19.一人前になったようです
誰もが生まれながらにして王では無い様に。彼ベリアルもまた誕生した途端に王の称号を受け、悪魔王として即位したわけでは無かった。
「別に多重人格が悪いと言うわけじゃない。でもどうして他の人格を生み出してしまったかの原因を思い出せないのが最大の問題なんだよ」
「思い出せないのが問題?」
「そう、物事には始まりがある。それを思い出して認知する事で問題の見え方は変わるもんだ。だからそれが【もう一つの大切な点】なのさ」
レオナルドは散々な物言いの後。
まるで手のひらを返したように優しい物言いで主人格を諭し始めた。
内容はベリアルが多重人格になった原因。
なぜ精神が独立してしまう程の逃避行動を取ったのかを思い返すように告げていたのだった。
その感情達と向き合う為に、
「誰にだって逃げたい時はある。それについて僕は否定なんてしないよ。だって何処の世もそんなもんだもん。この世は笑って済ます事が出来ない、綺麗事じゃ済まない事も山ほどあるだろう。これは僕の勝手な考えだけど君だって悪魔王といえども、呑気に構えていたって訳じゃないんだろ?」
「……………………………」
まるで全てを見透かされているかの如く。
ベリアルは彼のその的確な指摘に黙り込んでしまう。
そしてしばらく沈黙の間を挟むと彼は、
「……一つだけ昔話良いか?」
「いいよ。好きなだけ話して」
「はは。色々とすまねぇな」
「あはは、遠慮せずにぶっちゃけると良い。君の気が済むまでね。それが依頼を受けた僕の責任だ」
「責任……か。そうだな」
他の人格を生んだ原因だと思い当たる部分。
その過去を語り始めるのだった。
―― ―― ―― ―― ―― ――
先代の悪魔王。
「父さん、今日はどうしたの?」
「おお、ベリアル……よく来てくれたな」
つまるところ俺様の親父である豪魔バエルは歴代の王の中でも特に優れた偉大な悪魔王だった。
自身の保身等に走る事無く、常にこの悪魔界の民達だけの事を想い念頭に動いていた人物。
まあハッキリ言ってその姿は悪魔では無く、英雄。
誰から見ても非の打ち所の無い俺様の親父だった。
「ごほごほ……ファラスよ」
だが……権威の象徴というのは永遠じゃなかった。
「はいバエル様、ここに」
「今日お前達二人を呼んだのは他でもない。語らねばならぬ重要な話があって急遽呼んだのだ」
もちろん悪魔族にも老いはある。
そしてその老いっていう逃れらねぇ概念がその過去の栄光を侵食していき、そいつが纏う強さっていうメッキを段々と風化させて剥がし腐らせ次第に弱らせていきやがるんだ。
「ワシは……見ての通りもう老い過ぎた。昔と違いこの悪魔界を収めるには力が足りぬのだ。と、こう言えば意味が分かるだろう、ファラス?」
「はっ、それはつまりベリアル様に――」
「そうだ。我が息子ベリアルに王位を継がせる。いきなりではあるが、あまり時間が無いのでな」
「はっ! ではその通りに致します!」
「えっ父さん? 何を?」
だからそんな塗装が剥がされていく中。
親父は自分の死期を悟っていたのか、俺に慌てて王位を継承させる事に専念していったんだ。
「ベリアル……これからはファラスの言いつけをよく守り、良き悪魔王としてこの世界を治めるのだぞ。ゴホゴホ……分かったな?」
「う……うん」
しかし……だ。
まだ当時ケツの青かった俺様にとってその継承はただのプレッシャーに過ぎなかったんだ。
―― ―― ―― ―― ―― ――
「お坊ちゃま……あまり無理をなさっては」
「いいんだ、ファラス……これくらい」
「で、ですがもう数日もロクに寝て――」
「いいんだ! 親父ならこんな業務、半分の時間で終わらせてたんだ! 俺様もそうしないと!」
王位の継承を終えて、親父の死後。
悪魔王の座を継いだ俺様はその責の重さ。
そして民からの期待に添うべく奮闘していた。
今でこそこんなのんびりとしたちゃらんぽらんに見えるが、あの時ばかりはロクに飯も食わず、睡眠だってまともに取れていなかったんだ。
(親父なら……親父なら)
だが、そんな生活の悪循環の原因は親父。
……別に恨んでいるとかって意味じゃない。
(親父なら、あの親父だったら……ゼェゼェ)
しかし、俺は引き継いだのは王位だけじゃ無い。
それは偉大過ぎた親父に対する民達からの信頼。
その影、重圧をも一緒にこの背に負ったんだ。
(くそ、流石にもう疲れが……)
だから。
そんな親父が築き上げた信頼、成し遂げた偉業に負けてはいけねぇと怯え生きていく内に、
『ったく馬鹿が! 少しぐらい休め!』
【そうよ、頑張り過ぎは体に毒よぉ?】
《冷静に考えて、今日は何もせず休むべきだ》
〔ガッハッハ! 休め休め! たまには前向きに生きないと、人生は楽しくないもんだぜ!〕
「!?」
表面上は常に凛として、立派な悪魔王として民達の前では動揺を見せまいと。
