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エピローグです

 女は畑に屈み込み、雑草を引き抜いていた。養分豊富な畑だから、雑草も放っておくとすぐに草原のようになってしまい、せっかく育った作物を日光から隠してしまう。…これはこれで前の仕事とどこか通ずるものがあるな、と女は思った。 雑草を綺麗に抜き取った畑は悪党の居なくなった平和な町のようだ。見ていて気持ちが良い。 …しかし満足して手入れを怠ればすぐにまた悪党…雑草が蔓延る所も良く似ている。


 抜き取った雑草を一ヶ所にまとめる。悪人と違ってこれは後で有効に再利用できるのが良い所だ。


「お疲れ様です、フリージア。今日も見事綺麗にしましたね」

 元同僚のユーリに声を掛けられ、フリージアは顔を上げた。鎧も制服も必要なくなり、自分も皆も、町人と変わらぬ服装だった。差し出されたクリーム入りコーヒーの入ったカップを受け取った。


「異物の無い畑は気持ちがいいですから。これもある意味職業病ですかね?」

 クリームコーヒーを啜りながら自分の戦果を眺めた。 うん、やはり雑草の無い畑は見ていて気持ちいい。


 遠くの森の中に一瞬、ソラリスと蝙蝠…補助役のルルエが駆けていくのが見えた。 …また獲物を追っているのだろう。最早狩りの腕ではソラリスの右に出る者はいないし、張り合えるレベルでもなくなった。 猪か鹿か熊かは分からないが、また美味い肉料理にありつけるだろう。 …何せ、肉の消費が一気に激しくなったから、ソラリスには末永く頑張ってもらわねばならない。彼女が長寿のエルフ族で本当に良かった。


 その肉の消費を激しくしている下手人の一人を見下ろした。…沢の清流を引いた水田沿いで、水路のメンテナンスに励む大柄の魔獣。エイミーが計画図面を見ながら指示を下し、狼騎士とロックが言われた通りに作業する。 大雨の度に上流から川の中を転がってくる岩を取り出し、軽いものは人間中最も力持ちのホーリーが荷車で、重すぎる物は石材置き場に転がしてまとめておく。

 魔王の護衛としてやってきた狼騎士は肉食性だった。…食べなくても生きられる魔物だが、ここの肉料理に魅了されたらしい。


 その魔王は今頃、ウルズと家で…



「…どれ、様子を見に行ってみますか」

 フリージアが立ち上がり、衣服の土埃を払った。

「からかうつもりですか?」

「まさか。後学の為、覗かせてもらうだけ」



 家の窓ガラスに張り付くと、やはり二人の姿があった。前は母子ほど背丈の差があったが、今は見ようによって姉弟とでもカップルとも取れる。成長期だけあって、一年で大分変ったものだ。


 その魔王は隣のウルズに何やら口頭と手振りで指示されながらフライパン相手に四苦八苦している。

 …あれがかつて多くの人々と国を恐怖と絶望のどん底に突き落とした存在かと思うと複雑だった。決して心から手放しで喜べはしなかった。 少なからぬ犠牲者たちの為にも、その感情はこうして生き延びた自分達が死ぬまで心に留めておくべきだろう。




 それでもウルズのおかげであの状況を思い出せば、こうして平和な世になって良かったと心から思う。


 …あの日…魔王軍に完全包囲され、籠城した王都内で兵も民も飢えと恐怖、そして絶望に打ち震える中、唐突な停戦宣言ははじめ、誰もが信じられなかった。 あと五日で糧食も切れ、自滅による勝敗が明らかな中、どうして待っていればいいだけの魔王軍が停戦などするものか。



 だが、フリージア達はすぐに悟った。 ウルズがやったのだと。

 それがどんな方法かは分からなかったが、彼なら何か起こせるのではないか…これまで幾多もの勇者達を退けてきた魔王相手であっても。



 そして本当に、魔王軍は人類を見逃して潮が引くように撤退していった。

 助かったのだと知り、全ての人々が茫然としながら城壁の上で膝をついたものだ。



 …そして共に戦ったエイミーやソラリス、ユーリ達と共に除隊し、王都からこの森へ戻って来た。…やはりウルズは居た。…最強の魔王と狼騎士、サキュバスを従えて。

 魔王はウルズとの王都攻略を賭けて決闘し、そして敗れた彼女の弟に王位を継承させて退位し、護衛の側近二名を連れてウルズと共にここへやって来たのだ。



「…大丈夫ですかね、今日の昼ご飯」


 おっかなびっくり調理している魔王を見つめ、ユーリはぼそりと不安げに漏らした。

「まぁ、ウルズもついている事ですし、なにより本人のやる気を無碍にはできません。期待して待っていましょう」




 

 夕飯を終えたウルズは自室…魔王に不法占拠されつつある寝室で翌日の献立予定表を書き終えた。それを壁に貼りつけ、今度は別の紙を取った。 …次なる増築計画。 これからここに流れ着いて、そのまま住みつく者も現れるかもしれない。 現に今までがそうだったように。


(増築ってより、新たに家が必要になったりして)


 そして行く行くはちょっとした集落になる…そんな日が来ないとも限らない。

 …まぁ、来る者がまともな相手なら拒まずの姿勢で臨むとしよう。


 

 本来臨んだ転生生活とはやや違ったが…こんな人生も悪くないかもしれない。 壁にはロックの描いてくれた絵画が飾ってあった。 彼の意外な才能で、これがまた極めて精緻に描かれている。全員の集合風景を描いた絵で、小さいものはこの寝室に、大きなものはリビングに飾ってある。


 明日も忙しくなりそうだ、と思いながらベッドに入ると、圧し掛かって来た誰かの肉感を感じながら徐々にまどろみに沈み込んでいった。

                                                

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