50.最後の最後で胸騒ぎがするようです
騒動の全てが片付いた。
謎の幽霊船出没から始まり、捕らわれた女海賊キャットの魂解放に続いて幽霊船長サラザールの記憶巡りと……そして――
「まさか時空を隔ててまで復讐させてやるとは。おっかねぇぜ、冗談抜きでよ……。俺様が知るレオナルドって奴はもっとこう……なんつうか――」
「…………………………」
レオナルドのユニークスキル【万能―制限転移】により、幽霊船長サラザールが彼らの世界に迷い込む引き金となった外道貴族スプリークへの報復行為も見事に完遂させた。
「その、上手くは言えねぇんだが……」
金に卑しいスプリーク達をおびき寄せるべく、ティーチ達の少ない財宝と偽の宝の地図を用意し、餌を求めてやって来た権力豚を特殊能力で【摩訶不思議な霧の空間】へ引きずりこみ、撃滅という確実に叩き潰す手段で壊滅させたのだった。
「ここまで容赦ないとは思わなかったぜ」
そうして何もかもが終わり、無事に解放されたかつての同胞の女海賊キャット達や他の海賊団と別れて帰還する中……船長ティーチは若干震える声で大胆な行動を取ったレオナルドへ向けた。
「ティーチ……悪いけど僕は善人じゃない」
するとレオナルドはティーチの隣で冷静に返すと、そのまま言葉をこう連ねていった。
「そりゃあ、僕だって人助けはするよ。感謝の言葉はとても温かい気持ちにさせてくれるからね。でも……僕の性根ってやつは君達が思っているよりずーっと重くておぞましいのさ。それに――」
「そ、それに?」
まるで遠い彼方を眺めているかの如く。
何かを悟ったような瞳でレオナルドは輝く星空を眺めながらさらに続けた。
「人道から外れた【外道】に明日なんか無いのさ。人は神に上がる事は出来ないけど、逆に言えばそれ以下に落ちる事も早々無いんだ。でも、己が身可愛さに殺される度胸も無く、ただ私利私欲のままに他者を踏みにじって来た人間はいつか【魔物】に変わるんだよ」
「ま、魔物……にか?」
「そう。見境なく人の血肉を貪り食う魔物だ。そして一度魔物に身を堕とした人はもう元には戻れないし戻る資格も無い。後はただ狩られるか、さらに狂暴な魔物に変貌するかのどちらかしかない」
「……………………」
瞬間。船長ティーチはレオナルドの心中の片鱗を見た気がした。
職業こそ雑用係だが、その《LV.99》という圧倒的な強さの奥に秘める人物の考え、これまで覗いた事もなかった得体の知れなぬ底の一部を味わった気がした。
「だから僕はそんな魔物と対峙したら絶対に殺すと決めてる。奴らの命乞いに貸す耳の持ち合わせも無い。ただ一方的に残酷に見合った【罰】を“それ”に与えるだけなんだよ、僕は……」
ここまでの人生で何を見てきたのか。
どんな苦汁を舐め、何を経験すればこれ程の刹那的な思考に至るのか、最早『天の箱舟』にいなかったティーチになどは検討すら付かなかった。
だからこそ、今は――
「レ、レオナルド……」
「ごめん。少し話が逸れちゃったね。じゃあ今回の依頼達成の報酬についてなんだけど」
「お、おう! そうだな。任せてくれ!」
コイツにも色々思う所があったんだろうと、聞くのはレオナルドが口にした言葉のみに絞り、下手に深く踏み込まず軽く聞き流してやるのが正解に違いない。
そうティーチは友人の事を気遣い思考を切り替え、依頼達成の約束としてレオナルドが望む内容を尋ねていった。
すると?
「事が済んだ後にあのサラザール船長から聞いたある男の行方について調べて欲しい」
「オッケー、お安い御用だ。お前に追われるその可哀想な野郎の特徴を教えてくれ。なるべく詳しくな。海で零れた情報なら拾ってやれるからよ」
「分かった。それじゃあ――」
レオナルドは最後に今回の報酬について、【とある人間の情報】を欲する事に変更し答えた。
「性別は男。初老の男性、風貌に変わりないなら髪は黒、身長は約180㎝。それと世にも珍しい《時空系の魔法》を使う事が出来る」
「……なんかピンと来ねぇな。だがどっかで聞いたような気も……それで?」
何やらイマイチ役立ちそうもない情報ながら、妙に引っかかりを覚えるティーチが首を傾げるまさにその矢先…………レオナルドは発した。
「それで。サラザール船長の話だと名前を【吊るされた男】って語ったんだってさ」
一気に正体に迫る核心の情報を――
「なっ!? ハン……グ!? 待て待てレオナルド! ……って事はまさか今回の出来事は!?」
「そう、アイツの仕業だ」
「で……でも奴はお前が! お前ら天の箱舟があの悪夢の牢獄『ゲヘナ・アルカトラ』にぶち込んだ筈じゃ!? 今更なんでそんな奴が!?」
「だからそれを調べて欲しいんだ。奈落牢獄には船でしか近寄れないし、僕は以前に少しやらかして出禁を食らってるからね。ちょっとした情報でもいい。そいつがどうしているのか調べてほしいんだ。オッケー?」
両者共に知るその“ハングドマン”について、語っていたレオナルドはまだしも聞いていたティーチは激しく取り乱しこそしていたが、
「はあ……しょうがねぇ。いいぜ、どんな機密情報でも案外どっかで漏れるもんさ。時間はかかるが海賊仲間や周辺の島で情報を探ってやる」
「ありがとう。頼りにしてるよ」
船長ティーチは快く受託し、同時にレオナルドが受けた依頼も完全に終了した。
最後に、時空の穴を開ける事が出来る魔力を持つどころか、魔法の存在すら知らぬサラザール船長をこちらの世界へ召喚して、人の魂を集めるよう命じた黒幕の情報を欲して――
ここまで読んでくださりありがとうございます。
これにて四章は幕引きとなります(`・ω・´)ゞ




