88.ご褒美で貰ったようです
最近のラノベでは最早常識ネタ(´・ω・`)
アタシの名前はムーン、女戦士だ。
「いやー、ムーンさん。お疲れ様でした」
「ホントに滅茶苦茶疲れたっつうの……なんで人が書いてやった文章にケチつけんのか。そのまま黙って受け取って本にすりゃいいのに。けっ!」
いや、少し待てよ……そうだな。
今は冒険は控えめで物書きがメインだから、正確に言うならば“元”戦士が妥当ってところか。
「まあまあ、それが私ら編集の仕事ですし、そうボヤかないでくださいよ。こっちだって少しでも面白い文章にして売ろうと必死なんですから」
「けっ、私の文章は完璧だって言った筈だろ?」
まあ……それはともかくとしてだ。
元々アタシが所属していた世界最強の冒険者パーティー『天の箱舟』が解散してからというもの、
「いやいや!? よくそんな事が言えましたね!? あちこち誤字脱字まみれでしたよ!?」
「ああ? うるせぇなこの野郎、そんなのは許容範囲じゃねぇか。いちいち文句つけんなよな!」
引退後のアタシは念願の小説を出す事となった。
もちろん内容は現役時代に仲間達と冒険した世界中の光景や様々なダンジョン、強力なモンスターとの戦闘などの経験をモデルとした内容だ。
「ったく……それに締め切りも早すぎないか? あれか新人だからって私をいじめる気か? くそ……創造主に人権は無いのかよ?」
「……あの、すいません。充分余裕があった締め切りを“五回”も落とした人物の吐く言葉には聞こえなかったんですけど……気のせいですか?」
「……よく頑張ったな。偉いぞ!」
「清々しい程の手のひら返しですねっ!?」
「よく間に合わせたな、偉いぞアタシッ!」
「しかもアンタかいっ!?」
まあ……なんつうかこの書籍化に至るまでは締め切りとか改稿とかでマジで色々あったがな。
「あっそうだ、ムーンさん!」
「うん? どうした?」
すると、その別れ際だった。
玄関を出る寸前、編集が私の元へ戻ってくる。
それも懐から何かの封筒、しかもなんか豪華そうな黄色の模様が入ったやつを取出してくると、
「実はこれ、前々から誰かに差し上げようと思っていまして、せっかくなら今回なんやかんやで原稿を完成させてくれたムーンさんにと思って」
そいつはそのままその封筒を渡して来たんだ。
それでアタシは早速封を切り、中身を覗くと、
「これは……何かのチケットか?」
「はい。その……三日くらい前にある作家様の原稿を受け取りに行った時、余っていた福引券をいただいて、それが見事当たった……みたいな?」
へぇ、それはそれは何ともめでたい事だな。
まあそれは置いとくとして、ええっと……?
「なになに……【4名様ご招待! 温かい温泉と絶品料理で心も体もポッカポッカ! 鬼の里名物、極楽秘湯の宿『天獄羅生壮』へご案内チケット】……なんだろう、この胡散臭そうな題目は……」
……ってか名物の時点で秘湯じゃねぇだろ。
「うん? あれ? 天獄羅生壮って確か」
「ええ、あの鬼の里でも最高級の宿ですよ!」
「……んで? これをアタシにってか?」
「はい、その為に持ってきました」
「……お前は行かないのか?」
「はあ……正直行きたいんですけどね。色んな温泉や美女で有名な鬼の里ですし。でも私も編集作業等が色々溜まっていますし、多分その有効期限まではとても間に合いそうにもないので……」
「なるほどな。じゃあまあ有難く貰う事にするぜ。丁度、長時間の執筆で肩も腰も限界が来てたからな。お前の代わりで楽しんできてやる!」
「ハハハハ、喜んでもらえたようで何よりです」
「おう、ありがとよ! 仕事終わりにしては中々にナイスなプレゼントだったぜ! きっとお前は出世する人間だぜ! アタシが保証してやる!」
いよっしゃあぁぁぁ!
そうと決まればすぐに準備するぜぇぇ!
