家か被った不名誉を王家が庇わなくてどうします。」
ロイヒシュタイン公爵家が当主亡き後、伯爵家の婿に過ぎなかった男に好き勝手されて乗っ取られ、本物の令嬢は傷物にされたとの噂が社交界に流れているのを王家も把握はしていた。その上で元々のジオンの婚約者と言う立場からあまり評判の良くないデイビスを宛がった王家はロイヒシュタイン公爵家を見捨てたとの見立てもあった。
後で文句を言っても公爵家の責任はありませんよとの文言も書かれている。
婚約破棄、解消、白紙の条件とやらも然り。側妃マリアナの独断による婚約に対して公爵家がこれ以上の苦情を申し立て出来ないよう、王家にとっての不良債権を引き受けて貰うための策だった。
しかし、この婚約も現在は根本的に見直しされることが有力となってきた。
まず、覚醒したと言っていいジオン第三王子のブランカは嫁発言。
前世の記憶が何たらと宣う彼の発言を聞いた王家の面々を混乱させたこと、王城に上がったブランカとジオンがそれはもう初々しいほどにいちゃついて周囲を驚かせたこと、その様子を見たブランカの祖父母達がデイビスとの婚約に異議を唱えるようになってきたことなどが上げられる。
特に本物のブランカと気付かず苦労をさせてきた祖父母は彼女を溺愛しているのだ、しかも、ここに来て和解したとも言われる辺境伯からも婚約の見直しについて発言があった。
で、トドメが聖女の存在である。先月まで学園に通っていた聖女は学園に混乱をもたらしデイビスを初めとした生徒会メンバーを篭絡した。その結果、貴族の重鎮と言ってよいミューゼル伯爵家嫡男に多大なる悲劇をもたらした。デイビスは悲劇の事件が起こるまで聖女を厚遇し他の特に貴族令嬢からの苦情を聞いた親からの嘆願書が王家に出されるまでとなった。
デイビスは事件を知っても聖女を庇う姿勢を見せていたため、このままでは、ダメだろうとの声も多くあり婚約をどうするかはブランカに委ねるとした。
万が一ブランカがデイビスを選ばなければデイビスは王家の所有する領地の一部を貰い受けるが原則一代限りの公爵位を与えられ後の子達が引き継ぐのかどうかは、次期国王となる王太子ジオルグが決定することとなる。以上のことが決められた。