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頑張れ、はしらちゃん!〜はじめてのおわかれ〜

「ところでお主、イカサマなんぞはしておらんじゃろうな?」


 わらわはノエルにされたのと同じように、イカサマの存在を静かに告げた。


 ……さて、この危機を前に、歴戦のババ抜き戦士はどう切り返すじゃろうか?


「バババババッバカモノ!この私が、イ、イカサマ!イカサマ!?ちゃんちゃらおかしいな!あーおかしいおかしい!オホホホホ!」


 ノエルに こうかはばつぐんだ!

 ノエルは こんらんした!

 ノエルは わけも わからず いみふめいな ことを いっている。


「……怪しいのじゃ」


「いやいやいやいや意味わからん。何言ってるか意味わからんし。ヒイロ、あいつ、ついに頭おかしくなったみたいだぞ?もう私の不戦勝じゃないかこれ?」


 わらわは、その不審な挙動にノエルがイカサマをしている事を確信し、さっき幼女が浮かべていた以上のドヤ顔で、ここぞとばかりに迫る。


「わらわにあ〜んな酷い疑いを掛けておきながら、お主がイカサマをしてるなんて事は、ぜ〜ったいにある訳ないのじゃよな?」


 赤くなったり青くなったりと、ころころ顔色を変えるコロコロ幼女。

 そんな様子を楽しみながら、わらわはノエルの手からカードを一枚を奪い取り、中身を確認しないまま手元に引き寄せて、伏せたまま机の上に置いた。

 そして、先程やられた言葉をそっくりそのまま返してやる。

 悪魔的な笑みを浮かべながら、ノエルのちっちゃなお鼻に指を突き付けてやるのである。


「もしお主がイカサマをしていないというなら、今これからするわらわの提案は、受けられるよのぉ?」


 ねぇ、どんな気持ち?

 あれだけドヤ顔しておきながら、予想を外してどんな気持ち?

 そっちから仕掛けておきながら、逆襲されてどんな気持ち?ねぇどんな気持ち?


「いやいやいやいやいやいやいやいや、い、意味わからんし!……仮にだ。イカサマとかしてないからぜんっぜん問題ないけど、一応どんな提案か聞くだけ聞いてやろう」


 この期に及んで、あくまでもしらばっくれようとする、往生際の悪いノエル。

 わらわはこのペテン幼女に引導を渡してやるべく()()を告げる。


「そこにあるお主の手札、ちょっと開いて見せるのじゃ。イカサマしてないならできるじゃろ?」


 わらわの考えが間違っていなけば、先程わらわがノエルから引いたカードはジョーカー。

 しかし、奴の手元にはもう一枚のジョーカーが眠っているはずじゃ。

 それさえ暴くことができれば、イカサマをしていたノエルの反則負けに持ち込む事ができる。


 拒否は受け付けぬぞ。

 そもそも、これはお主から提案してきた事じゃからな?


 ……では、そろそろ決着を付けるとしようかのぉ。


 いざ、おーぷん・ざ・かーどじゃ!!










「――もし私がイカサマをしてなかったらどうするつもりだ?」










 ……だがしかし、ノエルはカードを開こうとせずにそんな事を言ってきた。


「な、何を言い出すのじゃ?」


 殺気――とは、こういうものを言うのじゃろうか?

 一瞬で室温が下がり、冷たい空気が背中を撫でていくかのような感触がするのである。

 ノエルは静かに佇み、淡々と言葉の続きを述べていく。


「冒険者の世界は信頼と実績が物を言う。その信頼にケチをつけるのだ。それ相応の覚悟はあるんだろうな?」


 外見相応の可愛らしい声。

 しかし、そこには不思議な迫力が籠っており、まるで触れてはならない禁忌に手を出してしまったかのような錯覚に陥る。


「なっ、なんじゃと!?た、確かに悪魔との契約においても信頼と実績が物を言うのじゃが……」


 確かにノエルの言う事にも一理ある。

 ゲームにおいてイカサマをするなど最大の禁忌。

 イカサマの指摘は、相手に対する最大の侮辱でもあるだろう。

 幾度も死線(ババ)を抜いてきたノエルにとってそれは、わらわにとって契約の信頼性を疑われるのと同レベルの問題なのではないだろうか。


「もし私がイカサマしてなかったら、貴様には私が現役の時の流儀に従ってもらうぞ。ピー!をピー!してピー!した上でピー!からのピー!だ。そしてお前は負ける」


「ひぇっ!?そ、そんなの聞いてないのじゃ!」


 そそそそんな、ピー!にピー!するじゃなんて、無理なのじゃ!

 ピー!はまだしも、ピー!だなんて、入らないのじゃ!

 嫌じゃ嫌じゃ、ピー!でピー!になったピー!なんて想像するだけでピー!なのじゃ!


