転生です
多分交通事故。
しかも自分の過失。
横断歩道の赤信号をぼんやりと渡ったような記憶がある。
どっかのおじさんがオイ!オイ!と怒鳴る切迫した声と、けたたましいクラクションは覚えている。
…で、気付けばこの部屋だ。
白一色の壁紙に覆われた、窓とちゃぶ台一つだけの殺風景な四畳半の狭い部屋。4.5畳…死後ってか?
ちゃぶ台を囲んだ対席には転生を司る女神…ではなく、デフォルメチックな死神が座ってポチポチ電卓を叩いている。 電卓…あぁ、そうだ、決算の為の資料作成がようやく終わったんだった。で、何を思ったか疲労困憊したまま深夜に帰宅しようと…
完全に仕事脳になってまともな判断ができない状態だった。
帰宅なんかせず、会社に泊まり込めば死なずに済んだものを。
…だが、これで良かったのかもしれない。少なくともこれで、社畜人生も終わりだ。
鬱陶しい人間関係に悩まされる事も、上下からの〇〇ハラ関連に悩む心配もいらなくなる。
仕事はキツイが、それ以上にキツかったのは人間関係だった。
下に高圧的な態度を取るのが責務とでも思っているようなお偉方。二言目には「俺の若い頃は~」って、生きる昭和時代の化石か?お前さんの若い頃なんか知らんって。別に飢え死にする目に遭った訳でもなかろうに。
上…先輩を屁とも思わないボンクラ甘ちゃん共。二言目は無いが、気に入らなければSNSアプリで「辞めます」の一行。 まぁ、せいぜい次の就職先で上手く行けばいいが。
じゃあ同期は、と言えば…これは自分が悪いのだが、やれカラオケだ、飲み会だ、合コンだと、自分はそういうノリが苦手だ。 自宅でのんびりゲームをしたり本を読んだり動画を漁っている方が楽しい。
で、付き合いが悪いという事でお誘いが無くなるのは自業自得だが、ストレス解消の捌け口にされるとは思わなかった。 何かと面倒ごとと雑用が回ってきた。
…そんな理不尽な二十余年の命だったが、特に思い残すことも無い。
…あとはこの死神が自分を然るべき所へ連れて行くのだろう。…地獄でなければいいが。
…暇にならないアイテムさえあれば、無明の世界で孤独でも良いのだが。
「……いやぁ、お待たせ致しました、山田様!」
やけにポップな声色のデフォルメ死神が電卓を叩き終え、頭を深々と下げながらこちらへ向き直った。
「計算に時間が掛かりまして。長々とお待たせして申し訳ありませんでしたねぇ」
「あ…いえ…」
時間が腐るほどある…か。一度は言ってみたかった贅沢な言葉だ。
「それではまずはお詫びを。…実は山田様の死期が、私共の手違いで丸一年誤認しておりまして…本来の天寿より一年早く亡くならせてしまいました。 まこと申し訳ございません!」
死神が丸っこい体で深々と土下座してくる。
「あ、あー…」
…どの道一年って、なんとも思わんなぁ…時間の問題じゃ無いか。
「お詫びと言っては何ですが、選択肢を三つご用意させて頂きましたのでご選択ください」
「ど、どうも…」
死神は三つのカードをちゃぶ台の上に並べた。
「1・またこの世界線で新たな命として生まれ変わる(出生国選択可)」
「2・天国行き(祖先や知人の霊魂と再会できます)」
…正直、どれも魅力を感じない。現世になど二度と生まれ変わりたくないし、天国で祖先や知人って…あの鬱陶しい親戚連中にまた囲まれて暮らすって事だろう。
それならいっそ地獄でも…
「3・全くの別世界に転生(親しい方・知人とは二度と会えない可能性高)」
「3でお願いします」
「…そ、即断ですね。よろしいのですか?」
「いけませんか?」
「い、いえ、滅相もございません!…それでは、そのように手続きをさせて頂きます」
「お願いします」