えっと、とりあえずは着替えに……枕に……あと金も多めに用意するか! あの辺で売ってる酒と食材はかなり旨いからな! 一通り買い込む準備もしておこうっと! それで……後は――
「いえいえ、まあ……ここだけの話、ムーンさんみたいな暴力女と一緒に行ってくれる様な“彼氏”どころか“友達”もいるとは私は思いませんが。まあ、でも意外と何かのネタになるかも――」
「テメェ……職場帰る前に土に還りたいか?」
「ひいぃ!? ごめんなさいぃぃ! ちょっと、ちょっと本音が出ただけなんです! あっ……でも別にそのチケット4人じゃなくて“ぼっち”でも使えますからね! そこは安心してください!」
「ああ!? なんだとテメェ! 好き勝手に人の精神逆撫でする言葉並べやがって! そこへ直れ! アタシ愛用の大剣で真っ二つにしてやる!」
「ぎゃああああああああ! ヤバい! またうっかりムーンさんの怒髪天衝いちゃった! そ……それでは製本は郵送でお送りしますので――」
「あっ、待て! 話はまだ終わって――」
「はい、それでは原稿も貰いましたし! 私はこれでお暇させていただきます! では今度は続編の打ち合わせの時にお会いしましょう! それでは! 緊急脱出魔法!」
ぐっ……はあはあ……ちくしょうっ!
マジで言いたい放題言いやがって、あのクソ編集め! しかもスライムみたいに用が済んだ途端そそくさと逃げ出しやがって! 次会ったら絶対にメッタメッタにしてやるからなっ! くそ!
「………………………………………」
……と大声で怒鳴ってみたは良いものの。
(さて……マジでどうしよう)
真実は奴がさっき言った通り。
これといって誘える友人の宛てが思いつかず。
(うーん……誘いたい奴はいるが、それでも2人足りないな。せっかく4人までいけるしな……やっぱり大人数で行った方が楽しいだろうしな)
ったく……こういう時に限ってこれといって誰かって思い浮かばないんだよな。しかも他に連絡先を知っている奴って言ったら……後はこの前に女子会で再会したエミリ……あっ、そうだ!
―― ―― ―― ―― ―― ――
こうして。
「で……クロム以外の連絡先は知らないし、他に行く友達も浮かばなかったもんだから、僕の所へ誘いに来たってわけ? ムーン?」
「頼むよ、レオナルドォォォ……それにお前だって温泉好きだろ? 引退後にこういうこじんまりした店を営むのもいいと思うけどさ。それでもたまには外に出て一服するのも大事な事だぜ?」
ひょんな事から温泉という魅力的な提案。
しかも日帰りでは無く、豪華な食事付きでの宿泊という一時的ながら日常とは少し離れた中々に贅沢な休息を味わえるという点もあり、
「レオナルド……私も温泉行きたい」
「あっ、やっぱりエミリアも温泉行きたい?」
「うん……それにレオナルド……最近、依頼や商品材料集めで疲れてるから……ムーンの言う通り……たまには休むべき……だから、行こう?」
なおかつその背中を圧すように、行きたそうにそわそわするエミリアの言葉の甲斐もあってか、
「よし、分かったよ。その提案乗った!」
「オッケー、じゃあ決まりだな! とりあえずチケットは家に置いてきちまったから宿とかの詳細は現地で話すぜ。だから今は集合日の相談――」
彼はそのままムーンの誘いに乗るのだった。
「一応、集合場所はお前も知ってる通り――」
「あの鬼の里だよね、大丈夫。移動手段は幾らでもあるから、集合時間だけ決めてくれたら――」
だが……彼はまだ知らなかった。
まさかこんな所ですらいつも通りの一波乱。
予想していたまったり休暇とは程遠い、ろくに休めもしない羽目になるとも知れずに……。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
次話は本日更新予定です、時間帯は少し考えます。
なお章の名前はもしかしたら変更するかもです。
ではでは最後にもしよろしければブクマや評価であったり率直な感想などお待ちしております!!
皆様がくださる評価等はこの【黒まめ】のモチベに直結するので……あとは飛んで喜んだりもします(´・ω・`)




