45.最悪の時を迎えたようです
ズドンッ!
突如、海賊達は勢いのある大砲の発射音と共に大量の黒い雨に晒された。
ズドンッ!! グシャア!!
「うぎゃああああああああ!!」
「うわあああああああああ!!」
ズドンッ!! ドガァン!!
「ぐぎゃああああああああ!!」
「ぎゃあああああああああ!!」
さらにそれは思わず口元を抑えたくなる程の想像を絶する無慈悲な光景。
「撃て撃て撃て撃て撃て撃て!」
「全艦砲撃! 目標、【*$?&%海賊団】」
「一切の容赦はいらん! 完全に沈めろ!」
ズドンッ! ズドンッ! ズドンッ!
ズドンッ! ズドンッ! ズドンッ!
「うぐぐぐ、な……なんで……ガクッ」
「なんで俺達を攻撃してんだよっ!?」
「俺たちゃアンタらの味方だろうが!?」
ズドンッ! ズドンッ! ズドンッ!
ズドンッ! ズドンッ! ズドンッ!
だが、数名の乗員の咆哮など虚しく。
とめどなく【砲撃】の轟音が彼らの声を掻き消し、一行を囲うように動く三隻の戦艦から情け容赦ない砲弾の雨が降り注ぐ。
「全砲弾を海賊共にぶち込んでやれ!」
「ありったけの火力をお見舞いせよ!」
「例え白旗をあげようとも沈めろっ!」
ズドンッ! ズドンッ! ズドンッ!
ズドンッ! ズドンッ! ズドンッ! と。
唐突過ぎた為に、ろくに戦闘態勢すら取れていない無防備なたった一隻めがけての一斉射撃【砲弾の雨】が降り注いでいく。
「ぐ、ぐぬぬ!?」
「せ、船長!? なんでこんな!?」
「あの艦隊は味方なんだよな!?」
エリザベート姫が誘拐された。
そんな口実一つで此度の貴族への昇格式へ向かう船長達をおびき寄せるには充分だった。
内容としては以前に沈没させたジルド海賊団の残党の手に落ちてしまい、国から程遠い海流の粗い場所にて復讐を胸に彼ら一団を待つという……見え見えもいいところな偽情報。
「あいつら、俺達と一緒にお姫様救うって――」
「ジルド共のアジトに案内してくれんだろ!?」
しかし、姫の身を一番案じていた船長と一団は乗ってしまった。
よもやその情報が自分達を海の底へ沈める為、皆殺しにする為の計画だとは露知らずに、
「な、何故だ……何故!?」
けれども船長には情報の真偽の一切を確認する時間などは既に微塵も無かった。
今はただ……自分の船団が破壊されていく様を、
「また撃ってきやがった! ぎゃあああ!」
「ぐぎゃああああああああああ!」
「ゲボッ! ゴボッ……くそ……ガクッ」
「船長! マグドが! それにエルも!」
「ぐっ……何故……どうして我々が……」
苦楽を共にした仲間達が吹き飛ばされ、立て続けに命を落としていく姿を見るしか出来なかった。
次から次へと振ってくる黒き炸裂弾の着弾に巻き込まれ、死んでいく姿を……。
「どうして私達がこんな目に!?」
時間にしてほんの1~2分の出来事。
船長含め全員が姫奪還にのみ意識を向けた事が仇となり、指揮の遅れに繋がり一瞬で瓦解。
副船長のサポートも虚しく崩壊していった。
そして……ついにとどめとして。
ズドンッ! ヒュルルルルルルルル……。
「!? 船長危ない!」
ドガンッ!!!
「うぐあっ!?」
「「「せ、船長ぉぉぉぉぉぉ!!」」」
船長の体は大きく吹っ飛ばされた。
船尾に直撃した一発の砲弾の爆発に巻き込まれる形で……そのまま身は海へと放り出され、
「みん……な……エリザベート……姫――」
ザバンッ! と勢いよく海面に叩きつけられた衝撃と爆発で意識がそこで途絶。
彼の体は激しい海流の渦へと飲まれていくのだった……。
―― ―― ―― ―― ―― ――
「……ふん、これで終わったか」
「はい、スプリーク様。沈没を確認致しました。他の艦隊へ撤収命令を出してよろしいですか?」
「いいぞ。今回の事は私から王や他の貴族には真実を話しておこう。例の海賊団は【姫の暗殺】を企てていたと。そしてそれを我々が見事に討ち取ったと……口当たりの良い偽造話を用意しておこう」
そうして……全てが片付いた。
船長が吹き飛ばされた直後の砲撃にて一発の弾が海賊船内にあった火薬庫を直撃。
乗組員を失った船の断末魔とも呼べる甲高い爆発音と巨大な火柱をあげて沈んでいったのだった。
死んだ船員達はいずれも善人であり咎められるような大罪はおろか、貧しき者の為に身を削る事も厭わない、荒っぽいながらも人情溢れる者達だったというのに、
「流石です、スプリーク様。まさかここまで事が上手く運ぶとは感服するばかりですぞ!」
「フハハ! そうだろうそうだろう……(というより、そもそも奴らが私の雇ったジルド海賊団を倒さなければエリザベートを助けられる筋書きだったというのに……ぐぬぬ)」
通常の粗暴、乱暴な海賊のイメージと違う情厚き海の漢である船長率いる優しき海賊団は壊滅させられた……たった一人の悪漢が抱く強欲によって瞬く間に、残酷に、無慈悲に海へと葬られてしまったのだった。
「? スプリーク様? どうされましたかな?」
「んっ? いいや、こっちの話だ。それよりもお前は早く撤退命令を出せ。早く片を付けて城に戻らねば逆に怪しまれてしまうぞ」
「ははっ! ではそのように!」
欲に塗れた小太り貴族スプリークの薄汚い手によって……明日の明るい光など二度と拝めない深き海底へと沈んでいった……。
(っつ……ぐぐぐぐ)
そしてレオナルドも全く同じであった。
船長が何も出来なかったように……。
みんな逃げろぉぉぉぉぉぉぉぉ!
船を捨てて海へ逃げろぉぉぉぉ!
といった……どうにかして明日へ命を繋ぐ。
存命を願う言葉など一言も言えなかった。
むしろ【能力の制限】ゆえに何も出来なかった。
(ぐぐぐぐっ…………)
過去を辿っているレオナルドに許されるは傍観のみで、歴史の改変能力などは無い……だからこそ仮だったとはいえ、数回自分へ笑顔を向けてくれた船員達が砲撃で吹き飛ばされていく惨状をじっと目撃するだけというのは実に忍びない事だった。
(ぐぎぎぎぎ…………)
たとえ曲げられない過去の理であっても、親しみを覚えていた全員が死にゆく映像を彼はただ視て待つしか出来なかったのだった。奥歯を強く噛み締め、場面が移りゆくのを……。
(これが幽霊船長の過去だったのか)
レオナルドは必死に堪えつつ、救いの無い一団の哀しき結末を目に焼き付けるのだった。




