恋の熱量=∞
テーマ【熱】
「あなた、私と結婚しなさい」
急にそう言いだす貴女。
僕は戸惑い返事ができずにいた。
「私を二人目の嫁だと思いなさい」
妻がいる僕の事情を知ってか、貴方はそう付け加える。
それでいいのか?
と、僕は心の中で笑ってしまった。
しかし、貴方の表情は真剣そのもの。
僕は顔には出さず、返事の言葉を慎重に選んだ。
「○○さんのことも好きだけど、僕は妻を裏切ることはできないよ」
そう、僕は95歳の患者に伝えた。
車椅子に座らされ、僕と一緒に歩く練習をしている。
僕は先生、貴女は患者。
「そう、それは残念」
さして残念そうでもない貴女は、再び立たんと足に力を入れる。
そう返答されるのをわかっていたかのよう。
慌てて僕はそれを介助する。
二回りも、いや、五回り以上年上の女性からプロポーズされるとは思っていなかった。
貴女は95歳になるのに、厳しいリハビリを乗り越え、再び一人で歩こうと努力している。
そんな熱量はどこから来るのだろうか。
「今の奥さんに飽きたらいつでもいいな。返事を待ってるから」
そう言う彼女は、ふらつきながらもしっかりとした足で廊下を歩いていく。
その瞳は恋する乙女そのものであった。
皺は深く刻まれ、腰は曲がり、乳は垂れ、足腰はおぼつかなくとも、貴女はまだ【女】であった。
その熱量が僕にはまぶしく、かけがえのない物に感じた。
「まったく、かなわないな……」
僕は貴女の後を追いかける。
せめて、貴女がふらつかないで歩ける様になるまでは、貴女のそばにいられるようにと。
【読了後に関して】
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