80.依頼遂行の為に動くようです
【魔剣ティルフィング】
それこそがマティルダが所有し、扱っていた彼女の精神を狂わせた魔剣本来の名だった……。
「女王陛下! 偵察隊、只今戻りました!」
「うむ……心苦しいが状況を聞かせてくれ……」
「はっ! では早速――」
それで……その性質に関しては暴走していた彼女に近づく直前に僕のユニークスキル【万能――武器性能識別】を発動し、簡単にだけど魔剣のデータを調べてみると概ねこんな感じだった……。
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【魔剣ティルフィング】……所有者の幸せな記憶やその心を貪り、攻撃力を増幅させるという災厄の剣であり、かつてこれを握ってしまった異世界の国王は冷静さを失い秘めていた破壊欲のままに国民を次々と虐殺。一夜にしてその刃を民の血で深紅に染めたとされる“いわく付きの剣”である。
【攻撃性能】……攻撃力は使用者の身体能力に大きく影響し、より強い者ほど切れ味や破壊力が増していく。さらに中でも剣の才がある者は鉄をも砕く高火力の“紫色の斬撃”を放つ事が出来る。
【特徴】……と経歴上では製作者不明のとんでもない威力を誇る魔性の武器だが、その国の英雄達の攻撃で【核となる柄の赤い宝石】共々完全に砕かれており、そこでこの剣の歴史は途絶えている。
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……といった具合に魔剣という悪名に恥じぬ恐るべき呪いがかかった武器をマティルダは所持していたんだった……この【万能―武器性能識別】で見たデータが改竄されていない真実であるならば、破壊されて消えた筈の武器を……そして。
「では報告いたします! 我々の元に届きました偵察隊からの報告ですと闘技場より失踪されたマティルダ様は我が国領土の北西に位置する『暁の谷』へ一直線に向かっていたとのことです!」
「暁の谷か……こちらの被害状況は?」
「はっ! 発見されてしまった偵察隊の数名がマティルダ様と交戦しましたがいずれも軽傷。傷薬や薬草で十分回復可能との事であります!」
「そうか……分かった。下がるがよい」
「はっ!」
現状もあまり芳しいとは言えなかった。
僕がマティルダの攻撃を何度か受け止めた頃、彼女自身もまだ残っている自我と呪いの狭間で戦っていたのかもがき苦しむ声をあげた後に失踪。
魔剣を握りしめたままその限界を越えた身体能力でコロッセウムの各所を足場にして、会場から何処へ飛んでいってしまったんだ……それで、
「ドルマン兵長…………」
「はっ! 女王陛下、ここに!」
「私愛用の戦剣斧を持ってこい……出るぞ」
「なっ! 女王陛下まさか!? 貴方様直々に出向かれるおつもりですか!? なりません! いけませんぞそれだけは! 幾ら貴方様のご息女であろうとも危険です! どうかお考え直しを――」
「やかましい! 考えてどうにかなる脳みそがあるならとっくにどうにかしておる! それに暴走する娘を止めるのは母親以外にあり得んだろ!? 他の者が娘を倒そうという位ならば、例え刺し違えてでもこの私が馬鹿娘を止めてみせる! それが産んだ母親としての責任だ!」
「……お気持ちはお察しします、ですが――」
「ぐっ! 察している暇があるならとっとと武器を持ってこい! どちらにせよ幾らお前達でもマティルダに挑めば簡単に返り討ちにされるぞ!」
今、この女王の間では混乱や動揺の多発。
大切にしていた娘が魔剣の呪いに取り込まれたという重い事態にイザベラ女王は激しく動揺し、自らの手で事態の収拾を測ろうと今にも兵士達の反対を押し切って戦地に赴こうとしていた。
「ええい、これ以上ここで問答をしても時間の無駄だ! 我が愛娘をこれ以上苦しませぬ為にも私自身がやるのだ! 誰も邪魔をする事は許さん」
「陛下! どうか気を静めてください!」
でも……だからこそ!
「イザベラ女王、僕が行きます」
「「「「んな……なんですと!?」」」」
「!? レオナルド、お前今何と!?」
僕はそんな家族思いの彼女にもこれ以上苦しい思いを、大切な娘をその手で攻撃するという精神的にも耐えかねない苦行をさせまいと提案した。
「お前が……あのマティルダを止めるだと?」
「はい……ですが流石に単独では彼女の暴走を完全には止められません。そこで彼女を元に戻すためにもヴィクトリアとメアリーが【僕の案】に乗ってくれるというのであれば、必ずマティルダの持つ魔剣を破壊し、暴走を止めてみせます」
「「レ、レオナルド様……」」
「なっ……何を言っておるのですか!?」
「そうです! 何も貴方が出向かずとも、我々兵士が必ず解決し、無事にマティルダ様をこちらへ連れて戻ってきます! 我々とて命を張る覚悟で任に就いておるのです! ですから――」
「お言葉ですが、最早あの魔剣は貴方達兵士の装備で敵う相手ではないんです。身を守るにも魔法の力が必要なんです。それに……僕の方が貴方達よりも魔剣に詳しい。その所有者の抑え方についてもこれまで経験した戦闘の中で心得ています」
「だが……幾らなんでもお前が向かうのは――」
ああ……もうっ!
