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20.恋する乙女ぱわー 前編のようです

美少女+恋=正義


「ううん……もう朝……なの?」


 彼女の名はエミリア。

 世界最強のパーティー『天の箱舟』の回復役ヒーラーを務め、非戦闘時には会計を担っていた少女。

 最年少という若さながら凄腕であり、今は仲間の青年レオナルドが開いたよろず屋にてお店の会計を担当する形で同棲していた。


「でも仕方ない……起きる」


 そしてこれは……そんな少女の何気ない一日。

 エミリアの日常の風景を追う物語である。



 ―― ―― ―― ―― ―― ――



 AM 7:07


 彼女の朝は早い。


「むにゅう……まだ眠たい」


 まず洗面台で顔を洗い、歯を磨いた後。

 エミリアは自室の鏡の前へと戻ると、眠い目を擦りつつその煌めく銀の髪を櫛で傷めぬように回数を分けて綺麗に丁寧に解いていく。


「うにゅぅ……もう少し……寝たい……」


 だが、先にここだけの話を告げるならば彼女はそこまでオシャレをする性格では無い。

 魅力的に振舞おうとする一般の女性とは違い、周囲の目を集めようとするタイプでは無かった。


「……でも頑張らないとダメ」


 まあぶっちゃけた話でいえばそんな事をせずとも他者の目を惹き付けられる可愛らしい見た目を持つという点もあるが……とにかく彼女はそんな磨けばもっと輝けるであろう己の魅力など、はなから生かす気も無く。


 天の箱舟が解散する前まで、朝の手入れは女性友達にして同パーティーの女戦士だったムーンに一任していた程の無頓着ぶりだった。

 だからこそ極論で言えばオシャレとは縁遠い存在にあったとも言えなくもなかった。



「体動かしてシャンとしないと……だって今日は」



 だが……しかし。

 現在の彼女は完全に別だった。

 何故なら今はあの愛おしくて堪らない考えるだけでもう感情が抑えられないあの【意中の男性】と夢にまで見た共同生活中だったのだから。


「大好きなレオナルドの遠征日……だから……」


 そう、同棲中である金髪青年のレオナルド。

 部屋こそ違えど同じ家、同じ食卓、一つ屋根の下での生活。

 さらに身を付ける湯船まで同じという状況にまでこぎ付け、見事思い通りに事を運んだのだから。


「ふんふん♪ ふんふん♪」


 ならば! だからこそ!!

 オシャレを知らぬ者が変に着飾って醜態を晒すよりもせめて最低限の手入れ!


「出来たの……じゃあ……レオナルドの為……頑張る!」


 彼女の大きな魅力の一つであるこの美しい銀の髪だけでもと、毎日こうして綺麗に整えていたのだった。少しでもレオナルドの気を自分に惹き付ける為。彼に自分を異性として見てもらうべく彼女は、こうして毎朝地味ながらも一人の女性として努力していたのだった。



「うん……これでよし……じゃあ次……」



 ……と、こんな具合に恋する乙女。

 店主レオナルドの事が大好きな少女の長いようで()()()()()()()()()が幕を開けるのだった。



 ―― ―― ―― ―― ―― ――



 AM 8:19

 朝食準備の時間である。


 同居し始めて、そろそろ一ヶ月程が経過しようとする頃でも彼女の朝の風景はあまり変わらない。

 時間をかけつつもエミリアは朝の支度を整え、


「ふああぁぁ、おはようエミリア」

「おはよう……レオナルド……」


 少し遅れて起床してくるレオナルド。

 跳ねた金の髪を擦りながら、あくびを交じえて朝の挨拶を済ませるそんな愛する者の姿に、


(ああ……レオナルド……今日もカッコいい……)


 いつもながらなんて魅力的、特に顔、声、風貌、話し方、髪の色、あと歩き方などなど。

 一言も口から出さずともエミリアはレオナルドの魅力を脳内で何十回と再生し、繰り返しつつ、


「もうすぐ……朝食出来る……準備してて」


「ふあぁい。いつも朝からありがとう」


「ううん、こんなの……未来の妻として……当然」


「? ごめん、聞き取れなかった……なんて?」


「…………馬鹿レオナルド」

「へっ?」


 勿論、同居人としては当然必須。

 一緒に住むのなら100%必要とされる情報。

 それは()()()()()()()()()である。


 そうエミリアはレオナルドの動き全てを把握。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()等の経過する時間の全てを()()()()


 彼の鈍感ぶりに拗ねつつも彼が朝食につくまでを見計らい、こうして朝食作りに取り掛かっていたのだ。


「ふああ……じゃあ、僕顔洗ってくるから」

「分かった……待ってる……」


 だが正直な事を告げるとするならば。

 こんな朝の日常という見所の無い部分などは、誰もが過ごす何気ない朝の1ページに過ぎない。


(多分あと3()()……洗面台の扉開く……)



「よいしょっと。ふぅぅ、いやあスッキリした。やっぱり朝は冷たい水で顔を洗うに限るね!」



(うんうん時間通り……それで次は……)


