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15.なんか増えるようです


【多重人格とは文字通り複数の人格がある事だ!】


【多重人格……それは私に情報提供してくれた医者の話によると別名《解離性同一性障害》という症状に該当し、心身に対する大きなダメージを軽減すべく意識を切り離し、一種の逃避行動として発生するものであり、非常に重い症状とされる。


 だが、一番の注意点は全て自分・・だという点である。多重というからには複数のが宿っていると思われがちで独立した人格に見えるが、全て己が逃避する為に作り上げた産物である。


 その為、症状改善の為には主人格がこの人格たちと向き合う事が重要ではあり、全て自分なのだと自覚を持つ事が最善の策なのである。まあ例外も無論存在する為、断言は出来ないが……】


 ~ガリヴァ―書房刊『博識王で学ぶ医学知識』108の項【多重人格ってなあに?】より引用~


 ―― ―― ―― ―― ―― ――


 集団チームを一つに纏める。


 一言で表現するならば非常に容易いが、現実ではそんな言葉通りには大抵いかないものだ。


「それで、実はかなり前から――」

「なるほどね。それで今も――」


 同隊内に配置となったとはいえ所詮は他者。

 それを一致団結し束ねるとなれば相当な高難易度が容易に想像できるほか、もし一人でもその輪から外れてしまえば団結とは呼べないのだ。


「と……いう訳なんだよ。普段なら人前では殆ど出てこないんだが、今回は診てもらうと思って」


 そして……今日ここにもそれは存在した。

 全てが”自分の一部”の筈だというのに団結・統一できていない悪魔がいたのだ……。



『けっ! ふつー、こんな坊主に頼むのかよ』

【あんらあ、可愛い坊や。でもアタシの好みでは無いわねぇ。でも……普通に抱けるわっ!】

《冷静に考えても20……いやもう少し若いか》

〔おう! レオナルドさん今日は頼むぜ!〕



 うっわ。また変人が来たよ。


 レオナルドは口には出さずとも、心底思った。

 何故ならば今、眼前にいるのはこれまた珍客。

 コロコロと表情を変える顔に加えて、紫色の筋肉質な体で頭部にはねじれた黒角を携える悪魔の王。


『怒』であれば、眉間に皺寄せる不機嫌な表情。

【喜】であれば、ニッコリとした温かい表情。

《哀》であれば、血色が悪く青ざめた暗い表情。

〔楽〕であれば、明るく前向きでよく笑う表情。


 そんな……まるで表情のバーゲンセールで催しているかの如く。


「頼む……この通りだ、何とかしてくれ……」


「これ、何とかしてくれって言われてもね……」


『フンッ! どうせこんな人の子なんかにどうにか出来る訳がねぇだろうが! 馬鹿らしい!』

【うふふふ、幾らあんなご大層なメッセージをでも、アタシ達をどうにか出来る訳ないわよぉ】


《冷静に考えて……ボク達の事は放っておくべきだ。大丈夫……断っても冷静に帰るから……》

〔ケッケ! オラァ、あんたに任せるぜ! やりたいようにやんな! 何事も試す事が大切だ!〕


「グガアッ! お前らっ! うるさいんだよ!」


「だあああ! 主人格アンタも皆もうるさいよ! 頼むから一気に話さないでくれるかな!? うるさすぎて逆に何一つ聞き取れないんだけど!」


 統一が全くされていないバラバラもいい所。

 一つの肉体という同じ位置に存在する筈なのに、主人格の発言を微塵も聞かない団結力など皆無の悪魔王ベリアル達へ、レオナルドは大声でそう怒りの声を発した。



 ―― ―― ―― ―― ―― ――



「とにかく……そんな感じだ。ひとまず俺が感じ取った他人格の特徴はな。自分で言うのもおかしいが、自分の変化については敏感な方なんだ」


「うんうん……まあそのままだね」


 その後、レオナルドは事情を聞かされた。

 まずは他人格から解放という依頼の内容。

 次にベリアルが自分なりに自己分析・・・・をして、その感情ごとの人格についての特徴。

 他の感情に乗っ取られつつも意識自体は存在する為、その中で感じた情報を彼にこう語った。


 【喜】は優しさや愛に溢れ、求める良心部分。

 『怒』は短気だが臆病さが無く行動力が凄い。

 《哀》は悲観的だが冷静に傍観し、助言をする。

 〔楽〕はポジティブで失敗を失敗と思わない。


「本当に感情まるまる人格になっているワケだ」

「そうなんだ……どいつもこいつも個性豊かなんだけど、全部この中にいる訳だからな。以外の個性なんて必要ないんだよなぁ……」


 と、こういった具合で人格についての説明。

 もとい4つの【感情人格】ごとの説明を終えたベリアルはため息を一度挟むと、続けて告げる。