「待て、待つのじゃ!!」


「いいのか!?いいんだな!?いくぞ!?いいな!?いっちゃうぞ!?ほんとにいいんだな!?あー!あー!」


 わらわの制止も聞かず、ノエルはカードに手を掛けてひっくり返そうとする――





 ――その瞬間。










 ――ガチャン!バタンッ!!










 玄関から勢いよくドアが開けられる音が聞こえ、続いてもの凄く綺麗な旋律が耳に入ってきた。


「森の中!佇んだ!異世界のエルエルんち!スーパーねぇ!バスもねぇ!街に出るのに90分!アマゾンに頼みたくともネットもねぇ!ゲームもねぇ!いるのは弟と美少幼女だけ!」


 …………綺麗なのは旋律だけだった。


 しかし、色んな物が混ざり過ぎて出来上がった歌詞は、無駄にクオリティの高いメロディと合わさって、不思議な完成度の高さを見せていた。

 ……とても残念な完成度である。


 現れたのは、ヒイロと良く似た雰囲気を持つ美女で、確か名をムラサキと言ったはずじゃ。


「……お?何この幼女!かわいいじゃない!エルエルいつ分裂したの?」


「するか!」


「なぜ最初に分裂を疑う……」


 突然始まる三人の突飛な会話に、わらわだけ置いてけぼりにされたような感じがする。

 ……なんか、わらわだけ蚊帳の外で、ちょっとだけ寂しい。


「まぁどうでもいいか!あ、あたしお腹すいたー。間食を所望する!ヒロー、なんかなーい?」


 ……むっ、わらわがおやつのために真剣勝負をしているというのに、その横で平気な顔して間食をオーダーするなど許せん、けしからんのじゃ!!


 わらわ達の真剣勝負(ゲーム)などそっちのけで、自分の言いたい事だけを告げていくムラサキに怒りが募り、ヒイロの心臓に伸びる契約の鎖を使って、何かけしかけてやろうかと思っていると、ヒイロの口からとんでもない単語が飛び出した。


「ん~?……あ、そういやハニースイートポテト作ろうと思って準備してたんだ。芳ばしく焼けた異世界産のさつまいもにハチミツたっぷりですよー」


「ベネ!それでいくお!」


 な・ん・じゃ・と!?


『はにぃ~』で『すうぃ~と』な『ぽてぇいとぉ』とな!!

 わらわを魅了してやまぬ、あの琥珀色の糖蜜を使って、お菓子を作ろうというのか!?


 ハチミツ + おかし = 美味いに決まっておろ~が!!


「はい!はい!は〜い!!わらわもそれがいいのじゃ!わらわもハチミツたっぷりがいいのじゃ〜〜!!」


 もはや真剣勝負(ゲーム)なんぞ、どうでもよいわ!

 わらわは、この機を逃さぬよう手を上げて猛アピールを行う。


「ん?ああ、いっぱいあるから食べていいよ」


「やったのじゃぁーー!!」


 すると、ヒイロは事もなげに()()()()()()()()()()()()()()


 手の中から、契約の鎖が消えていく感触。


 ……あっ。


 …………まぁいっか!

 もともと、至高のお菓子を求めていたのじゃから、『はにーすいーとぽてと』が食べられるなら本望じゃ!


「き、消えた!鎖が消えた!やったよー!」


 そして、契約の鎖が消えて喜ぶ人物がもう一人。

 ヒイロは自身から契約の鎖が消えた事を、踊りながら喜んでいる。


 しかし、契約の鎖はわらわ達にしか見えていないため、ノエルとムラサキからは不審者を見るような目を向けられていた。


 ……どんまい!


「お姉ちゃん、とにかくお腹すいたー。ヒロの三分クッキングーに期待!」


「期待なのじゃ!」


 何はともあれ、待ちに待ったおやつタイムじゃ。

『はにーすいーとぽてと』を食べるために、わらわ達はキッチンへと向かうのじゃった。





「ごちそうさまなのじゃ!!」


「はい、お粗末様でした」


 あれからほんの数分で『はにーすいーとぽてと』は出来上がり、わらわのお腹は幸せに満たされていた。


 そして、食後のお茶をずずっと飲んで人心地ついた頃、ムラサキがわらわを指さしながら問いかけてくる。


「んで、結局この幼女はなんなの?」


「よくぞ聞いてくれたのじゃ!わらわこそ、神代の時代より生きる、運命と因果を司る古の大悪魔………の分身じゃ。気軽に、はしらちゃんと呼ぶのじゃぞ!!」


 うむ、第一印象は大事じゃからな。

 どうじゃ、この大悪魔らしい威厳を出しつつも、堅苦しくなりすぎず、かつ、ふれんどりーな印象を演出する完璧な自己紹介は!


