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ABYSSの終焉

 無駄なことなんてない。


 ひとが、ひとを殺すという負の連鎖。


 それを、肯定してはならない。


 でも、起きてしまったその連鎖に意味を持たせるならば……。


 僕たちは、二度と同じ過ちを繰り返さないと。


 被災した全ての命に、約束することだろう。




「アスマ! 裏切るのか!」

アスマが、ミサイル粉砕のためレーザーを放ったんだ。僕はそれを見て微笑んだ。

「アスマ……ありがとう」

「まだ、決めたわけじゃない」

「うん」

僕は自分のコックピットに戻った。そして、空へと飛び立つ。そのまま、カトレリーに向かっていった。

 バルスターエンジンという、機動力が上がるエンジンを搭載した僕のアビスは、高速でカトレリーを捉えた。

 カトレリーがカッターナイフをこちらに向けて投げてきたのをすぐさま察知。それをミサイルで撃ち落すと、すぐさま僕は相手の手を狙ってもう一発ミサイルを撃った。しかし、相手が左に飛び退き交わされる。

(ナイトの説得はどうなったんだろう)

オラクル側の動きが分からないが、徐々に静かになってきていることから、戦いが終息に向かっていることが分かった。

「皆さん。もういいでしょう? 争いを止めてください。私たちは、争いを混雑させるためにここに来たわけではありません」

レンカの声に耳を傾ける。どれだけのひとに、彼女の声は届いているんだろう。


 そのときだ。


 ドン……ドンっ。


 爆煙がオラクル側から立ち上った。降伏の証だ。さらに、ザラインの母艦からも同様に爆音が鳴り響く。


 終わったんだ。


 この、無意味な戦争が……。


「皆さん……感謝します」


 レンカは微笑んでいた。

 

僕らも肩の荷がおり、武器を収納するとすぐにピースメイルの方へと戻っていった。スズカさんやチェルさん、パレスさんも僕の後に続いてピースメイルに着艦していった。

 ピースメイルに戻り、コックピットを開くと、喜び合うクルーの顔が溢れていた。僕らパイロットたちも無事を喜びあい、戦争が終わったのだということを肌で感じていた。

 遅れてナイトとセーラも戻ってきた。そして、先にコックピットから降り、格納庫に居た僕を見つけるや否や、抱擁しあった。

「やったな、シーア」

「やりましたね」

「うん」

ナイトもセーラも僕も、笑顔が溢れていた。これでもう、誰かが悲しむことはなくなる。


 今は戦場にゲイルからはレンカだけが残っていた。今後の方針を話し合うための会議の場を設ける約束をしているそうだ。直に戻ってくると連絡が入った。

「シーア!」

「クロエ……」

続いて、シーザスに乗っていたクロエがピースメイルに着陸し、僕のもとへとやってきた。「クロエ……無事だったんだね」

「なぁに? あたしが簡単に死ぬとでも思った?」

そういって笑いあい抱きしめあい、互いの無事を確認しあった。

「終わったんだな、本当に……」

クロイ少尉だ。右腕に怪我をしたのか。手で押さえながらシーザスから降りてきた。

「クロイ少尉……怪我をされたんですか?」

「あぁ、軽く痛めただけだ」

「すぐに医療班を……」

「大丈夫だよ、シーア。焦らなくても、もう争いは終わったんだから」

「そうですけど……大丈夫ですか?」

「あぁ、大丈夫だ」

クロイ少尉はそういうと、近くにおいてあった栄養ドリンクをおもむろに手にとり、ぐいっと飲んだ。そしてそれを、僕の方に軽く放り投げた。

 それを受け取ると、僕も少し飲んだ。喉が潤っていくのが分かる。そして、ふっ……と重い息が零れ落ちた。


 もう、戦わなくてもいいんだ。


 そう思うと、なんだか目頭が熱くなるのを感じた。そして、またもとの学生に戻ったら、一番に友人たちの慰霊碑へ赴こうと思った。


『やっと、終わったんだよ』


 そう、伝えるために……。


「レンカ様!」

ゆっくりと、レンカの乗っていた緑色の機体が降りてきた。そして、格納庫に収まると、一斉にクルーがレンカのアビスの前に並び、敬礼をした。それを見て、僕とナイト、セーラにクロエ、クロイ少尉も習った。

「皆さん、お疲れ様でした」

微笑みながら、彼女はゆっくりと下に降りてきた。戦うために戦場に出ていたわけではないレンカは、パイロットスーツは身にまとっておらず、いつものワンピース姿で降りてきた。少し汗をかいているようで、渡されたタオルで汗を拭いていた。

