66.胃袋を掴めば勝ちのようです part2
【料理とは食材の質だけが決め手では無い!】
【料理……それは字面が示す通り。用意した“材料”に手を加えて食物を整える事で、上手くおさめて作る(“理”)という意味を持つ言葉である。
そしてこの意味をちゃんと知ったうえで、博識王であるこの私ガリヴァ―は当時世界随一のコックと呼ばれていた男性の元に弟子入り、数年に渡り料理という奥深い分野において学んだ研究の結果を、簡単に分かりやすく記していこうと思う。
ではまずここでは料理における最重要要素になりうる“下ごしらえ”の重要さについて説明する。
《おい若造。料理は慌てて作るもんじゃねぇ》
《料理ってなあ、下ごしらえが肝心なんだよ》
この言葉は私が修行に入った直後。
先程挙げた名コック、ジャピーア氏が厨房に立った私に向けた言葉であり実に強い言葉だった。
料理とは【下ごしらえ】で全てが決まる。
その言葉の真意は彼曰く、グルメ気取りの馬鹿の中には“高級食材だから”とか“貴重な食材が使われているから”旨いとかいうお門違いな意見を垂れ流す『にわか評論家』も混じっているらしいが……それでも結局のところは料理人の腕の差。
食材の味を生かすも殺すも料理人次第であり、客の舌を唸らせる者は大抵そういった細かい【一手間】を惜しむ事無く、最大限にその材料が持つ旨み、人で言う“才能”に近い部分の開花をさせ方を知っているものだとジャピーア氏は語った。
そして……さらに彼はこうも言っていた。
《まあ分かりやすく言えば、食材ってのはいわゆる真っ白なキャンバスみたいなもんでよ。ただ単に単色を塗りつくしても“味わい”がねぇだろ? またその逆も一緒で、色んな気持ち悪い色で塗りまくっても不気味で受け入れられない。ならばどうするかっていうと、自分で合う“配色(食)”を探すんだ。肉ならばどんな味付けが合うか、魚、野菜、果物、穀物とか自分で調べ作って食べて試行錯誤を繰り返して、テメェの最高の絵を作れ》
彼はそう料理を一種の芸術として例え、実に分かりやすくこうして書籍の一項目として広めたくなる程に興味深く頭に残っている話であった。
よって、食材の質も一応重要ではあるのだが、調理し一品を仕上げるという点における課題はこの“如何に味にこだわり一手間をかけて作るか”という『下ごしらえ』に全てが集約されており、決して上質な食材があるからと、ろくな下ごしらえもせずに慌てて作えば、その貴重な食材の味をも損なってしまう場合すらあるという訳だ。
だからこそ……もっと美味しい料理を作る際にはたとえ些細な味付け、ほんの一工夫だからといって軽視せずに適合する別の材料であったり、調味料であったりと正しい手間の量を増やす事で貴方の望む《最高の味》に到達出来ることだろう】
~ガリヴァ―書房刊『博識王のクッキング本』11の項【味の決め手を学ぶべし】より引用~
―― ―― ―― ―― ―― ――
《さあ! 我らがマティルダ王女! 見事な料理を完成させ、今! 此度の異世界審査員であるレオナルド様と我らが君主イザベラ女王様の元へその運命の皿が運ばれて行きます!》
「よう待たせたな、レオナルド、母上! これが私の全力を込めた料理だぜ! 食ってくれ!」
……何ともインパクトのある一品だった。
「これが我が長女の料理なのか……」
「マティルダ、このメニューの名前は?」
「ああ、これか……そうだな……」
歓声と実況の嵐の中で彼女マティルダが懸命になって作った料理……それは一言で言ってしまえば“見れば誰でも分かる料理”だった。
どんな食材を使っているかまたはどういった調理法をしたのか、どうやって食べるのかが説明なしでも一発で分かってしまう程、単純な外見でいて、思わず目を惹くビジュアルでもあったんだ。
「【ボリューム満点! マティルダ特製《丸焼き特大骨付き肉》 ~空腹から満腹への近道~】ってとこだな! 食欲そそるメニュー名だろ?」
「あ……う……うん。そうだね……マティルダ」
「私達は後に“二食”控えているんだが……」
それは今彼女が発表したメニュー名通り。
僕の前に置かれたのは馬鹿でかい骨付き肉。
ステーキを乗せる熱い鉄板の上に、今もなおジュージューと焼ける音と汁があふれ出す肉という傍から見てるだけでも腹が膨れそうな品であり、
「おいマティルダ。これは……あれか? 骨を掴んでその肉にかぶりつけって事か? ワイルドな感じでガブリッ! と貪り食えって事なのか?」
「ああ! その通りだぜ、母上! なに大丈夫だ、骨の部分は持てる熱さにしてあるからさ!」
「……だとさ、レオナルド。だからその大切そうに持っているナイフとフォークは机に置いとけ」