「……あーあー知ってる知ってる。この前テレビで見たわそういや。ポン○ッキーズで」


「適当!絶対嘘でしょそれ……」


「……おは○タだったかしら?」


「絶対出てない!っていうか俺らお○スタほとんど見てないから例え出てたとしても知ってるはずないでしょ!?なぜ嘘を貫こうとする!?」




 ……ものすごく、どうでも良さそうに聞き流された。


 しょんぼり。




「…………のじゃぁぁ」


 なんか寂しかったので、もう一度お茶に口を付けて気を紛らわす。


「気にするな。この二人は病気なんだ。重度の」


 すると、ノエルが近くに来てわらわを慰めようとしてくれた。


 実はこの幼女、わらわが思っているよりも大人びているようで、このように意外と気配り上手だったりするのである。

 さっきも、最後に残った『はにーすいーとぽてと』をわらわに取り分けてくれたので、本当に良い子なのじゃ。


 ……うむ、良く出来たお子様なのじゃ。


 そうして、一家の団欒を眺めていると、そろそろ日が暮れる時間である事に気が付く。

 名残惜しくはあるが、もう帰らなくてはいけない時間じゃ。


「……さて、目的も達成した事じゃし、そろそろお暇しようかのぉ」


 わらわは、『姉・LOVE』と書かれた湯呑みの中身を飲み干し、席を立って元の世界に帰る準備をし始めた。


「……自称悪魔とはいえ子供だろう。家はどこだ。仕方ないからアルゼンまでは送ってやろう」


 わらわが席を立ったのを見てノエルがそう申し出るが、わらわは胸を張ってそれが不要である事を告げる。


「ふふん、こう見えてもわらわは、れっきとした大悪魔じゃから心配せずとも大丈夫なのじゃ!……ほれ」


 腕を振って空間を切り裂き、元の世界へと繋がる次元の穴を作り出す。

 この向こうが、わらわの本体が封印されている部屋なので、即帰宅が可能という訳じゃ。


「ばいば〜い、またなのじゃ〜」


 わらわは次元の裂け目にひょいと飛び込むと、そう言ってノエル達に別れの挨拶を告げた。


 なんだかんだ言って結構楽しかったので、機会があればまた一緒に遊びたいものである。

 それがいつになるかは分からないが、その機会が再び訪れる事を願って、わらわは手を振る。


 次第に閉じていく次元の裂け目。

 みんなの顔が見えなくなってから手を振るのを止め、わらわは本体に帰還の報告をする事にした。


 後ろを振り返れば、すぐそこで、運命と因果の大悪魔が寝台の上で横になりながら『疑似ぴーしー』の『きーぼーど』をぴこぴこ叩いているのが見える。

 本体は、わらわの帰還に気が付くと、『ねっとさーふぃん』の手を止め、キラキラした目をこちらに向けながら口を開いた。


「おぉ〜、帰って来たか。……それで、妾へのお土産は何じゃ?」










「あっ…………」










 ま、まずい。

 美味しいお菓子に夢中になるあまり、こっちの世界で待っている本体の事をすっかり忘れていたのじゃ……


 わらわは、期待の眼差しを向ける本体を前に、冷や汗をだらだらと流しながら、この状況を打破する方法を考える。


 そして、あ〜でもないこ〜でもないと考えた結果、あちらの世界から持ち帰った唯一の戦利品を差し出す事を決意した。


「……こ、これで良いか?」


 そう言って、わらわはムラサキから拝借した、黒いブラジャーを取り出した。


「…………これを妾に着けろと?」


「う、うむ。きっと似合うと思うのじゃ!」





「………………」





 本体との間に、痛いほどの沈黙が流れる。


「いらんわぁぁぁぁぁァァァ!!」


 地下空間に響き渡る、悪魔の叫び声。


 その横で、『はにーすいーとぽてと』の事は絶対に黙っておこうと、わらわはそう心に決めたのだった。


【おまけ】

はしら「で、本体は何をやっていたのじゃ?」


御柱「うん?ちょっと『小説家になろう』の作品を漁っておってな、面白いのがあったので、読んでおったのじゃ」


はしら「何という作品じゃ?」


御柱「『あねおれ!~姉とおれの楽しい異世界生活~』という作品じゃ」


はしら「…………」


御柱「本編は完結しておって、あふたーえぴそーどの『あねおれファンディスク』も読んでおったのじゃが、ここしばらくは更新が止まっておっての……妾の勘によると、この作者、新作でも書いているのような気がするのじゃ」


はしら「……何という、権能の無駄遣い」


御柱「良いではないか!妾、読みたいんじゃもん!!」


はしら「(わらわも、また今度こっそりと『あねおれ』を読み直そうかのぉ)」






…………という訳で、今回のお話はこれでお終いです。

私達の悪ノリで作られたコラボ作品でしたが、皆様に楽しんでもらえたなら幸いです。


もしもまだ、【悪徳領主ルドルフの華麗なる日常】や【あねおれ!~姉とおれの楽しい異世界生活~】を読んでいらっしゃらなければ、これを機に是非一度お読み下さいませ。


それではまたどこかで(*´ω`*)ノシ


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藤原ロングウェイ先生書き下ろしの【続・あくおれ!~悪魔?と弟(おれ)の楽しい異世界生活~】はコチラからどうぞ!
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