「明日、さっそく首脳会議が開かれることになりました。場所はゲイルのアスファです」

そういうと、レンカは僕とナイトの顔をじっと見つめてきた。

「シーアさん、ナイトさん。私の代わりに出席してください。ゲイルの代表として、そして、オラクルの代表として」

「え?」

僕らは顔を見合わせた。考えていることは一緒だ。

「なぜレンカさんは行かないんですか? 一番行くべきひとでしょう?」

ここに集ったのは、レンカに賛同した世界各国の住民だ。その頂点に立つひとが会議に出ないで、どうするというんだ。

「私は、公に出るような器ではありません。私は影のままでいいんです。代表席には、ゲイルの主席が出ます。もうすでに、伝達済みです」

「しかし……」

「いいんです」

にこりと彼女は微笑んだ。そして、ゆっくりと敬礼されている通路を通っていく。「お疲れ様です」と、労いの言葉をかけながら……ゆっくりと。

「シーア、部屋で休んでください。傷がまだ痛むでしょう?」

「あぁ、そうだ。シーア、無理をしただろう?」

そういえば、大怪我をしたんだということに、今さらながら気が付いた。今まで一生懸命で、その痛みなんてまるで忘れていた。

 思い出すと不思議なことに、また痛みが戻ってきた。

「うん、そうするよ」

「僕らも休みましょう、ナイトさん」

「そうだな」

僕らはふっと笑みを浮かべあった。

「終わったな」

「えぇ」

「終わったね」

そして、笑いあいながら僕らはそれぞれの部屋へと戻っていった。



 翌日の代表会議では、オラクル、ザライン、そしてゲイルの代表ならびに、エース級パイロットが数名同行の上、順調に話し合いが進められた。

 それぞれの領地を侵略しないこと。そして、難儀が起きたときには手を貸しあうことなどが話された。


 そして、僕らはもとの学生に戻った。


「シーア、おはよう!」

クロエだ。ブレザーにチェックのスカートの制服を身にまとい、黒のハイソックスを履いている。活発な彼女は陸上部に所属している。

「おはよう、クロエ」

「おはようございます、クロエさん」

セーラは、はじめはピースメイルに残ると言っていた。今さら「息子です」と申し出ても、両親を困らせるだけだからだと言った。けれども僕が、両親は寛大だと、共に同じ家で暮らし始めることを勧めた。

 はじめは、そりゃあ驚いていた。ひとり息子だと思っていたのが、十五年経って、双子が居たと知ったのだから、無理もない。けれども、すぐに馴染んでくれて、セーラのことを受け入れてくれた。そのことに、逆にセーラが驚いていた。けれども、そのおかげで僕らはこうして兄弟の付き合いを続けることが出来るようになった。

「おはよう、シーア、セーラ、クロエ」

学校の校門で、ナイトに会った。ナイトは単身でゲイルに戻ってきた。両親は未だオラクルに在住で、お父さんはザラインの政府のひとりらしい。そのため、ナイトは一人で暮らしていた。

 それを知った僕らは、ナイトに僕らと同居しないかと提案したが、迷惑をかけるといい断った。両親から仕送りがあるらしく、そのお金でアパート暮らしをしていた。

「おはよう、ナイト」

学院は廃止され、僕らは一般の学校へと戻ることになった。久しぶりに開けた扉の向こうには、懐かしい顔が並んでいる。

 しかし、戦後だ。ところどころでその痕が見られた。人数が足りなかったし、包帯を巻いている生徒も居た。

「シーア!」

「おい、学院はどうだったんだ!?」

「その顔……隣は、まさか双子!?」

「え、あ、あの……」

僕らは戸惑った。けれども、こんな他愛ない会話が出来るのも、すべて戦争が終わったからだ。こうして笑い会える世界が、今、どこの地域でも広がっていると思うと、嬉しくてしかたなかった。


 笑いあえる友がいる。笑いあえる時間がある。


 それが、僕らの望んだ世界だ。




 ABYSS。


 世界はもう、その開発から手を引くことになった。


 兵器はもう、必要ないからだ。


 それぞれのABYSSは、永久投棄されることになった。




 これからは、家族と仲間と共に生きる。


 光を浴び、青空の下を歩き続ける。



 こんばんは、はじめまして。小田虹里です。


 この作品、ようやく終わりを迎えることになりました。この話は、大学時代に物理科の友達から、レーゼーとビームの違いだとか、軍人の階級だとか。そういうものを習って書きはじめたものでした。

 在学中には、完成はしていません。いろいろな作品を、今みたいに並行して書いていたので、なかなか最後まで書ききることには至らなくて。


 この話は、まだ「シーア」と「セーラ」の関係性だとか、「レンカ」のこと。伏線張って回収していない面があります。それは、第二シリーズとして、また、描きはじめたいと思います。

 これで「最終回」にせず、続きを書いてもよかったのですが、いったんは締めくくろうかな、と。第二シリーズも、書けるかどうかは分かりませんし。それで、こうやって平和を取り戻して、学生に戻り、終幕という道を選びました。


 作中、「シーア」と「セーラ」は「双子」という表現の前に「クローン」と謳っていたと思います。そこも、ついていきたいし。平和な世界がどれだけ続くのか分かりませんが、家族構成も、次を書くなら考えないといけないのかな、と。


 あまり、小田は機械ものを見たりしないので、こういう話を考えるのはとても難しかったです。情報が少ないし、やっぱり、工学部とか、そういうものを経てるひとが書いたほうが、きっともっと詳しく戦闘シーンを表現したり、できるんだろうなぁ……と、思っていました。物理学の知識が乏しいのは、致命的だったと思います。放物線の仕組みとか、重力のこと。重力加速度だとか、位置エネルギーだとか。エネルギー問題や粒子、となると化学もですね。そういうことを勉強したら、もっとすごい兵器を創造できただろうし、臨場感もあふれていたのかな……と、見直すところはたくさんあります。

 戦艦に対する知識もないから、面舵、下げ舵、言葉がわかりません。この春くらいだったかな。宇宙戦艦ヤマトのアニメを見ていました。あの中での宇宙の距離の測り方などは、正しいのかわかりませんが、造語をもっと作って、自分なりに距離だとか光線の速さなど、世界観を生み出す努力をしたほうがよかった、など。勉強になりました。また、当時のアニメですから、ありえないことも多々ありましたが、これだけ支持されている作品です。やっぱり、面白いと思ったんです。

 科学知識がなくとも、ストーリーで引っ張っていけるようなモノづくりをしていけるよう、これからは努力していきたいと思います。


 この、ABYSSを、長い目で見てくださりありがとうございました。また、第二シリーズがはじまりましたら、見てやっていただけると嬉しいです。そして、他作品でもまt、お会いできますことを願っています。


 世界が平和でありますように。


 強く願いながら、これからも執筆活動頑張ります。



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