「でも、流石にさっきの喜怒哀楽こいつらが言ったみたいに、こんな説明を受けたところで、どうしようもない問題だよな……実際」


 それは正直、正論とも言える言葉だった。

 多重人格を消して治してほしいなんて難題、たとえ心理学の専門家でもお手上げだろう。

 というよりもしそんな芸当が出来るなら悪魔界中を探し回りとうに解決している話だ。

 だからこそそんな事はベリアル自身もよく理解していた。


 だが……。



「多重人格をどうにか出来る策なんて――」

「一つだけあるよ」



「あるわけが……えっ!? あんの!?」



 だがそれはあくまで一般論の話に過ぎず、このレオナルドにとってそんな些事・・などはなから眼中に無くあっさりと即座に返答しつつ、彼は続けざまにその解決方法の提示。


「いい……一体どうやって……」

「それは――」


 予想などしていなかった解決策の存在にベリアルが困惑する声をあげる中、彼はこう説明した。

 そのとんでもない策を躊躇なく……言った。


「【人格の分割】さ」


「えっ、人格の……分割?」


「そうさ、まあ簡単に言えば、君の肉体にある四つの感情人格をそれぞれ一つの悪魔として小分けにする。分裂みたいな感じだと思えば良い」


「えっ、それって……もしかして……つまり」


「うん、君が【5人】になるって事さ」



「……………………。ほひ?」


 レオナルドの言葉が出た瞬間。

 ベリアルは首を傾げすぎて一周回るかと思えた。

 理論は簡単。だが発想がイかれてた。


「えっ、5人? 俺を5人にするって?」


 だからこそなのか、悪魔王は既に思考停止。

 思考する為に設けた長い沈黙などまるで意味を為さず、最早レオナルドの案に追い付けなかった。


 しかし、これも当然の話だろう。

 いきなり君を、5人にします、と。

 そんな呪術者や魔術師ならばともかく、こんな骨董屋にも見える古い店の店主にハッキリ向けられたら誰でも疑問符の一つや二つは浮かべるだろう。


「それ、実際に出来るのか?」


「勿論さ。ただし、オススメはしないけどね」


 けれども……しかし。


「……具体的にはどうするんだ?」


「そうだなあ……簡単に言うと君の魂を一度千切って、感情毎に一つの存在としてこね直すんだ」


「俺たちゃ、餅かっ!?」


 残念ながら(?)……それを実現出来る能力こそがレオナルドの持つ特殊能力ユニークスキル万能オールマイティー】なのであった……。



 ―― ―― ―― ―― ―― ――



「一応、確認しとくけど……本当に良いんだね」


「ああ、やり方は無茶苦茶だが頼むぜ……」


 結局、ベリアルはその分割案を承諾した。

 その感情人格ごとに分ける策に対して意味不明ではあったが、何せ自分が最も望んでいた結果。


 自分は自分だけしかいないんだ。

 だからこの主人格こそが真の自分なんだと、そう彼は他の人格に圧される事も無く、誰にも妨害されない平穏な生活を望んで受けたのだった。


「そっか……でも最後にもう一回だけ。ほ・ん・と・う・に良いんだね? 後で後悔しないね?」


「? どうした? やけにつっかかって――」


『うるせぇな! 俺達がそれで良いって言ってんだ! つべこべ言わずにさっさとやらねぇか!』

【ねぇ、お願いよ。私達は自由になりたいのよ】


《冷静に考えて……その通り。ボクも自由になって冷静に客観的に物事を見たいのさ……静かに……誰もいない静かな場所でね……フフフフフ》

〔まあ、やってみてくれよ! 何事も一度やってみりゃ成功するもんだ! 頼むぜレオナルド!〕


「……ゴホンゴホン、悪い。まあこんな具合だ。俺達・・は皆解放を望んでいるし、俺ものんびり暮らせる。だから遠慮なくやってくれ」



「………………分かった」



 そうしてレオナルドは他人格達にも急かされつつ、詳細は語らなかったがその二回に渡る確認。

 人格を分離させることについての忠告を促したが、あまり聞く耳を持つ事が無かったベリアルへ、


「……じゃあ始めるよ。【万能オールマイティー現魂分割スピリット・スプリッツ】を発動……あっ、そうだ。さっきの君が言ってた話だけど」


「どうした? まだ何かあるのか?」

「君、多分【自分の事分かってない】と思うよ」


「?」


 するとそんな気になる言葉を告げた後。

 レオナルドは特にそれ以降何も告げる事も無くベリアルの依頼通り、感情の人格の分離を開始。

 保有する喜・怒・哀・楽の人格を独立させ、5つに分けるべく彼はベリアルの体に触れた手に意識を集中させていくのであった。


 この先で起こる、ある予感を抱きながら……。


次話、明日更新。

正午以降にて【直接投稿】致します。

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