一人で二人
「最近たまに記憶がない日があるんだよなぁ……」
「しかも僕の部屋のシーツ汚れてたし…」
「あはは……疲れてるんじゃない…?」
ユウは突然私に話題を振る。記憶がないのはどう考えても女の子のユウになっている日で、何やら女の子のユウは普段の記憶を持っているけど、ユウは女の子のユウの記憶を持っていないらしい。
女の子のユウが記憶を持っているということは、間接的にユウの本心を話しているという事にもなり得る。
ずっと寂しいという言葉が、私の頭の中をぐるぐると回る。
「ねぇユウ…? もっとこうして欲しい…! みたいなのない?」
「どうしたの急に。ん〜そうだなぁ……」
「まぁ…奏も頑張ってくれてるとは思うんだけど…正直もっと構って欲しいなって…」
「やっぱり寂しいかな…?」
「寂しいというか…奏と一緒にいる時間が少ないのかなぁって…」
ユウは少し照れた表情で話してくれた。
あの件で、ユウが自分の本心を隠していた事がなんとなく分かったから、こうしてユウの本音を聞けるだけでもすごく嬉しい。
「じゃあ! 一緒に遊びましょー!」
「何するの?」
「鬼ごっことか!?」
「家でどうやってするの……」
結局スマホゲームを一緒に遊ぶことになりました。
「ねぇ、奏? 何かあったの?」
「え? 何かって? あ、間違えた」
「そこ間違えると最悪即死するらしいよ」
「え…! まじ…!?」
「うわ本当だ…死んじゃった…! なんで即死なんてあるのよ〜…」
「あはは! 奏ってドジだね〜」
「それで…? どうしたの急に、私そんなに変に見えた?」
「なんかいつもと変わったなって思ったんだ」
「変わったなって………もしかして老けた!?」
「んなわけないじゃん。奏まだ24歳じゃん。そうじゃなくて、いつも僕の事を考えてはくれてたんだろうけど、伝わらない事が多かったから…」
「でも、今日は違うなって。僕に何かして欲しいこと聞いてきたり、僕の事を考えてくれてるのが伝わってきて、少し嬉しいなって思って…」
ユウはあまり顔には出さなかったけど、私はそんなことを言われて嬉しかった。
今まではユウのことを考えてやれてなかった。ただ一緒にいてあげればいいと、それで考えたつもりになってた。
私はずっとユウの為にって行動してきたけど、それじゃユウの為にはならなかった。
だからもうユウを傷つけてしまわないように、ユウを一人にさせないように、ユウの為に何かをするんじゃなくて、ユウと一緒に何をするのか考えることにした。
当たり前のことだけど、私はそれに気づけていなかった。それを気付かせてくれた、女の子のユウに感謝しないと…
そして夜中………
「ねぇユウ、今日一緒に寝ない?」
「どうして?」
「今まで何もしてあげれてなかったからっていうのもあるんだけど……本音はユウの肌が恋しいなって…」
私は女の子のユウとは最近一緒に寝たけど、普通のユウとは最近一緒に寝ていなかったから、少し一緒に寝ていたかった。
「いいよ、一緒に寝よっか。今日は色々してくれたし、そのお礼」
「やった…! ありがとう!」
「じゃ! 早くおいで! 待ちきれないかも…!」
「そんなに一緒に寝たかったの…? 昨日も、一緒に寝てたんじゃなかった? 記憶はないけど奏の部屋にいたし」
「まぁ……そうと言えばそうなのかもしれないけどさ! そんなのどうだっていいよ! 早く!」
「はいはい」
ユウは私に少し疑問を投げかけるけど、私はそれにあまり返そうとはしなかった。
ユウと一緒に寝れる事が嬉しくて待ちきれなかったのもあるけど、女の子のユウと一緒に寝てて、色んなことがあったなんて事を説明しなきゃいけなくなるから。
ユウと一緒にベッドに入る。ユウは昨日の時とは違って全体的に小さく見えて、可愛かった。
昨日は女の子のユウが余裕そうな表情をしていたのに、今日は男の子のユウが少し緊張した表情をしている。
「緊張しなくてもいいよ? いつもみたいにして…?」
「奏が隣にいるからいつも通りになんてできないよ…」
そんな事を話しているうちに、私達は次第に眠くなり、眠りについた。
