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帰れなかった勇者の新・異世界生活  作者: 乙三
西都への旅編
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74.ホクソウ


 ショクラを出た初日に意図せず距離を稼いだせいか、ホクソウには昼を少し過ぎた辺りに到着していた。

 順当に行けば日暮れ前頃だろうと予想していたが、随分と早くに着いてしまったな。

 

 まあ、それはそれで悪い事では無いので、とりあえずは配達先の役場へ向かい仕事を完遂したあとで、今日の寝床の確保に向かう。

 役場で見た街の地図では四軒の宿があり、ひとまずの目当ては安くも高くも無い大衆宿だ……しかし、どこに何があるのかうろうろと探さなくて良いし、役場の存在をもっと早くに知りたかった。

 

 いや、役場がある事は知っていたけど、そこに意識が向かなかったと言うのが実際か。

 日本でも何かの手続き以外は立ち寄る事なんて無い施設だったし、待たされたり面倒臭かったり、どちらかと言えば良いイメージの無い所だったから、無意識のうちに敬遠していたのかもしれないなあ。

 

 

 背負っていた荷物を宿に置き、鉈を外した剣帯と肩掛け鞄と言う街歩き用の装備になった俺は、街の一角にある屋台で少し遅めの昼食をとっている。

 固い黒パンを溶かして粥の様にしたスープでそこまで美味い物では無いが、ありふれた料理なのでハズレが無いぶん安心して食べられる。

 時期的な物もあってか野菜も多く入っていて、冬場にある様な塩っ辛いだけの干し肉味でないし、これで小銅貨二枚と言うのだから当たりと言っても良いだろう。

 

 ともあれ、時間的に随分と余裕が出来てしまったので、この後は河原で拾った石を材料に調合道具を作ろうと思う。

 それでも時間が余りそうなのでの雑貨屋だけは覘く予定だが、ここから六日の距離には西都があるし、そちらの方が品揃えは良さそうなので急を要する物以外は買え控えた方が良いだろう――。

 


