寂しさ
「何…? そんなに見つめてきて…私の事、そんなに好きなの…?」
「別に…! 好きに見える…!?」
ユウの大きな胸は、私を虚無感でいっぱいにしてくる。
そもそも何でユウはまた女の子になってるのだろうか、そんなに私の機嫌を悪くしたいの……?
「そんなに怒らなくてもいいじゃん、ただ女の子になっただけだよ…?」
「女の子になった事に怒ってるんじゃなくて胸を見せつけてくる事に怒ってるの!」
「別に見せつけてるつもりないけどなぁ……」
「とりあえず仕事に行ってくるから!」
「行ってらっしゃい、奏」
私が仕事に行く時は思ってもなかった。まさかユウがあんな事になるなんて………
「ただいま………」
まじでいっつも私だけ仕事の負担が多すぎる……転職も考えた方がいいかな………
私がそんな事を考えてながらリビングに行くと、そこにユウの姿はなかった。
流石に朝不機嫌になりすぎたのかな…謝らないと……
私はユウの部屋に向かい、扉を開けようとした時だった。
「んん…あっ……はぁ……」
えっ!?なに!?何してるの!?ユウの変な声が聞こえてくる……!
「奏…!かなでぇ……」
私の名前呼びながら…!まさかそんなコトを…!
私は咄嗟にユウの部屋の前から離れる。
物音を立てないように、私が帰ってきていた事を知られないように、ユウのコトを盗み聞いたなんて知られちゃったら……!
しばらくして、私が必死に忘れようと過ごしていると、ユウが部屋から出てきた。
ユウの顔は少し赤く、服は乱れている。興奮のせいか息も荒かった。
「あれ…? 奏…帰ってきてたんだ。気づかなかった……」
「あ…! えっと…うん。さっき帰ってきたの…!」
私は少し動揺してしまう。だって…さっきまでユウは一人で…!そんなのを知っていたら普通にできるはずがないよ…!
「私…! お風呂入ってくるから…!」
「……そう」
ユウから逃げるようにして私をお風呂に入りに行く。少し疑われてもいいから、ただユウから離れて、落ち着く時間が欲しかった。
「まあユウも人だもんね…!そういうこともするよね…!」
シャワーを浴びながら、私は自分を納得させていた。
頭の中にはユウのコトをする姿を思い浮かべてしまう。息を荒くして、官能的な声で、私の名前を呼ぶ、そんな姿を。
「な…! 何考えてるの私…!」
シャワーの音すら聞こえなくなる程妄想の中に潜り込んでいた私は、背後に迫っていた影に気づけなかった。
「何考えてたの…?」
「…!? ユウ!? 何でここに…!」
「私が一人でしてたとこ、見てたんでしょ」
「ちがっ…! 見てはないから!」
「じゃあ、聞いてはいたんだ」
しまった。焦ってしまい、ユウに聞いていた事をバレてしまう。
「私…ずっと寂しい…奏の事を、感じれないの…」
「いつも一人で…奏はお仕事頑張ってるって分かってるけど…それでも…」
ユウは私を後ろから抱きしめてくる。その力はとても強く、ユウの体は見えていないのに、体の輪郭が全て分かるくらいに。
普段ユウはこんな事を言って来ない。ユウはいつも笑顔だった。仕事に行く時も、仕事から帰ってきた時もどんな時でも笑顔で私と話してくれてたから、私は言われて初めて気づいた。
本当は気づかなければいけないのに、言われなくても察してあげなければいけなかったのに。
ずっと寂しい思いをさせてしまった。ユウに何かしてあげれないかな……
「ごめんね…ずっと寂しい思いさせてたね…言われる前に気づいてあげれなかった…でも! これからそんな思いさせないから…!」
「え…!? あ…うん」
「ほら! 座って、髪洗ってあげる!」
「あ、えっと私は奏と…」
「遠慮しなくていいんだよ…? それに私、髪洗うの上手だから!」
「……そっか、じゃあ頼もうかな」
今すぐ今まで寂しい思いをさせてきた事が帳消しになるとは思わない。
でも、今だけは寂しい思いを忘れさせてあげなきゃ…
「髪短くていいな〜、私長いから洗うの大変なんだよね」
「でも長い髪、似合っていると思うよ? 大人っぽい感じがして」
鏡に反射するユウの顔は、さっきまであった寂しい雰囲気はなく、笑顔になっていた。
大人な女性のユウがここまで素敵な笑顔は初めて見たのかもしれない。
綺麗な顔は、とても可愛い笑顔へ変わり、それは昔の拙い言葉で話していた時のユウに似ていた。
微笑むなんて出来なかった、でも笑う顔は誰よりも素敵な、そんな笑顔。
「奏…? 手、止まってるよ」
「あ、ごめん! 今から流すね!」
「りょーかい」
