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57.遺伝子とは洒落にならないようです


【女王決定戦】


 それはまさに名の示す通り女(・)王(・)を(・)決(・)め(・)る(・)為の神聖なる儀式であり、なおかつ先代の女王が新たな世代に未来を託すという立派な催し物である。


 さらに歴史も深く、起源は遡ること数百年前。

 この国【アルテミアーナ】を建国した初代女王イカルスが、より強くより魅力的な女こそ国の統治者として相応しいと決めたのが全ての始まりとされる。


 現在では世代を超えつつも王座を継承していった女王達により、僅かずつ改変が為されていった規則および儀式名に関しては以下の通りである。



【女王立候補の権利を持つ者】

 女王の候補者は継承した王族に限定される場合が多いが、もし仮に現女王が女児の子宝に恵まれなかった場合は現女王が認めた複数名の女性に【女王決定戦】へ出場する権利が与えられる。



【儀式名】

 女王決定戦は以下の儀を執り行うものとする。


 一回戦【料理の儀】……料理の腕を競う儀式。

 二回戦【美貌の儀】……美しさを競う儀式。

 三回戦【最強の儀】……戦闘力を競う儀式



【審査員】

 平等を期す為、異世界より召喚した男性。



 そうやって……こうした三つの【料理】【美貌】【最強】の儀を闘技場《アマゾディア・コロッセウム》にて全民衆の前で執り行い、最(・)も(・)勝(・)利(・)回(・)数(・)の(・)高(・)か(・)っ(・)た(・)者(・)へイカルスが太古の遺跡にて発見した“銀の冠”を現女王が勝者へと授け、その者が国に輝かしい明日をもたらす女王となるのだ。



 以上がこのアルテミアーナの正式な女王の引継ぎ内容であり、もしこの儀式を執り行わず女王となった者はイカルスの鉄槌が下るとされており、例え王族であれど厳罰に処されてしまう。



 なお、異世界審査員のその後についてだが――



 ~アルテミ文庫『アルテミアーナの王族歴史』13の項【女王決定の儀式】より一部抜粋~




 ―― ―― ―― ―― ―― ――




「……とまあ大体こんな具合だ。あくまで概要だけで詳細は追って話そうと思うが、とりあえずは分かってくれたかな? レオナルド?」



 口頭での説明ではあったが、イザベラ女王は国の古くからのしきたり【女王決定戦】についての概要をレオナルドに説明し終えた。



「一つ質問良いですか?」


「構わん、何でも尋ねるがよい」


「この世界って魔法あるんですか?」


「ああ、それについても……追々話そう。後で城内を案内するからな。その時にでも軽く話す」


「分かりました」


「うむ、それでは改めて此度の女王決定戦の出場者である我が娘達の紹介をするとしよう!」


 そうやって、イザベラ女王は彼との応答を終えると大人しく各々の席に腰掛けていた三人の娘。


 今回の決定戦の主役となる女性達に目を向け、



「まずは長女のマティルダからだな。おいマティルダ、自己紹介しろ!」



 異世界から召喚されたレオナルドへ詳細を伝えるよう促した。



「おう、任せてくれ母上! 私はマティルダだ! 大好きな食い物は肉! 大好きな事はとにかく暴れて体をたくさん動かす事だ! だから喧嘩ならこの国の誰よりも強いと自負しているぜ。今日からよろしく頼むなレオナルドッ!」


「こちらこそよろしく、マティルダ王女様」


 ……性格の分かりやすい話し方だった。


 母親譲りの金髪に、女性らしく成長した体を強調するような布面積の少ない紅蓮のドレスを纏った長女マティルダが初めに名乗った。


「こちらこそよろしく、マティルダ王女様」


「アッハッハッハッハ! よせやい、そういう堅苦しいのは嫌いだから気軽にマティルダって呼んでくれ! 私もレオナルドって呼ぶからっ!」



「じゃあ、マティルダ。短い間だけどよろ――」



「ヒソヒソ……ちなみにア(・)レ(・)は姉妹内では【暴君】と呼ばれていてな。まあ理由は聞いた通りだ。とにかく喧嘩っ早いうえに実行力の半端なさ。性格は完全に男勝りで、この前も訓練に付き添った城の兵士百人を全員診療所送りにしやがった。まったく誰の遺伝子で生まれてきたんだか一生の謎――」



「ヒソヒソ……ご紹介中の発言で申し訳ありませんが、マティルダは間違いなく貴方の遺伝子を継いでいますね。さっきのお仕置きがその証拠です」



「…………ぐぐぐ」



 するとレオナルドにあっさり返されてしまったが、平等に審査を期してもらう為にとイザベラは娘たちの裏(・)の(・)顔(・)を知る者としてこっそりと告げたのだった。



「それでアレが次女のヴィクトリアだ」



「はい、ご紹介に預かりましたヴィクトリアと申します。レオナルド様、これからよろしくお願い致しますわね。今後共にどうかお見知りおきを……あとお姉様と同じく私も呼び捨てでヴィクトリアとお呼び下さい」



 長女の自己紹介が終わった次は次女。

 

 気の強さがそのまま表れているような紅いドレスのマティルダとは違い、黒妖しさを思わせる紫のドレスを纏った麗しい姿の次女ヴィクトリア。


「よろしくね、ヴィクトリア」


「はい。レオナルド様」


 容姿についても片目が隠れるように伸びた父親譲りの黒髪や、目元の泣きぼくろが整った顔立ちをより一層際立たせる長女とはまた違う魅力を醸す女性であり、



(発言や性格はともかく、マティルダもそうだったけど……本当に綺麗な女性ばっかりだ)



