58.それでも子供とは可愛いようです
親とは……表面上こそ子供に対して厳しかったり時折口喧嘩をしたり、さらに酷い時は取っ組み合いになったりと感情の行き違いこそ多々あるが……。
「では次は宝物庫を案内してやろう! ちゃんとついて来るんだぞ! この城は広いからな迷子になっても私は責任を取りかねるぞ! ハハハハ!」
「あっ……はい、分かりました」
「なんだ? ノリが悪いぞレオナルド! このイザベラ女王自らがわざわざ客人のお前の為に時間を割いてやっているのだ! もっと喜べ!」
そして……それが母親。
特に可愛い娘に恵まれた母であれば、海よりも遥かに深く美しい愛情を胸中に抱き、誰よりもその娘達を愛おしく感じているものである……。
「………………」
だからこそ……だったのか。
「イザベラ女王……」
「うん? どうした?」
すっかり機嫌を取り戻し、今ではスキップで城を案内するイザベラに向け、レオナルドは尋ねた。
流石に本人達の前では小っ恥ずかしくて、中々口に出せない三人の娘に対する思いについて、
「さっきは王女様達の事ではふざけて、あんな変な説明を混ぜていましたけど、本当は……彼女達、娘さん達の事をどう思っているんですか?」
「…………………………」
彼はそう尋ねたのだった……。
……すると?
「……レオナルド」
「……はい、イザベラ女王」
「その……これは私の独り言だと思って、お前はこの廊下の景色でも見ながら聞き流してくれ」
「……分かりました」
イザベラは大きく一息つき、上機嫌から来る感情の昂ぶりを抑えると、目的の部屋へと歩を進めながら落ち着いて語り始めていくのだった。
―― ―― ―― ―― ―― ――
「まあ……なんだ。その……さっきの紹介ではふざけた性癖をぶちまけた事に続けた末に、逆切れしてかなり取り乱してしまったが……何だかんだでアレでも私の可愛い娘達には違いないのだ」
そうして……イザベラもまた一人の母親だった。
恵まれた三人の子を持つ母親として、子に対する愛情の深さはこの女王だって同じだったのだ。
「特に長女と次女に関しては私に似て、悪い方向へ成長した気がしなくもないが、三人とも全員、私がお腹を傷めて産んだ子供だからな。叱りつけこそするが、実際は可愛くて仕方が無いのだ」
「……………………」
レオナルドへ城内を案内していく廊下の最中。
イザベラは安らかで明るい表情をしつつ、静かに聞く耳を立てる彼へ先刻の紹介に挙がった性格や素行等の欠点面を補う様にこう告げていった。
「そしてマティルダはな……あんな粗暴そうに見えるが、実は面倒見の良い長女なのだ。私が国政で手が離せぬ際はアイツが代わりになって、まだ幼かったヴィクトリア、そしてメアリーの面倒をよく見てくれていたのだ……まあ……世話の仕方は不器用な奴だったから……そこは勘弁だが」
まずは長女の長所についての語り。
姉妹間で暴君と呼ばれている長女マティルダについて、イザベラは彼女の幼少期を語っていく。
「実のところな……マティルダはあの二人に比べると【5つ】歳が離れているんだ。だから恐らくお前と同年代か、それ以上ってところだろう」
「5つもですか……全然気が付きませんでした。若い女性って割と年齢の見分けつかないですね」
「ハハハ……そうだろう。それで逆にヴィクトリアとメアリーは歳の差が殆ど無くてな。正直に言ってしまえば【双子】なのだ。二卵性だから容姿は似ていないが、殆ど同時期に生まれた娘だ」
「それで……いきなり二人の妹を持つお姉さんになったマティルダは、幼い彼女達の世話を――」
「ああ、そうだ。だからこそ、その影響かヴィクトリアもメアリーも、今以上にマティルダの事を姉様と慕っていてな。特にぐずって泣きだした時なんかはアイツがいないとてんてこ舞いだった」
それはまさに天邪鬼の様な発言。
娘の自己紹介の時は真逆であり、今彼女の口から次々と出てくるはマティルダの美点ばかり。
