16.本当に増えちゃったようです
本当に増えていた。
『おうおう……マジで分離してらぁ』
【うふ、これでアタシ達は自由の身ねぇ】
レオナルドの現魂分割を受けてより一日。
明日の朝には分かれて増えているから確認してと、さらっととんでもなく異様な発言から、
《冷静に考えて……これはボクも驚きだよ》
〔なっ? やっぱり成功しただろ!?〕
多分こんな感じになるんだろうなぁ……明日の朝起きたら俺増えているんだろうなぁと、そう悪魔王ベリアルは予想こそしていたが、
「…………………。これ、現実だよな?」
いざ対面すると非常に気味が悪いというか。
思わず、ぞっとすると表現すべきなのだろう。
だからなのかベリアルはこうして寝床から起きてもなお、夢と現の区別がろくにつかなかった。
故になのか、彼は分裂し独立して物を話す感情人格達をまじまじと見つめ、情報の整理をする。
【うふふ、アタシはこれからどうしようかしら】
【喜】は愛ある桃色をした肉体の自分へと変貌。
『よし! これでテメェらとはおさらばだぜ』
『怒』は赤色の闘志に満ちた配色の体に変化。
《ボクは冷静に考えて……何処に行こうかな》
《哀》は水色がかったネガティブそうなボディ。
〔さあて! 俺はどんな事に挑もうかね!〕
〔楽〕は若葉の様な柔らかく明るい緑色の体。
「随分とカラフルになったもんだな。量産品のオモチャでも見てるような気分だ……」
そんな顔の表情と色こそ違いはあれども鏡などで映された時はまるで違う、己の意思関係なく動きまわる不気味な分裂体に彼は思わず青ざめた。
だが、いくら分裂したからといっても主人格であった彼には特に大きな変化の自覚も無く、
「でも脱色したとかはなさそうだな。いつも通りの悪魔王ベリアル様に間違いないようだぜ」
自分の肉体から4体に及ぶカラフル個体が抜け出た事で白くなるんじゃないかとか、5分割した事で力などが一気減退しているのではなどなど、ベリアルの内心ではそんな懸念が複数あったが、
「まあ、とりあえずは――」
『あの儀式っていうか――』
【魂の分割の方は――】
《この感じだと――》
〔ああ、成功したみたいだな〕
ひとまず悪魔王たちは珍しくそう意見が一致。
全員が共に儀式の成功を確信するのだった。
(さてと……確か儀式が成功していたら、この手紙を読む様にってアイツ言ってたな。どれどれ)
そうして続けてベリアルは、手元の紙。
明日目覚めたら読む様に言われて渡された封筒を開き、中に入っていた紙に目を通していく。
するとそこにはこう書いてあった。
【使用上の注意をよく読み、用法・要領を守って正しくお使いください。byレオナルド】
「薬か俺達は!? お薬かなにかですか!?」
そんな冗談まがいに書かれた内容なのか。
はたまた真剣に書かれたのか疑わしいその注意事項に思わずツッコむのだった。
―― ―― ―― ―― ―― ――
「『【《〔ゲフッ……ご馳走様でした〕》】』」
そうして、それからというものの。
一旦、目付役であり彼が多重人格である事を唯一知っていたファラスにのみ事情を説明した後に、何とか5人分用意させた朝食を済ませるとベリアルは、
『んじゃ! 俺は勝手に行かせてもらうぜ』
【うふふ。アタシもお出かけとしゃれこむわぁ】
《冷静に……ボクも少し買い物に行く》
〔俺も遊びに行ってくるぁ! ケッケッケ!〕
準備を終えた者から我先にと部屋を出て行こうとする感情に向けて、
「おい待て! 流石にそのまま行くな!」
『ああっ!? なんだよ、邪魔すんなよ!』
【どうしたのよ、いきなり呼び止めて?】
「いいから……少し待つんだ」
そう慌てて主人格は大声でそれを制止する。
勢いよく部屋のドアへ向かう4人へ反感を買いつつも何とか動きを止めたのだった。
では、何故わざわざ止めたのかというと……。
「その……よく考えてもみろ。姿形は変装である程度ごまかせるとはいえ、全員の名前のベリアルのままじゃ偉い事になっちまう。だから、せめて偽名くらいはこの場で決めていけって話だよ」
《なる程……冷静に考えて、いい考えだ》
〔ああ……そればかりは仕方が無い話だ〕
と彼の制止に同じく反論を述べようとして《哀》〔楽〕だったが、その言葉に納得。
まあ、だが実際は確かに彼の言う通りだった。
色が違う事に加え、変装が出来るとはいえ全員が悪魔王ベリアルと名乗っては【王が増えた】という事で、悪魔界中が大混乱を招く羽目になる。
よって、名乗る際の名前くらいは変えて行けと【ベリアル】というこの名は悪いが主人格が使うから、感情ごとにコードネームに似た偽名をこの場で作るように全員に提示するのだった。
『チッ、めんどくせぇな! じゃあ俺は怒の意味を入れて、ベリアンガーで良いだろ!?』
【それじゃあアタシは喜の意味を入れて、ベジョーイね。うーん! 素敵なひ・び・き!】
《冷静に考えて……ボクは哀のソだけ入れてソリアルでいいね……分かりやすいし》
〔じゃあ俺は何でもいいけどよ。ここは楽の意味込めて、リラクルにするぜ!〕
すると、珍しくこればかりは皆が素直に承諾。
恐らくいずれも王である彼から生まれた影響からか混乱を招く、王が増えた事実を隠蔽する為。
そして王という束縛から逃れる意味合いもあったのか、
「よしよし、これでひとまずはオッケーだ」
誰も主人格が実名を使う事を咎める事無く、いずれもベリアルを冠しつつも安直ながらも偽名を決めていったのだった。
(まあ、これで良かったのか……どちらにせよ一番望む形だったしな。少なくともこれで何かする度にとやかく言われる事も無くなる事だしな……)
気持ちこそ複雑ではあったが何はともあれ、これでベリアルの望みは見事に叶えられたのである。
初めは風変わりな人間だと思っていたが、悪魔王はレオナルドに向けてそう感謝していたのだ。
「よし! じゃあこれで雑だが名前も決めた事だし。早速各々で自由に遊ぶ事にするか!」
『【《〔賛成!〕》】』
と、こうして全ては彼の思い通り。
やかましい他人格に苛まれる日々は終わった。
(さてと、俺様は読書に勤しむ事にしようっと)
……筈だったのだが、けれども。
彼、いや……この彼らベリアル達の物語。
その苦悩がこれで無事終了とはいかない。
気楽に部屋を飛び出していた4人と主人格が、これから対面するのはレオナルドの忠告の意味。
『おっしゃあ! 自由だ! まずは酒だ!』
【アタシは誰かとお話したいからバーに行くわ】
《ボクは……何処か暗い場所でひっそり……》
〔俺は気の向くままにレッツゴー!!〕
彼が魂の分割前に再度に渡って確認をした。
その真意を彼らが思い知らされることになろうなどとは、この時は全く認知などしておらず。
解放・自由の事で頭が埋まっていたベリアル5名には知る由など無かったのだった……。
次話、明日更新。
正午以降にて【直接投稿】致します。




