47.ついに暴かれる時のようです
「…………」
レオナルドは全てを知った。
名無しの幽霊船長の名前は勿論、彼がどんな人物であったか、どんな仲間と冒険したか、どんな人達に好かれていたのか。そして最後にはどんな死に方をして、この世界に来たのかを、
「………………行こう」
レオナルドはそれを忘れた本人へ伝えるべく、日記の過去世界から戻り目を覚ました船倉から出ていった。
船長が大切にしていた二冊の日記を持って、何処か重苦しい表情でドアノブを捻った。
すると?
「……どうやら何かを見つけたようだな? レオナルド?」
「ああ、ちょうど今しがたね……」
レオナルドが船倉から出た途端。
船倉の扉の前で待機していた幽霊船長は仲間の屍人達を背後に控えさせ、酷く掠れた声で船長は尋ねた。
「ふむ……では答えを聞こうか」
レオナルドが掴んだという情報。
思い出そうにも彼方に消え去ってしまった記憶、自分が何者であるのかという証明を求めた。
「お前が掴んだという情報……つまり私の正体をーー」
まるで【砲撃】や【爆発】にでも巻き込まれたような、あちこちに”穴の開いた甲板”や”船室が存在する”朽ち果てた幽霊船上では問いただした。
そうすると。
「勿論教えるよ。でも、分かったのはなにも船長の正体だけじゃない。こうして集まってもらった屍人の船員そしてこの幽霊船の経緯を混ぜてね……」
対しレオナルドは物怖じなどする事無く、真っ直ぐな眼差しで全員に聞こえる声で返答した。
「「エッ……オレ達の正体まデ?」」
「「こノ船の経緯までだッて?」」
「………………。賢そうなお前なら重々分かっていると思うが……答え合わせの前に一応警告だ。デタラメや嘘は許されんぞ。仮に天文学的な確率で名前を当てたとしても、我々が納得に至る根拠がなければ、その時点で終わりだ。お前もあの海賊団も人魂に変えるぞ?」
幽霊船長は彼の発言を受けて今一度確認した。
今回の課題。失敗した時のペナルティ。もしも大法螺を吹いて勢いで煙に巻こうとしたり解答を誤った時点で人魂に変えられ、永遠にこの幽霊船の一部になってしまう事を、
「分かってる。こっちも知り合いの為にこの課題に挑んだんだ。いまさら偽情報で誤魔化そうなんて、はなから思ってはいないよ」
「よし、では答えを聞こう」
そしてレオナルドは互いに確認を済ますと、改めて解答を求める幽霊船長に対して懐から、
「はい。この【二冊の日記】が君の記憶を呼び起こすのに必要な証拠だ」
「これは……私の持っていた日記ではないか!? どうしてお前が!? いや、それよりもこれは……二冊とも焼け焦げて朽ちていたはずなのに、なぜ元通りに!?」
幽霊船長が大切にしていた日記を渡した。
記憶を無くしてもなお、無意識の内に保管して大切に守っていた日記二冊ーー
「日記に宿っていた“過去”を辿ってから、僕のユニークスキルで【復元】しておいたんだ。だから今はちゃんと読めるよ。君の黒い日記と……それからそっちの豪華な日記もね」
黒の日記と金の刺繍入り日記の二冊を……。
「さあ読むんだ。まず先に金の刺繍入りの日記からね。きっと君にとっては非常に辛く耐え難い内容が記されているだろうけど、今こそ過去と向き合うんだ……」
レオナルドは証拠として提示し、幽霊船長へ中身に目を通すように促した…………すると。
「…………分かった、読もう」
最後に幽霊船長はそう小さく溢し、ペラリと捲った元通りの日記へと目を通していくのだった。
今回の鍵を握るその金の刺繍入り日記を、
「せ……船長?」
「そんな日記に何がーー」
「しっ! 君達は黙ってて!」
「「お……おウ、分かったよ」」
幽霊船長は読み耽っていった。
「…………………………」
仲間達の言葉に耳を傾ける事なく、無言で刺繍入りの日記の内容を指で伝って読んでいく。
この場に自分しかいないと感じる程に深く集中し、明らかに自分の字ではない、まるで【女性が書いたかのような】繊細な文字で記された日記を黙読した。
「…………………………」
一枚、また一枚と。
書き慣れない内容だったのか所々に書き直した痕跡もあったが、とにかく幽霊船長は骨の指で破かぬよう慎重な手つきでページを捲り、目を通していった。
「…………………………」
そうして……。
~~ ~~ ~~ ~~ ~~ ~~
△月〇×日
【本日の天気】……………
恐らく……このままわたくしは死ぬでしょう。
ですが……かと言って……もう気力も残っていません……あの船長様が処刑されたと聞いた日から……わたくしの中の何かが壊れたのです。
そして多分それはわたくしの生命を維持していた……例えるなら【核】のような物が零れ落ちたのでしょう……ですからこの日記を記す時以外には……もう出来る事など何もありません。
今となっては……明日を生きる為の食事すら喉を通らず……全て戻してしまうのですから……。
~~ ~~ ~~ ~~ ~~ ~~
「…………………………」
ついに、幽霊船長はそこにたどり着いてしまった。
誰が読んでも進めるのが辛くなってくる、持ち主である女性が苦しむ心境を綴った後半部分をただ静かに目を通していった。
(次で……終わりか)
そして彼はまだ捲っていった。
なにか妙な感覚に襲われながらも、船長は日記の最終ページを捲った…………するとそこには、
~~ ~~ ~~ ~~ ~~ ~~
△月□□日
【本日の天気】……………
もうペンを握る力も殆ど残ってません。
ですが生涯最後の日記として、何としてもこれだけは……この気持ちだけは書き留めておきたいのです……あの方への想いだけは……。
スプリーク殿の嘘だと分かっておりますが……たとえ貴方様がわたくしの暗殺を企てていたとしても……別に構いませんでした……なぜなら。
なぜなら……わたくしエリザベートは最後まで貴方様を“お慕い”しておりましたから。ですからわたくしの救世主である【サラザール・ジョーンズ】様……もうすぐわたくしもそちらに逝きーー
~~ ~~ ~~ ~~ ~~ ~~
「…………」
……最終ページにはそう記されていた。
命の灯火が消える直前までの内容。
エリザベート姫が船長に抱き、叶わなかった儚き“想い”が赤裸々に記してあったのだった。
「…………………………」
力のない酷く掠れた文字でーー