「あれ? ルクス?」


 そんな事を考えながら粥の様なスープを匙で口に運んでいると、ふいに名前を呼ばれ、その声の方に顔を向けると確かに懐かしい面々の顔がそこにはあった。



「お久しぶりです、ジャントラさん。それにイナルさんも」


 いつぞや世話になった冒険者、『赤い馬』のリーダーであるジャントラと、魔法使いのイナルの姿がそこにあった。

 ジャントラは相変わらずの赤い短髪だったが、顎に蓄えた無精ひげがオッサン臭さを演出している。

 イナルの方は青い髪のロングヘアだったと思ったけど、今は肩の位置でばっさりと切り揃えられている。が、個人的にはこちらの方が好みだ。



「本当にルクスなのかよ。ってか、迷子って訳でもあるまいし、こんな所でなにやってんだよ。何かやらかして追い出されたか?」

「ちょっと落ち着きなさいよ。あれでしょ? 学校」

「ええ、西都に向かう途中なんですよ。お二人は? サジュアさんとギントさんは居ないんですか?」


 『赤い馬』は四人組だったはずだけど、残り二人の姿が見えないな。

 二人の方は軽鎧を着ているし、遊びでここに来ている訳では無いのは分かるが……。



「俺達はあれだ、レットケンから西都までの警護依頼でな。二人は荷馬車の見張り番だ」


 街に居るのに仕事とは。そう言った感じで「ししし」と悪戯っぽくジャントラが笑う。

 レットケンがどこかは分からないが、これまで通ってきたルートでは聞いた事が無いので、川の上流にある街か村なのだろう。

 しかし、残りの二人が怪我とか仲違いとか、そう言うのじゃ無い様なので安心した。



「しかしでかくなったなあ、あれからどれ位だ? 一年……二年位か?」

「三年はまだ経ってないわよね。それに…………うん、順調そうで何よりね」


 イナルは品定めする様に俺を一周してそう結論付けた。

 大きな怪我や病気もしなかったし『順調』と言う評価は間違っていないけど、なんだかなあ。



「まあ、色々あるだろうが、時間が勿体無いから何処かに入ろうや」


 そう言うジャントラとイナルの後に付いて近くの食堂に入ったが、どうやら馬の休憩の為にこの街に寄っただけで、休憩が終わり次第、再び西都へと進むらしい。

 「一緒に来ないか?」なんて誘われもしたが、素人の俺が一緒にいてもお邪魔だろうし、足手まといになったら彼らの評判に傷が付くので丁重にお断りした。



「……一緒に行ったら楽しくなると思うんだけどなあ」

「いい加減にしなさい? それに、ルクスはこれから西都に来るんだから、時間はいくらでも作れるでしょ?」

「そりゃそうだがよ……」

「私も色々と聞きたい事はあるし、とりあえず三年はあるからゆっくりと……ね」


 最後の方はジャントラにと言うよりも俺に言っていた気がする。

 まあ、『赤い馬』には恩もあるし、多少なら構わないかな……全部言った所で信じてもらえ無いだろうけど。



「……お手柔らかにお願いします――」




 二人が食事を終えて一息ついたところで、残りの二人がいるという場所へ移動する事になった。

 貴重な休憩時間なのでは? と、一度は遠慮したものの、固辞するのもあれなので大人しく甘えさせてもらおう。

 

「そういえば、貴族学校に入る子達って専用の馬車での送迎があったと思うけど?」

「ええ。でも、さすがに一月(ひとつき)近くも馬車に乗って移動するのは嫌だったので、父に頼んで徒歩で行く事を許可してもらいました」

「あー、俺も馬車は嫌だなあ。ケツが痛くなるし、なにより好きに動けないのがなあ」

「ですよね。移動距離も徒歩と大して変わらないし、それなら寄り道しながら好きなように西都へ向かおうかと」


 移動中にそんな話になったが、馬車の乗り心地は最悪だからな。

 しかも箱馬車で他の子供と一月も相乗りなんて、なんの罰ゲームだよ! って感じだ。

 まあ、近隣の次期領主たちとの顔合わせの意味もあるんだろうけどさ。

 

 そんな事を話しているうちに、西都へと向かう街道の東側、街道と川の間にある草原地帯に到着した。

 そこには様々な馬車がとまっており、その一角、幌馬車の集団に向かっていく。

 


「あれ? もう休憩はおわ…………あー、ルクスだー!」

「ん? ルクス…………ああ、あの時の坊主か」

「お二人とも、お久しぶりでごへっ」


 サジュアが俺を正面から抱きかかえたせいで、少々間抜けな挨拶になってしまった。

 それに胸部装甲が痛いです……って、前にもこんな事があった様な。

 まあ、俺自身の防御力は高めだから良いんだけどさ。


 それにしても、前の二人もそうだが良く俺って分かったな。

 それなりに成長はしたと思うんだが、「まったく成長して無いな」なんて言われているようで、少し悲しくなってくる。



「いつぞやはお世話になりました。皆さんのお陰で、今でも何とか普通の生活が出来ています。あの時は気を失って御礼も言えないままでしたので改めて……助けていただき、ありがとうございました」


 四人揃った所で、ひとまず以前に言えなかったお礼を言う事にした。

 西都に着いたら言いに行こうと思っていたが、ここで再開出来たのも何かしらの縁だろうし、お礼を言うにも良い機会だろう。

 四人とも気にするなと言ってくれているが、個人的には大恩だと思っているのでいつか返そう……なんて言うと、また「気にするな」と言われるだろうけどね。



「それにしてもこんな所で会うなんてねー、迷子?」

「いえ、僕も西都に行く予定なんですよ」

「えー、それじゃ一緒に行くの?」

「ジャントラさんにも誘われましたけどお邪魔になるでしょうし、残念ですが今回は遠慮させてもらう事にしました」

「なんだ、邪魔とか気にせず来りゃ良いのに」

「そうだよー、一緒に行ったほうがきっと楽しいーよ?」

「ほらほら、サジュアもギントも……私達は仕事中でしょ? ルクスも色々と気を使ってくれているのよ」


 駄々を捏ねる子をあやす様にイナルが場を収めてくれるが、それでもサジュアは不満そうだ。



「ルクスも西都に向かうのだから、次の機会なんてすぐよ。それに三年は西都に居るんだし、いつでもルクスで遊べるわよ」


 ん? 『俺と』ではなく『俺で』遊べる? ジャントラとギントは苦笑いをしているが……聞かなかった事にしよう。

 その後は馬の休憩が終わるまで他愛の無い話をし、西都での再開を願いつつ彼らの背中を見送った。



 翌朝には予定通りにホクソウを発ち、三日を掛けて隣街のクイナセへ。

 そこから更に南下し、クイナセを出てから三日目の昼頃には西都が見えてきた。

 

 この世界に来て初めての旅も終わりが見えてきたな――。


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