「それで二人はいつもその傍を付いて回っていた。だからこそ国民達もアイツ等の仲良くする姿を見てこの国は安泰だとか、仲良し三人組だとか、終いには国の偶像なんて言われてたものだ……今でもあの光景はよく覚えているぞ」
「イザベラ女王……」
「それに……残る二人の娘だってそうだ。ヴィクトリアは頭がキレる上に器用な娘でな。勉強がイマイチだった長女に色々教えてやっていたのは殆どアイツだ。指南役顔負けの教え方で覚えるのが苦手な計算や言葉などを次々と教えこんでいった……三姉妹の頭脳だ、アレは」
続けて……イザベラは語っていく。
かつて三人の娘が仲良く遊んでいた広い中庭を見て、年甲斐も無くついつい過去を偲んでしまったのか、隣にいるレオナルドへそのまま告げる。
「それに中々にしたたかな奴でな。頭脳派のアイツと行動力のマティルダが共闘して悪巧みをした時は、もうとても手に負える案件じゃなかった。かくれんぼなんか特に酷くてな。盗んでた食料持って一週間潜んでた時なんかは国中大騒ぎでな。捜索隊まで出したくらいだ……だがそれでも可愛い娘なんだ、長女と同じでヴィクトリアもな」
度々城の憲兵達とすれ違い、歩幅もいつしか小さくなりつつも宝物庫へ着く間の許す限り、イザベラは見てきた娘達の行動や、自分に似ている部分や愛しく思える点を事細かに説明していき、
「そして最後、三女のメアリーだって同じだ。確かにアイツは私似の二人とは違い、夫に似て大人しい性格ではあるが、それ故になのか人と人の間を取り持つのが非常に上手い。だから長女と次女が意見の不一致とかで喧嘩した時の仲裁役は決まってアイツだった」
「あはは……一番気苦労が多そうですね」
「ハハハ……そうとも……アイツは本当に愚直で真面目な奴でな。力なんて全く無い癖に、いつもその喧嘩の間に入ってはボッコボッコにされて泣きっ面で戻ってくるんだ。だが、そんなんでもいつ間にか不思議と喧嘩が治まっていたんだ」
口に出して語る事で蘇っていく記憶の中。
ふと過去の光景を思い耽りつつ、次女に続き三女メアリーについても外すことなく、先程説明できなかった彼女の良さもしっかり語っていく。
「そうさ……アイツは特に力はからっきし、頭も悪くは無いが所詮は秀才止まり。天才に近いヴィクトリアには敵う訳も無かった。しかし、その大人しい性格に加えて三女という立場だからなのか、姉妹間でも一番可愛がられていてな。きっとアイツは人に好かれる性質を持ってるんだ。それを証拠に……他国との交渉事とかで、付き添いにアイツを連れて行ったら見事商談が纏まるんだ」
「凄く……羨ましい性質ですね」
「だろ? 姉達に身体面では勝てずとも、メアリーもまた違った特色を持っているのさ。だからこそ母親としてはそんな様々な強さを持った可愛い娘達を持てた事が最高の幸せってわけなんだよ」
(……本当に温かい話でした、イザベラ女王)
そうやって……。
「おっと……そろそろ宝物庫だな。よし、すまなかったなレオナルド。まあ……年老いた母親が語るつまらない娘の自慢話だとでも思ってくれ」
「……イザベラ女王一言だけいいですか?」
「よし、遠慮せずに申してみるがいい」
「それを聞けて、安心しました。思わずほっこりして眠たくなりそうな実に見事な紹介でした」
「ハッ……ハッハッハッハ! やめろ、自分で言ってても恥ずかしいんだ。どれだけ親バカかって分かっちまうだろうが! ハッハッハッハ!」
歳のせいか、必要以上に娘に対する思いを語ってしまった恥ずかしさを誤魔化すように笑う中。
レオナルドはイザベラ女王の愛の深さについて、感心の声を返し、温かい気持ちになるのだった。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
ひとまず現在完成している分だけ投稿しました。
次話につきましてはプロット・イメージが固まったうえで現在執筆中の為、また出来るだけ書き溜めした後に余裕を持って連日で投稿していきますので是非ともよろしくです( ;∀;)
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