27.運命と出会ったようです
可能な限り短めに……。
というより今回がこの章の最重要パートの為。
……これ以上削れなかったのです(´・ω・`)
「やあ、一応初めまして……かな?」
「あ、貴方様は!? もしかして!?」
髪は炎の如く燃え盛る様な真っ赤な短髪。
肌はこんがりと焼けたような褐色に、服装は明るいオレンジ色と、
「ど……どうして!?」
そんな全身寒色の装束を纏う彼女とは対称的。
真反対とも呼べるような、その全身暖色の男性の出現にエルザは驚きの声をあげた。
それこそまるでここにいるのがあり得ない様な。
それこそ幻でも見ているような人物だった。
何故なら、その謎の人物の正体は……
「流石にこの人の紹介は……要らないよね」
「王子……フレア様。私のいる氷国グレースランドと敵対している炎国ヒートランド皇帝イフリス様の唯一のご子息の方ですわ……」
そう、彼女が告げた通り如何にも。
今もなお国の頂点である親同士がいがみ合い、険悪の仲である炎国の王子だったのだ。
だがしかし……驚くべきはそこでは無い。
そうこんなので驚いてる場合では無いのだ。
「で、ですが本当に何故貴方様がここに――」
「レオナルド殿。告げても宜しいですか?」
「良いよ。折角のご対面だからね」
「……了解です」
彼女が真に驚くべきはここから。
まだ状況を全然掴めていない、把握のはの字も出来ていないエルザ姫。
そんな彼女にフレア王子は歩み寄ると、
「え、えっと……その私――」
「ではお初にお目にかかります。氷国グレースランドの姫君、エルザ・コールディア王女殿……いや今は【アイスさん】の方が馴染み深かったかな?」
「えっ? ど……どうして貴方様がその名を」
フレア王子は彼女の前。
丁度エルザ姫の前で跪くと告げた。
何故か人前では口にした事の無い。
その文通相手しか知らぬ筈の名前。
彼女が偽名で使っていたそのアイスという彼女のペンネームをさらりと口にしたのだ。
それはつまり。
「えっと、あの……どうして貴方様は名前を……そのアイスという名を知っている方なんて――」
「もう鈍いなあ……って言いたい所だけど。まあ普通に考えるとこうなるよね。フレア王子様、僕からネタばらしをしちゃっても大丈夫かい?」
「はい、お願いします。レオナルド殿」
「えっ? えっ?」
すると……そんなまだ気が付かない。
もうここまで来て今更感も半端ないわけだが。
そんなあたふたとするお姫様の様子を見兼ねて、レオナルドは王子を一度席に付かせて動く。
「レオナルドさん? ネタばらしって――」
「その……実はね」
確かに事前に準備していたレオナルド側とは違い、色々と唐突すぎて困惑するのも無理ないのだが……この期に及んでもまだ気が付かない彼女にレオナルドは本人からの承諾を得た後。
「エルザ姫。貴方も知っているこちらのフレア・プロメス王子こそが貴方の文通相手であり、親友だったアグニさんだったんだよ」
今回の本題である文通及びその一連の流れ。
その隠していた裏話をあっさりと口にした。
「えっ? ええっ!?」
そんな事情を知らぬ者からすれば度肝抜かれる。
驚くべき真実がここで明かされるのだった……。
―― ―― ―― ―― ―― ――
……全てが語られた。
文通相手が敵国の王子というロマンティックというべきか。
はたまた二人の世界の情勢を鑑みるならば、最悪の組み合わせとも言うべきか。
「それで、僕は彼の相談に乗ったわけだ」
フレア王子及びレオナルドは今回のあらましの全てを紐解くように彼女に語ったのだった。
「ボクもここで君と同じくシャーベッド・トレーニング……要するに君がご馳走する予定だった秘伝の絶品デザートを食べられるよう特訓してた訳なのさ」
「……本当なんですの? レオナルド様」
「……その顔、如何にも意地悪な店主だなって言いたげな顔だね。でもそうさ、僕は今の今まで君達二人に黙っていたんだ。今回の出来事全てをね」
それはエルザ姫が文通について初めてこのよろず屋に相談。
熱々シチューについての悩みを話した数時間前の事。
この何とも言えない絶妙なすれ違い。
最早神懸かりとも言っても過言ではないタイミングで、まさかのフレア王子が先に依頼に来ていたのだ……内容は勿論エルザと同じ食べ物の悩みについて。
「で、ではフレア王子は全てを知って……」
「いいや。彼に話したのは君がさっき思いつめた顔してここに来た少し前だ。そこで彼がこれと全く同じ内容の手紙を持ってきたもんだから。これ以上はマズいと思って真相を話したワケなんだ」
そうして真反対な体質であれど事情は同じ。
炎国ヒートランド出身であり火の化身に等しい炎帝族という種族のフレア王子にとっても、キンキンに冷えたシャーベットを食すなど自殺行為だったのだ。
「その……話は彼から聞いたよ。僕なんかのワガママの為に無理をして熱いシチューを飲んでたって。それも君の体が耐えられない様な【51℃】なんて……本当に無理をさせてしまってごめんね」
「い……いいえ。これは私が勝手に承諾したに過ぎません! ですから貴方様が謝る必要は……」
だが、エルザ姫からのまさかの申し出。