ここまで言わせといてまだ尻込みするの!?
心配してくれるのは有難いけど、こんな時に安全地帯から指くわえて呑気に待っていろなんて言うのはどうも僕の性分に合わないんだよっ!
(下手に言っても水掛け論だ……こうなったら)
だったら……もうハッキリ言ってやるっ!
ものすっごい恥ずかしいけど言ってやるぞ!
すごいキザッてる感出るけど言っちゃうよ!?
「イザベラ女王……僕だって善人じゃありません。悪人だろうと誰でも助けを求めてきたら救ってやるなんて偽善を吐くつもりもありません。だからもしマティルダが本物の暴君で他者を踏みにじる様な人柄だったなら容赦なく見捨てていました」
「むっ……ぐぐぐぐ」
「……でも短い間だったけど、僕にとってマティルダという女性はとても温かく優しい人だった。不器用で身勝手なところもあるけど活発で太陽に明るく、国の人からも彼女の優しさを中てられ笑顔で挨拶をする程の人望もあった。そして――」
ええい! もういい、この際だっ!
本当は本人からは隠しておいてほしいと言われてたけど、僕は納得させるため全部ぶちまけてしまえと思って、ここぞとばかりに全員へ向けた。
「大切な家族であり妹であるヴィクトリア達を危険な“暗殺の類から護る”為、“拘束されない自由な生き方を選んでほしい”と一心に願い、女王になると決めた長女らしいマティルダだったからこそ……たとえ僕は命に代えてでも止めるんです」
後で殴られるかもしれないけど僕は言った。
マティルダが女王を目指す動悸、かつてイザベラ女王が重傷を負って城に戻って来た際に、何があっても妹達を護りたいという強い意思を僕は本人に変わり母親、妹達、兵士全員へ告げたんだ。
そうすると、イザベラ女王は、
「…………あくまでもお前は来客だ。我が国の兵士でも部下でもない。だから私には『命令を下す権利』など無いのだ……だが……もし仮にだ……もしお前が『協力』してくれるならば助かる」
「はい、このレオナルド喜んで協力いたしましょう。これも依頼を受けた僕の責任です。この『女王決定戦を審査員として“最後”まで見守り、女王に相応しい人を選ぶ』という依頼を完遂するまでが、引き受けた身の責任なんですから……」
「はっはっは……そうか。では、すまないが頼む。もう一度この私の前にあの馬鹿娘を連れて戻ってきてくれ……いっぱい殴っていっぱい抱きしめてやらないと母親としての気が納まらんのだ……」
「……分かりました」
こうして……どうにか説得に成功。
イザベラ女王自身から出撃の許可を貰う事に成功した僕が次に動いたのは、
「そわそわ……そわそわ」
「そわそわそわ……そわそわぁ……」
そんな如何にも早く声をかけてくださいなと言わんばかりに、イザベラ女王の脇で落ち着かない素振りだけなく、わざとらしく“言葉”までそわそわしていた妹達二人の元へ近づいて、
「ヴィクトリア、メアリー。あんだけ君達のお母さんに偉そうに啖呵切っておいてアレだけど……マティルダを魔剣の呪いから解放するには君達の力がどうしても必要なんだ。少し危険な賭けだけど協力をお願いしてもいいかい?」
「フフフ……レオナルド様。今更になってその問いは少し愚問ですわよ。勿論協力いたしますわ」
「うふふ! レオナルド様。ヴィクトリアお姉様の仰った通りですわ。ワタクシ達だってマティルダお姉様を助ける為なら命くらいいくらでも賭けます! それが姉を想う妹の役目ですもの!」
「はははは! 流石はマティルダの妹達だね、どこまで肝が据わってるんだか……。じゃあ早速マティルダを正気に戻すやり方なんだけど――」
早速魔剣の対処法についての説明を二人へしようとしたんだけど………………その前に?
「レオナルド様。申し訳ありませんがその前に一つだけお話ししたい事があるのです。私達がお姉様が女王を目指す真意を知ったからこそ――」
「ワタクシ達、妹二人が姑息な共闘手段を用いてまで女王になろうとしたかを貴方へ打ち明けようと思うのです。よろしいでしょうか?」
「……分かった。どちらにせよ何処かで尋ねようと思っていたしね。でも手短にしてね」
「「はいっ!」」
先日の真夜中に妹の身を一番に案じていた事を教えてくれたマティルダだけじゃなく、その妹二人が女王を志す動悸も僕は聞く事にするんだった。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
次話は夜頃に投稿予定です(/・ω・)/
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