 レオナルドは男性としての視点でそんな彼女の美貌を評価し、次女(ヴィクトリア)のミステリアスな雰囲気を醸す美しさに思わず見惚れそうになる――



「ウフフ……決定戦の時をお待ちしております」


「あっ、はい……分かりました」


「ウフフフフ……可愛い殿方ですこと」


「い、いやそんな事は……(馬鹿! 一体何をドキドキしてるんだ僕は!)」



 そんな最中。



「おい、レオナルド惑わされるな。アレはああ見えて“ドS”なんだ。しょっちゅうどっかド(・)М(・)を(・)鞭(・)で(・)や(・)た(・)ら(・)叩(・)い(・)て(・)は(・)興(・)奮(・)を(・)覚(・)え(・)る(・)様(・)な(・)変(・)態(・)娘(・)でな。この前も男女問わずに何人が犠牲になったもんだから、後処理が大変だったんだぞ!」



「……………………へっ?」



「あらあら! お母様ってばなんて誤解を招く発言をなさるのですか!? 私はあくまで調(・)教(・)と(・)い(・)う(・)名(・)目(・)で(・)殿(・)方(・)女(・)性(・)問(・)わ(・)ず(・)攻(・)め(・)て(・)い(・)る(・)だけですわ! 妙な言いがかりはよしてください!」



「嘘つけ! この前も親衛隊のアマーリアが同隊内で言ってたのを聞いたぞ! 【もう凄いんですよ、ヴィクトリア様の鞭捌き! ワタシ初めてお相手させていただいたんですが、攻め方が上手過ぎて奴隷になりました!】ってな! 頼むから城内にドМ変態を量産するのは止めろ!」



「すいません! 先程僕が抱いてしまいました幻想の撤回をよろしいでしょうか!」



 母親の告げ口により一瞬にして期待は急暴落。


 まさに魅力の一切をかなぐり捨ててしまうイザベラのとんでもない暴露により、レオナルドの中でのヴィクトリアのイメージが急降下していった。



「とまあ、こんな具合でな……まあ、見方によってはある意味一番【女王様】しているわけなんだが。残念だがこの国は“SMクラブ”では無いのだ。本当に……アレも誰に似たのか不思議だ」



「すいません、女王様。その手元の鞭は一体?」



「ああ、これか? これは……その【調教用】の鞭だ。最近刺激が足りないって夫が言うもんだから……その……町の武器屋に特注で――」


「いや、完全にアンタの遺伝子じゃないですか!? しかも長女の性格に続いて次女の性癖まで! よくもぬけぬけと誰に似たのかなんて吐けましたね!?」



「……あの頃は快感が必要だったのだ」



「……この国最大の損害は、貴方が女王に即位された事だと僕は今確信したような気がします」



 下手を撃たずとも牢屋で終身刑。


 もしくは斬首刑にでも処されそうなレオナルドのカウンター発言だったが、堂々とした態度の彼にかなり痛い所を突かれた影響かイザベラは返す言葉も発さず、



「ごほん……では最後だ。メアリーッ!」



「は、はいっ! イザベラお母様!」


「自己紹介しなさい、緊張しないようにな!」

「はいっ! 失礼なきよう頑張ります!」


 長女、次女と来て残った三女メアリーの紹介。

 マティルダと同じ金髪に明るい若草色のドレスを身に纏う先までの二人とはこれまた違った何処か気品に満ちた美しい女性であった。



 ……そして!



「わ、ワタクシは三女のメアリーと申します! さ、先程はその……お見苦しい物をお見せしてしまい申し訳ありませんでした!」



(なるほど……メアリーさんか。見た感じは大人しそうで良い人っぽい……んんっ!? あれ、待って! なんだろう……この違(・)和(・)感(・)?)



 レオナルドはメアリーの言葉遣いに思わず絶句。


 なぜなら先までの姉二人に比べダントツで常識人らしい発言の内容、控えめな性格を表す物怖じしつつも発せられる性格に驚愕を隠せなかったから。


(おかしい……先のお姉さん達の性格や素行から鑑みるに、絶対この子も何か【ヤバそうな爆弾】を抱えている筈……いや……あ、そっか……)



 だからこそ、



「どうだ、おしとやかで可愛い奴だろ。これこそ私の娘だ! この愛おしさに物静かな佇まい、いやあまるで私の若い頃にそっくり――」


「そっか、【お父さん似】なんですね!」



 レオナルドは速攻で理解したのだった。


 すると発言を遮られた挙句、恥を上塗りするかの如く自分の性格をメッタメッタに馬鹿にされたイザベラは――



「………………レオナルド」


「はい、どうしたましたか?」


「オマエ、アトデコロス」


「……じゃあその前に、貴方の残念な遺伝子を継承させた大罪について、彼女達へ謝罪を――」



「う、うがあああああああああああああ!」



 ブチ切れた。



「あっ! やべぇ母上が癇癪を起こしやがった!」

「お母様落ち着いてください! 怒りの原因は分かりますがレオナルド様の仰ることはごもっともです! 残念ながら母上は“暴れん坊”で“ドS”で“短気”の最悪三拍子を背負っております!」


「キサマらぁぁぁ! 娘なら私を弁護せんか! この母親の名誉が失墜しようとしているんだぞ!? 少しは私の肩を持ったらどうだ!?」


「「「……それは無理です!」」」


「うんぎゃあああああああああああ!」


「あっ、やべ! 余計な油注いじまった!」

「お母様、花瓶は投擲具ではありません!」

「イザベラお母様! どうか冷静に!」



 ……とこうして。



(この国……大丈夫かな?)



 異世界へ召喚されて間もないレオナルドにすら国の行く末を心配される始末だったが、とにかくイザベラは彼へ向けて重要な女王決定戦の説明と、今回のトラブルの主役となるであろう三人の女王候補の紹介を終えるのだった。


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