髪を流し、一緒に湯に入ったり、なるべくユウと一緒になるようにした。
「いいの? 髪まで乾かしてもらって」
「まあユウにしゃがんでもらってるし…」
前みたいにユウの髪を乾かしてあげようと思ってたのに、大人な女性に変わってるせいで身長がユウの方が高く、ユウにしゃがんでもらわないと髪を乾かせなかった。
けど、まだまだこんなことだけじゃ足りない、せめて今日だけはユウと一緒に過ごしてあげたい。
「そうだ! 今日は一緒に寝よっか!」
「え、いいの?」
「うん! 今まで寂しい思いさせてたんだもん…ユウと一緒にいてあげたいから…」
「ふーん………」
夜食を食べ、時間は23時になろうとしていた。
「ユウ? そろそろ寝よっか」
「そうだね。じゃあ、行こう?」
ユウはそう言って私の部屋に向かおうとする。
「え? ユウ!? そっちは私の部屋だよ?」
「あれ? 部屋で寝るんじゃないの?」
「部屋で寝るけど…ユウの部屋で良いんじゃ…」
いつも一緒に寝る時はユウの部屋で寝ていたし、今日もそのつもりだった。だけど、ユウは私の言葉を聞くと少し、恥ずかしそうにする。
「あぁ…その…私の部屋は……」
「…? もしかして散らかってる? でも私気にしないよ?」
「そうじゃなくて…その一人でしてたから…汚れちゃって……」
ユウの言葉を聞いて私はハッと思い出した。ユウの恥ずかしそうにする顔が、私も恥ずかしくさせる。
「そ、そっか…! じゃあ私の部屋で寝よ…!」
「ごめん…明日シーツ洗うから……」
私の部屋で、同じベッドに入り明かりを暗くすると、ユウの緑に光る目はとても鮮やかに見える。
「ユウの目…綺麗……」
「ありがと。ねぇ、奏…?」
「んー? どうしたの?」
ユウが少し神妙な様子で話しかける。
「出来れば今日みたいな事、あまりしないでほしいなって…」
ユウにそう言われ、私は少し焦る。
何か間違えちゃったのかな…失礼な事しちゃったかな…?
「な、何で…?」
「私の事思ってくれるのは嬉しいんだけど…気を使いすぎて欲しくないなって。自然な奏でいて欲しいからさ……」
「でも、私はユウに今まで…!」
「そんなに言うんだったら私とエッチしてよ」
「え!? そ…それは……」
「奏は私の事思ってるつもりかもしれないけど、少しやりすぎ。それとも、ずっと私のして欲しいことしてくれるの?」
「………いいよ」
「え?」
「エッチ…してもいいよ…」
「ほ…本当に言ってるの…?」
今までユウに何もしてあげれてなかったんだから……これくらいはしてあげなきゃ……!
私は起き上がり、着ていた服を脱ぎ、私の貧相な胸をユウにさらけ出す。ユウの光る目が、私の方を見ていて、少し恥ずかしい。
「ほら…何でもしていいよ…?」
何をされるのか分からない。でも、何をされても受け入れるつもりだった。ユウなら、何をされても良いと思ってたから。でも、ユウはそんな私の考えを裏切ってくる。
「………やっぱいい」
「え…どうして…? やっぱり、私に魅力がないから…?」
「今の奏、自然な奏じゃないから。不安で、緊張してる。私、そんな奏に興奮なんてできない」
ユウの言葉を聞いて、私は分からなくなる。勇気を出した行動がユウに受け入れてもらえない。ユウは望んでいたはずなのに。
「じゃ…じゃあ…! どうすれば良いの…? 何をすれば…」
「何もしなくて良いんだよ…? いつもの奏でいてくれれば…私はそれで良いの…」
「でも…!」
「そりゃあさ、エッチはしたいよ? でも、奏は私の為にって理由でしようとしてる。私は奏に私としたいって思って欲しいの」
「だからさ…私も我慢する。だからいつもの奏で居て…?」
また私は失敗してしまった。ユウの事を考えたつもりだったのに、逆にユウに迷惑をかけてしまう。
「ごめんね…! 私、何も出来ないかも」
私は再び横になる。ユウに怒られて、少し気分が切り替わったような気がする。
「…………奏、私を誘惑してるの…? ブラ、着けなよ」
「えっ!?」
胸の方を見ると、私の胸がさらけ出されたままだった。
「わ、忘れてた…!」
「ねぇ…やっぱり一回だけエッチしない…?」
「しないから…!」
ユウは私が普段通りでいる事を望んでいる。だから私は自分のペースでユウと接する。
でも、もう二度と寂しい思いをさせないようにしながら……
いつ消されても文句は言えないかもしれない。
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