自分から伝統料理を一緒に食べようと切りだした以上、後には引けなくなった彼は親友の彼女を失望させまいと同じ思考に至り、危険を承知で同様の特訓に臨んでいたのである。
「ちなみにフレア王子は【-4℃】までいったんだ。多分お姫様の倍以上の痛みを受けながらね」
「レオナルド殿……それは言わない約束では」
「うそ……私なんかの為にそんな……」
食す度に熱く滾る体の一部が凍結。
人間で言えば凍傷に近い痛みを覚えながらも、彼は無茶を承知で食べ進んでいたのであった。
親友を裏切れないその一つの思いを胸にして。
フレア王子もまた自分の勝手な言葉に捕縛。
その拘束から抜け出せずにいたのだった。
「で、ですが……それでしたらどうして初めに打ち明けてくださらなかったのですか? 私も事情が分かればすぐにお断りしたのに――」
「……君は人の努力を無駄にするのかい?」
そうして……バラバラだったピースが完成。
入り組んだ話が現在に戻った途端であった。
ここまで真実を隠して告げなかった事についてエルザがレオナルドにそう苦言を向けた瞬間。
「僕には苦手な物を前にして苦しむ人の様子を眺める趣味は無い。でもね友人の為、親友の為にと必死になって自分から努力を始めた人がいる以上。その相方が何もしないなんて、どう考えても不公平だと思わないかい?」
厳しい表情で彼はそう告げた。
たとえ文通だったとはいえ己が付いた嘘に真剣に向き合う姿。
「別に後で殴ってくれても構わないよ。どちらにせよ、両者ともに苦しい思いをさせた事には違いないんだから。僕の勝手な判断で一国のお姫様と王子様を危険に晒したんだ。報いは受ける」
逃げずに立ち向かうその前向きさ。
本気で友情を貫こうとする姿勢に対して、すぐに下手な近道を用意するよりかは両者がギリギリまで努力した結果であれば、その時はたとえ敵わなくても自分が救ってやる。
「でも……僕は二人がここまで努力した結果については純粋に凄いと思うよ。だって互いにそれだけ相手の事を想っていたって事だろう? 相思相愛なんてとても素敵で最高じゃないか!」
絶対に努力に報いる最高の結果を用意しよう。
そう、レオナルドは心の中で決めていたのだ。
「おもっ!? 私、そう言う訳では……ポッ」
「……ゴホン。レオナルド殿……その、なんていうか……そういう場が気まずくなる様な言葉は慎んでほしいとボクは思うんだけど違うかな?」
「あはははは、少しでしゃばり過ぎたかな?」
「お姫様……王子様……顔真っ赤……羨ましい」
よって。
これ以上は限界と助けを求めてきた時こそ。
レオナルドは両者の願いを全力叶えるべく。
最大限に手を差し伸べる事にしたのだった。
―― ―― ―― ―― ―― ――
そうしてその夜。
レオナルド主催の元。
「お待たせ! 両方とも出来たよ!」
「レシピ通り……早く……召し上がれ」
「待っていたよ!」
「待っていましたわ!」
エルザ姫、フレア王子。
その両者の前にはそれぞれ器が並び、中身はもちろん両者の伝統料理。
エルザ側は【伝説の熱々シチュー】、フレア側には【古の凍てつきフルーツシャーベット】が運ばれ、
「では早速、いただきますわ!」
「僕も同じく! いただきます!」
嬉しそうに頬張るのだった。
えっ? 体質はどうしたのかって?
大丈夫。そこは既に解決済みである。
何故ならばレオナルドのユニークスキル【万能―体質無効】を発動させた事により、両者共に寒さと熱さに対する弱点が緩和されたのだから。
「はわあぁぁ……とても美味しいですわ。温かさもさることながらこのコクのあるスープ……具の柔らかさも相まってとろけてしまいそうですわ」
それでも確かに熱い事には変わりないが、エルザ姫は体が溶けたりする事も無く夢にまで見た熱々のシチューを口に含んでいく。
「うん! こっちも美味しい。このシャリシャリとした冷凍仕立てフルーツの感触が堪らない。行儀が悪いのは承知だけど、かき込みたくなる!」
そしてフレア王子も同様。
一気に食べれば頭が麻痺するのは同じ。
しかしもう肉体の一部が凍結する事など無く、その甘くて冷たい絶品シャーベットを口に含み満足げな表情を浮かべ舌鼓を打っていたのだ。
よってこうして両者ともに悩みを無事解決。
一応レオナルドとしては初めからこの【体質無効】を使うべきだったと責められると思っていたが、
「本当に……ありがとうございました。大切な方とこうして一緒に食事が出来るなんて夢みたい」
「僕からも礼を言わせてください。こうして大切な親友である彼女、エルザ姫と巡り合わせてくださり本当にありがとうございました」
今ではすっかりこの通り。
恐れ多くも両者から頭を下げられる始末。
「いいよ、礼なんて。それよりもっと食事も会話も楽しむと良いさ! 今日は心行くまで堅苦しい文章じゃなくて、自分の言葉で話せば良いのさ!」
「ええ、勿論ですわ!」
「そうさせてもらうよ!」
そして苦労の末に味わう料理は格別なのか。
最早彼を責める声など一切無く、氷の一族と炎の一族が同じ卓を囲んでまるでおしどり夫婦かの如く仲良く料理を食べていたのであった。
こうしてこれにて今回の騒動は一件落――
いや……まだ何か忘れているような気が?
次話、3章ラスト。
明日更新予定です。
正午以降にて【直接投稿】致します。