「…………了解です」
そんな初手から審査員の胃袋を潰しに来るような料理の食べ方を聞いた僕とイザベラ女王は、本人の言う通りそのこんがりと焼き上がった肉の側面から飛び出た骨を掴む事にしたんだ……。
―― ―― ―― ―― ―― ――
ムチリ……ムグムグムグムグ。
ムグムグムグムグムグムグ。
選手の言う通り。
僕達二人は彼女お手製の骨付き肉に軽く一口だけかぶりついて、その味をしっかり確かめた。
確かに初見での派手さは大したものだったけど、料理にとって一番の問題なのは味だからね。
ムグムグムグムグムグムグ。
ムグムグムグムグムグ……ごくり。
《さあ! 両者ともに実食が済みました!》
「よっしゃ! じゃあ二人共、ズバッと私の料理の感想を言ってくれ! まあ今回は特に上手にやけた自信作だからな! 結果は見えてるけど!」
……で今現在、フンッ! フンッ! と自信満々に鼻息を荒くするマティルダを他所にして、僕が何度も噛んで感じた肝心の味はと言うと……。
「マティルダ?」
「おう! 遠慮せずに旨いって言って――」
「なんか……味が【無い】んだけど」
「…………はいっ?」
これが僕の率直な意見だった。
本当に“これ”と言う味が無かった。
例えば焼いただけのトースト的な感じ。
「ハハハハ! 嘘つくなよレオナルド!」
「全然嘘じゃないんだけど……」
「味が……無い? そんな訳ないだろ?」
そう何故か本人は首を傾げてたけど、誤った意見でも別に撤回をしようとも思わない。
でも……いやだからこそ僕はここで敢えて、確認の意味も込めて彼女にこう聞いてみた。
「マティルダ……一つ聞きたいんだけど、これ……何か『味付け』とか『下ごしらえ』した?」
と……すると彼女は、
「アジツケ? シタゴシラエ? なんだその“まどろっこしそうな作業名”は? 私が用意した材料はこの肉一つだけだぜ……なあ審判?」
《はい! マティルダ様が申請されました食材は【タイラントビーフ《加工済み》】だけでございます! 他は調味料等を含めて一切ありません!》
なにぃぃぃぃぃぃぃぃ!?
それ料理って呼ばないよね!?
ただ肉をジュージュー焼いただけですよね!?
「いやあ、料理ってのはやっぱり奥が深いな……聞いて驚くなよレオナルド。実はな……食材って焼き過ぎると黒くなって焦げちまうんだぜ?」
いや知ってるわ、そんなもん!
なに常識的な事をどや顔で語ってるの!?
あとどうして君はそんな得意げなの!?
どんな視点から見下ろしてるんだよ!?
「ふう、まあとりあえずアレだな。もうこれで今日から私は料理が出来る女としての強さを身に着けたってわけだな! 流石、最強の私だな!」
いや一ミリも出来てないんですけど!?
むしろ強さを纏うどころか【料理下手】って弱点を晒して赤っ恥かきまくりなんだけど!?
てか、絶対その辺の主婦の方が上手いよ!
―― ―― ―― ―― ―― ――
《ご……ごほん! そ……それではマティルダ様の料理が終わったところで、次の王女様は――》
こうして……もうのっけものっけ。
開幕からグダグダもいいところという。
「レオナルド……すまん。これが王家の実態だ」
「人って“食べてばかり”だと割と何も分からないもんなんですね……勉強になりました」
「くそ……返す言葉も見当たらんぞ」
一応観客席はそんな王女様の巨大な肉を丸々焼くという豪快な調理法や非常識っぷりにウケたりはしていたが、それでもお粗末すぎる結果。
「今思い返せば……教育科目に料理は無かったからな。まさか味付けも何も知らずに【まんま素材の味】を生かしてくるとは思わなかった」
「次世代から設けるべきですね……このままだと確実に、次の候補者達もこういう感じで酷い赤っ恥をかく結果になりますから」
料理の儀という名目に名前負けする始末で一番手の出番が終了するのだった。
でも……。
「そう言えば次って――」
「メアリーだな。まあアイツならば大丈夫だ」
「ほっ……良かった。メアリーさんは三姉妹で真面目そうな人だし、今度こそ楽しみにします!」
僕はこの時にはまだ知らなかった。
この《次》こそが最もヤバい事とは……。
まさか料理で、【あんな大惨事】が起ころうなどとは予想だにすらしていなかったのだから……。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
次話については現在執筆中で間に合えば明日投稿予定です。
今回と同じ様に正午以降【直接投稿】致します。
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