30.事後処理
精神的にも肉体的にも疲弊したので、目を閉じて横になっていると、不意に気配を感じる……もしかして延長戦? かとも思ったが、来る方向が境界側だったので恐らくは領兵か冒険者だろう。
警戒しているようで歩みは遅いが、この感じは人だろうな……どの感じだ? と自問するも何となく分かるのだから仕方ない。
動くのも面倒臭いので寝たままだが、ようやく俺の視界にもそれが見えてきた。
赤いラインの入った銀色の軽鎧に、赤い短髪の男……ああ、なんだ、ジャントラか。
恐らくは上位冒険者として、組合からの応援要請を受けてくれたのだろうが、とりあえずは声をかけて助けてもらおうかな。
「……ジャントラさん」
と、声をかけると、ジャントラは跳ねる様に後方へと飛ぶ。さすが二等級の冒険者だ、反応が早い。
周囲にもあと三人か? その人達も警戒を強めた様だ。
「誰だ! どこに居る!」
警戒を解かないジャントラに「ルクスですよ、ここです」と、寝たまま手を上げて軽く振る。
「はあ? ルクス? …………本物か?」
「……バエロッテの根の採集をした後に、焼き魚を一緒に食べたルクスです」
「本当にルクスか、何でこんな所に……それにその有様はなんだ?」
体は治しても服はボロボロのままだったからな。
『創造』で直せそうだけどそんな余力は無いし……大事な部分は隠れているから良いだろう。
「まあ、色々とありまし「おい、ルクスだ! 生きているぞ!」」
人の話を聞けよ……と、多分、イナルとサジュアに教えてのだろう。
残りの一人は『赤い馬』のメンバーだろうが、問題は男か女かだな。
「ルクス? 何でこんな所に?」
「大丈夫なの? 怪我は?」
と、サジュアとイナルが合流し、俺の目を開いたり体を弄る。
「これがお前らの言ってたルクスか? なんでこんな所で寝てんだ? それにボロボロじゃねーか」
他の三人とお揃いの軽鎧だし、これが四人目か……良かった、『赤い種馬』に改名しなくて済んだよ。
「おい、ルクス。どうなってるのか、説明はしてくれるんだろうな」
「えーっと……飛んで偵察にきたら、亜人がこの数で……後は魔法で?」
「魔法でって……あー、こんなのどう報告したら良いんだよ」
「……何とかなりませんかね」
きっと、俺が関わって無い様に誤魔化す方法を考えてくれているのだろう。
本当に申し訳ない。
「まずはルクスを隠す方法を考えないとー」
「ギントの鞄になら入るんじゃない?」
サジュアとイナルも、その方向で考えてくれているようだ……この四人目はギントって言うんだな。
「入るには入るだろうが、中の荷物はどーすんだよ」
「小分けにして皆で持てば誤魔化せないかしら」
「でも、はっきりとは見えないまでも、今も遠見筒で境界から見てんだろ? 荷物をばらして何かを詰めてって、凄く怪しくねーか?」
言われてみれば確かに。
「まあ、頭を使う事はイナルとギントに任せるとしてー、ルクス?」
と、サジュアに拳骨をされる。
手甲を嵌めているので、軽くでも結構痛い……。
「いくら強くても、いくら魔法が使えても、ルクスはまだ十歳で子供なんだよ? 無理や無茶をするなとは言えないけど、心配してくれる人が居るんでしょ? そんな人達の事も考えなさい」
「……ごめんなさい」
普段の間延びした口調ではなく、しっかりとした口調で怒られた……。
いや、叱られた……か。
そう言えば、母さんにも同じ様な事を言われていたっけ……。
これは俺が悪いので、しっかりと反省しよう――。
「ねえ、ルクス君って、闇魔法使えるわよね?」
「はい、影を出すのと治療くらいしか使った事はありませんが」
叱られ終えて、サジュア、ジャントラと雑談をしていると、何やらイナルが思いついた様だ。
「それならまずは――」
イナルの作戦はこうだ。
まず地面から影を出して、全員の姿を隠す。
そこでギントの背負っている鞄に俺を詰める。
詰め終えたら、影をそのまま上空へ移動させて霧散させる……だ。
「上空で四、五人の人型にすると尚良いわね……そうね、ここは開拓地だから、サジュアみたいな片手斧や長柄の戦斧なんかを持たせると最良かしら」
「それで何になるんだ?」
「どうにもならないけれど、勝手に解釈してくれるのよ」
「はあ……」
イナルの説明に、やっぱりジャントラは理解できないようだ。
しかし、勝手に解釈させるか……それで人型ね、アリだな。
「ルクス君はどうかしら?」
「魔力はぎりぎりだけど……なんとか頑張ります」
と言う訳で作戦を決行し、五人の影を上空で霧散させた所で意識が遠のく。
さすがに色々と無茶をしたからな……ここは素直に意識を手放すか……。
おやすみなさい――。
「――やあ、おはよう」
「…………おはようございます、創造神様」
何故か次の瞬間には神界に来ていた…………え? 俺、死んだ?