「…? ここは……」
「やっほーユウくん。君に会うのは初めてかな…?」
「あなたは……?」
目の前に立っている女性。黒い髪に緑色の目、そして猫耳がついていた。
一瞬僕かと思うくらいに、顔に面影はあったけど、胸は大きくて身長も高いし、違うと思った。
僕……じゃないよな、女だし。それにここはどこ? さっきまで奏の部屋で寝てたはずなのに……
「それは今から私が説明するよ。いい?ここは夢みたいなものなんだ、私と君を繋ぐ世界。それだけのためにここが存在する。それと、私はユウ。女の子の君だよ」
何も言ってないのに…!それにどういう事だ…?目の前の女性は女の子の僕と言ってくる。けど、意味が分からない。僕は男だし、女の僕が同時に存在するはずがない。
「君は男かもしれないけど、前に一度女になったでしょ? それが私」
「…! たしかに一度はなったかもしれないが、一度きりだぞ…」
目の前にいる女性は僕の方に近づいてくる。
「私は君の欲望によって生まれてしまった。君が女になりたいなんて思わなければ、私はいなかったし、私が辛い思いもしなくて済んだのに……」
「どういう事…?」
「私は正真正銘のユウ。君と同じ。ただ性別が違うだけ。私が表にいる時は、君の記憶に残らない。だから君はたまに記憶がなかったりする日があるの」
「それに、君と同じである以上私は奏の事が好き」
「でも、奏が好きなのは私じゃない。君なんだよ。私にも同じように接してくれるし、キスもしてくれた。でもそれは私が好きだからしてくれたんじゃなくて、私がわがままを言ったから」
「ちょっと待て、奏のキスしたの?」
「うん、君と同じで、とっても濃厚なやつ」
正直不倫されてる気持ちになって仕方がない。目の前の人は女性だし、言ってる事が本当なら僕ではあるんだけど…
「でも、私がわがままを言わないと、奏は私にキスも、エッチもしてくれない。だから、奏からキスをしてくれる君がとても羨ましかった」
「え!? ちょっと待て! エッチまでしたのか!?」
「しようとはしてくれたけど、断っちゃった。今思えば、あそこでしておけばよかったかも」
少し安心したと同時に、凄く不安になってくる。僕じゃなくても大丈夫なのか、『ユウ』であれば性別も、何もかも違ってもいいのか……
「それは違うよ、奏は私と君が別人だなんて知らないから。あくまで私へのキスも、エッチをしようとしてくれたのも、全部君宛のもので私に向けたものじゃない」
「体が違うから、心が違うから、本物の『ユウ』には勝てなかった。『私』には、奏は何もしてくれない。『私』なのに、奏は『ユウ』にいつも何かをする」
「なら言えばいいじゃないか。君が『僕』じゃない事を、『私』だって事を……」
「言ったらキスもエッチも全部してくれると思う!? 私は分かってる! 『私』だって事を教えたら、距離が遠くなるのも! キスも何もしてくれないのも! ただの『ユウ』に顔が似ているだけの他人にしかならない!」
「別に…『僕』には関係がない事だし。どうでもいいよ」
「…! 何でそんな……」
「『君』が赤の他人として扱われるならそれでいいよ、奏は『君』にキスもしなければエッチもしようとしないし。全部『君』が『僕』と偽って奏に接してきた罰じゃないか。それが嫌なら偽り続けていればいいよ、『君』は『僕』として生きていればいい。でも、どうせ『君』宛のキスは一度のないだろうけど」
僕がそう言うと、彼女は僕を押し倒してくる、とても強い力で、顔は憎悪に満ちていた。
「『お前』が私を作らなければ『私』はこんな思いしなくて済んだのに! 全部『お前』のせいなのに! なんでそんな事が言えるの…これじゃ私…何も残らない…」
彼女はそう言って涙をこぼし始める。彼女の涙が僕の頬に当たる、きっとこの涙は、甘く、そして塩辛い。
「『君』が何も残らなくなってしまうのは、『君』が何もしなかったらの話でしょ、『僕』だって最初はただ可哀想だから拾われて、そして好きになっていったんだ。それに……」
「君のことなんだから、一からでも上手くいくに決まってる」