目付役のファラスにすら必死に感情を押し殺し、どれだけ辛くとも耐えて耐えて耐え凌ぐ内に……、
『ったく、落ち込んでじゃねぇよ、馬鹿が!』
【そうよ。さっきはあの行動で正しかったわよ】
《そう……冷静に考えて……あれが最善》
〔何事にも失敗はつきものだ! 気にすんな!〕
そうだ。思えばいつからだったか……。
いつしかアイツらが俺様の唯一の……。
唯一、自由に語れる俺様の話し相手に――。
―― ―― ―― ―― ―― ――
「……………………」
彼は気が付いた。
その己が過去と向き合う内に、
「そうか。俺は……」
「どうだい、気分の方は?」
「……悪くは無い。いやむしろスッキリか?」
「その様子だと気が付いたみたいだね?」
「ああ。コイツらは俺様の精神が崩壊しない様に支えてくれてたのか……」
『けっ、そう言われればそうだったかもな!』
【そう思い出したわぁ。そうよアタシ達は――】
《君が悪魔王という称号の重圧に押しつぶされまいと、周囲に情けない姿を見せまいと――》
〔誰にもその心中を察せられまいと感情を殺し、不安の中で出た話相手がオイラ達ってわけだ。今じゃお邪魔扱いだがな! ガッハッハッハ!〕
ベリアルはその瞬間に向き合ったのだ。
若くして王位を継承し不安な毎日を過ごす中で不安・重圧といった心の弱さから生み出した感情達と彼は改めて対面したのだった。
「……戻す儀式いる?」
「いや要らねぇよ。自力で戻せるさ」
「そっか。分かったよお疲れさま」
「ありがとうレオナルド。恩に着るぜ」
「いいやこれは君の手柄さ。だから別に気にしないで。本当は偉大な悪魔王ベリアル様」
「はっはっは! 照れくさい事抜かすな救世主」
するとまるで腫れものが落ちたかの如く。
何処か表情が緩くなり明るさを取り戻したベリアルは恩人へそう告げると感情人格を引き連れて、自分達の悪魔界へ大人しく帰っていくのだった。
―― ―― ―― ―― ―― ――
不思議と清々しい気分だった。
俺様がしたのは本当にたった一つだ。
レオナルドの助言通りにトラウマの原因を確認した後、感情達を自分だと認識しただけ。
「じゃあ早速頼むぜ。ファラス」
「ええ、お任せください……にしても」
「どうした? 俺様の顔をまじまじと見て」
「いいえ、先日までと違い随分と凛々しくなられたと思いまして。何か吹っ切れたのですかな?」
「ハッハッハ! まあ、そう言われればそうだな。今の俺は自分の弱さからも目を背けずに、ただあるがままを受け入れる完璧悪魔になったんだ!」
そうしたら次の日の朝。俺は元通り。
5人いた俺が1人の状態に戻っていたんだ。
それもレオナルドが強引に引き離した時とは違い、あくまで自然にだ。
「ううううう……ベ、ベリアル様……」
「おいおい泣くなよ!?」
睡眠中も特にこれと言った違和感も一切無く、朝目を覚ましたら、あの感情……いや俺達は元通りに戻っていたってだけだったんだ。
「ううううう……うあああああああ」
「いや幾らなんでも泣きすぎだろ!? そんなに泣く奴だったのか、お前!? 初めて見たぞ!」
「も……申し訳ございません。ですが、あのベリアル様がここまで大きく成長なさっていたとは。目付役としてこれ程嬉しい事はございませぬ」
「全く、大袈裟な奴だな」
いや少し待てよ?
元通りと言うのはちと違うかもしれない。
そう、あれは全てが元々自分一人なんだったと。
全ては己が生み出した存在・弱さと自覚したうえで取り込み直して一体化したわけだしな。
まあ、だから……今はこんな感じに、
【喜】の様に民を愛し、『怒』の様に行動力を持ち、《哀》の様に冷静に対処する力を有し、〔楽〕の様に前向きに何事にも挑戦する逞しさ。
と、大切な要素を改めて取り込んだ以上。
今の俺様は以前とは比べ物じゃなくなったんだ。
要するに精神面で大きく成長したってわけだ。
「えっと、まずはどの町だ?」
「はい、まずは一番の騒動になった【アグ】です」
「ああ、あそこだな。分かった、事情は俺様から説明するからな。お前は隣で見ていると良い」
「了解致しました」
だからこそ。
俺様は今日より真ベリアルとして。
強さも弱さも全てを自覚した一人前の悪魔王として、こうして自らが犯した過ち。
その尻拭いをすべく、ファラスと共に悪魔城を離れ現場へと向かう事にしたんだった!
4話、8話、11話のタイトル変更しました。
次話、明後日の12月15日(土曜日)投稿予定。
※とてもありがたい事にブクマ・評価共に順調に上昇。
さらにPVに関しましても多くの読者様及び作者様に読んでいただいておりましたので、引き続き連載継続を決意しました。
その為、現在執筆中の幕間&新章執筆に際しまして。
誠に勝手ながら【明日の投稿はお休み】と致します。
そして土曜日投稿予定のお話は新章では無く。
ヒロインが暴走する幕間の物語予定です。
投稿時間は今回と同じ時間帯で【直接投稿】です。