そう意味で『おやすみなさい』って言ったわけじゃ無かったんだけど……。
「ほっほっほ、大丈夫、死んではおらんよ」
「そうでしたか、少し混乱していました……良かった」
「まあ、二人の加護が無ければ、本当に死んでいたかもしれんがのう」
と、普段の温和な表情ではなく、真剣な顔になりじっとこちらを見つめる。
加護か……『加護』と意識すると眼前には一欄が表示される。
あ、『闇と命の神ノーツ』と『光と守護の神ルーフ』というのが増えている。
「そうだよ、私達の加護のお陰で何とかって感じだったんだから」
「まあ、人間が一人どうなろうと知った事じゃ無いけど、ルーフが言うから仕方なくよ」
と、いつからそこに居たのか、二人? 二柱?
……ともかく黄色いのと黒いのが目の前に立っていた。
「ちょっと、黄色いのって。君が無茶をしている最中に、ずっと加護で守護していたルーフですよ」
「これだから人間は……ずっとあなたの命を支えていたノーツよ。それなのに黒いのって」
どうやら……というか、予想通りに闇と命の神ノーツ様と、光と守護の神ルーフ様だった。
「失礼しました。まだ少し混乱しているようで……私を生かす為に尽力していただき、ありがとうございます」
「……ふうん、人間の癖にちゃんとお礼は言えるのね」
ノーツ様はツンキャラか……と、ノーツ様に睨まれる。嘘です、ごめんなさい。
しかし、御二方とのお目通りの為に呼ばれたのかな?
「いや、そうではなくての……君の魂の事に関してじゃよ」
「魂……ですか」
「うむ、君も知っている通り、君は元々異界の勇者で凄まじい力を持っていた」
「……はい」
「そういう者は、たいてい強い魂を持っておる、君のは特にな……そんな魂を普通の身体に入れても、身体は耐えられなくて壊れてしまう。そこで転生時、君の魂に封印を掛けた」
「封印、ですか……」
「封印と言っても成長にしたがって解ける簡易的なものじゃが、今回の事でその封印が全て解けてしもうた。というか、君が強引に解いたのじゃがな」
あまり良く覚えてないけど……それじゃ、身体が壊れる?
恐らく物質的な意味じゃなく、雲散霧消とか消滅とか、そんな類なんだろうな。
「まあ、身体の方は問題ないがの」
「え? 問題ないんですか?」
「そこはほれ、ルーフとノーツの加護があるでの」
と、視線を移すと、ルーフ様は両手をこちらに振っている。なんだろう……なんだか歌のお姉さんとかあんなノリだ。
ノーツ様は……胸の下で腕を組んで、そっぽを向いている……まあ、ツンの定番だな。
「なので身体ではなく、問題は力の方じゃな。強い魂は身体に対して強い力を与える。君の場合はそれこそ、十歳と言わず人としても生物としても異常な程のな」
「あの、もう一度封印と言うのは……」
「出来ん事も無いが、身体に支障が出たり、記憶が欠落したり無くなったりするかもしれんが……それでも良いか?」
…………。
「…………頑張って制御するように……制御出来るように努力します」
「ほっほっほ、期待しておるでな」
一難去って……と言うヤツか。
まあ、話を聞いた限りじゃ、命があるだけでもラッキーだったと思うしか無いか。
とりあえず、ルーフ様とノーツ様には改めて御礼を言っておくかな。
「別にお礼が欲しくて助けた訳じゃないから……」
「私もノーツちゃんも食べ物なら何でも良いよー、甘い物は特にね」
「ちょっと、ルーフ。余計な事は言わなくて良いわ」
「えーっと、それはお供え物と言う事で良いんですかね……」
神殿とかにもって行けば良いのか? それとも神像を作ってその前に供えるとか?
「そんな事をしても時間の無駄だから…………はい、これで良いでしょ?」
と、俺の頭に手を置いて……『収納庫』と『食料庫』に赤い枠の升目が増えていた。
「あの、これは?」
「そこに品物を持っていけば、ここに送られるようにしたから。試してみたら?」
試してって……甘い物ならビスケットか。と、赤枠に移動させると『食料庫』から消えて、創造神様の前にあるテーブルにビスケットが現れた。
……次に送る時は器に入れて送らないとな。
「まあ、こんな感じよ」
「ノーツちゃんの食いしん坊―」
「ちょっと、ルーフ!」
その内、メールや電話も出来る様になるかもしれないな。
そんな事を考えながらも、ルーフ様とノーツ様のやり取りを見ていると視界が徐々に白んでいく……。
そろそろ帰る時間か――。