9時にセットしていたスマホの目覚まし音が聞こえる。
「んん……? もう9時ぃ……?」
「おはよう…奏さん」
「おはよう…ユウ……」
少し大人っぽい声……今日は女の子の日なのかな………
私がそう思いながら起きると、やはり女性の体だった。でも、いつもと様子がおかしいことに気づく。
「奏さん…私はユウじゃないの、いや…ユウではあるんだけど、奏さんが思ってるようなユウじゃない」
「……? 何言ってるの? もしかして寝ぼけてるんじゃ…」
「違う、ちゃんと起きてる。でも、これが夢だったら良かったって思ってる」
「私は奏さんをずっと騙してた。ユウのフリをして、キスをした」
「どういうこと…?」
「男の子のユウと、私は別人なの。心も、体も別人。ただ、同時に存在できないだけ」
突然の言葉に理解ができない。
「何を言ってるの…?あなたはユウなはず…だって、ユウと一緒に寝ていたのに今、この場にはあなたがいるんだし…」
「奏さんも無意識のうちに気付いてるじゃん。ユウだって思うなら、なんであなたなんて言うの…?」
「だってそれは…!」
説明ができなかった。だって…今の彼女には、どこかよそよそしい感じしかなくて、親しさを感じれなかったから。
赤の他人と同じ感じ。ただ、ユウに似ているだけの人にしか見えなかったから。
「本当なの…?」
私がそう聞くと、彼女はとても辛そうな表情をする。
「ごめんなさい…! ずっと騙して…本当にごめんなさい…!」
彼女は涙を流しながらそう言う。その姿を見て、私は事実なんだと悟った。今までユウだと思って接したのは別人で、ユウじゃなかった。
そんな事実に私は少し辛くなる。悲しくなるけど、今は私なんかどうでもよかった。
「…!? 何して…!」
「辛かったんだよね…! 話してくれてありがとう……」
私は彼女を抱きしめる。辛い顔は見たくなかったから、私を騙してようが、彼女は別のユウである事には違いないから。
私が好きなのは彼女じゃない。でも、ユウである事には変わらない。だから、悲しませたくなかった。
「やめてよ奏さん…! こんなのされたら反省になんて…!」
「なるよきっと……だから、たっぷり泣いていいんだよ…?」
私がそう言うと、彼女は我慢しきれなくなったのか子供のようにずっと泣く。大人らしい彼女は、今だけは子供と変わらなかった。
そうしてやっと彼女が泣き止んだ時。
「あの…奏さん…良かったら私にも名前をくれませんか…?」
「名前?」
「はい…私はユウではあっても、奏さんが思うユウではないですから…それに、自分として生きていたいんです。わがままを言ってしまうのは分かってはいるんですが……」
「アイ! アイがいいと思うんだけど、どうかな…!」
「アイ…どうしてですか…?」
「私への愛がたくさんあるから! 単純かもしれないけど…じゃなきゃ、私に打ち明けてくれなかったでしょ? やっぱ嫌かな…?」
「そんな訳ない! あっいや…奏さんがくれた名前なら、なんでも嬉しいです…!」
「そっか…! あ、そういえばアイ…? ユウはどうしてるの?」
「私がいる時は前まではずっと眠ってる状態だったけど…今は私を監視してもらってる…『奏を襲おうとしたりしたらすぐに僕に戻るからな!』って言われちゃった」
「ユウらしいな〜!」
「でも、私は奏さんを諦めた訳じゃない。騙すのをやめただけで、ユウみたいに奏さんと付き合ってみせるから…!」
「うーん…私にはもうユウがいるからなぁ…でも、応援してる」
最近いろいろなことがあって、正直どうなるかは分からない。でも、ユウもアイも優しい人で、一人の人間である事には違いない。
だから、お互いが許す限り、私は二人と一緒にいたいと思う。都合が良すぎるかもしれない、いつかそのせいで問題が起きるかもしれない。でもきっと大丈夫だと信じてる。
それに、もしかしたら二人が同時に存在できる時が来るかもしれないから……
どちらも生きている。
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