「ごめんエミリア、タオルって――」

「そこのテーブルの上……置いてる」


「今日の新聞って――」

「タオルの下……置いてる」


「眠気覚ましのホットミルク――」

「タオルの隣……入れたて置いてる」


「………………………」

「………………………」


 だから……まあ……これと言って別段表立って取り上げる部分でも無いかもしれない。

 だって理由としては()()()()()()()()()なのだから。


「あのう、エミリアさん? いつも思うんだけどなんで僕の行動全て予知してるのかな?」


「…………秘密」


 どんな家庭でも同居人の動き方。

 もしくは時間のかけ方などのパターンは誰でも完全把握しているだろうし、それを知り尽しているのは【まさに当たり前】の一言に尽きてしまう。

 よって、この部分はただの若い男性と女性ののんびりとした日常風景として考えるが正しい。


「あとエミリアさん。その手の小瓶は?」


「…………内緒」


「それ、この前作った【媚薬】の瓶ですよね?」

「違う……これは……凄い栄養剤なの」


「入れたら怒るからね」


「レオナルドになら……滅茶苦茶にされてもいい」

「どうしよう。長年冒険してきたけど、この女の子の止め方だけは分かんないや……」


 さらに加えて躊躇の『ち』の字も見せる事無く。

 朝食に媚薬を入れようとする可憐な少女の姿。

 うむ……()()()()()()()()()()()()()()()だ。



 ―― ―― ―― ―― ―― ――



 AM 9:14



 朝の日課、洗濯の時間である。


 エミリアの弁明虚しく残念ながら媚薬無しという、なんとも非日常的な朝食となってしまったがひとまず時間は経過し現在の彼女はよろず屋の外。

 食事を済ませたレオナルドは店頭に並べるアイテム生成に使用する材料集めだとすぐに遠征へと向かた為、残されたエミリアはその裏庭にて洗濯。


「さあ……今日も頑張るの」


 だが、ここでも彼女のやる行動は変わらない。

 まずは自分の着用していた衣服から洗濯開始。


「んしょ……んしょ……」


 いつも通り近場の古井戸から汲み上げた水を使い、汚れた自分の衣服を揉んで洗っていく。

 その女性らしい繊細な手で懸命に衣類の汚れを落としていっては、近くの物干し竿に干していく。


「私のパンツは……別の所に干す」


 無論、彼女も立派に成長した女性である為。

 無頓着な節が色々あるとはいえ、誰かに見られては”若干恥ずかしい”下着関連の衣服に関しては、別所に持っていき次々と干していった。


「うん……これで……私の分……終わり」


 と、そうして自分の衣服を全て洗い終えた彼女は、【わざと一緒に洗わずに】残しておいた衣服。


 そう……残るもう一人の住人の物である衣服。

 ()()()()()()()()を手に持った彼女は!?



「スンスン……スンスン……うん……いつものレオナルドの匂い……好き……好き……大好き!」



 実に滑らかな動きであった。

 まるで本能的に体がその行動を取る事を選択。

 義務付けているかの如く一切の躊躇がないという、最早世界中どこを探してもこれ以上鮮やかには出来ないほど自然な動きでエミリアはレオナルドの衣服をまとめて抱き寄せると、


「ハア……ハア……スンスン……レオナルドの匂い……凄く良い匂い……スゥゥ……ハァァ!」


 ……衣服の種類は厭わなかった。

 だが()()()()()()()()と釘を刺された為にパンツを除くその他の衣服であるインナーや上着、ズボンを嗅いでいく。


 嗅いで、嗅いで、嗅いで嗅いで嗅いで嗅いで。

 もうとにかく我武者羅に嗅ぎまくった!


「ああ……レオナルド……だいしゅき!」


 五感の内の嗅覚という感覚をフルに生かしクンカクンカ、クンカクンカクンカクンカクンカ! と顔に擦りつける様にしてエミリアは幸せを身に感じ取る。


「レオナルド……レオナルドッ!」


 先に自身の衣服のみを洗った理由はこれ。

 そう、洗ってしまっては意味を為さないのだ。


 水につけすぎると色の薄くなる絵具の如く、浸してしまえばその衣服に染みついたレオナルドの匂いはどうしても散っていき薄まってしまう。

 さらに竿に干してしまえば太陽がもたらす温かく心地よい香りと、その流れる風に貴重なレオナルドの匂いが流されてしまい失われてしまう。


 だからこそ、洗う前なのだ!


「んはぁ……レオナルド……好き」


 そうしてそれを数十分、いやもしくは一時間か。

 彼の監視の目が届かない場所でレオナルドの香りを堪能した後にエミリアは名残惜しくも、


「うーん……悲しいけどお別れ。洗わないとレオナルド怒るから……だから綺麗に洗うの」


 その悲壮感溢れる姿を見せつつも。

 彼女は水の入った桶でレオナルドの衣服を洗い終えると、最後は竿へと干していくのだった。


「これで……洗濯お終い……少し休憩」


 と……こうして。

 彼女の日常の朝の部は終わった。

 そしてここからのエミリアの日常の物語は()()()()()()()()()へ突入していく。


タグに【恋愛】を追加しました。

後編は明日更新です。

正午以降にて【直接投稿】致します。

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