第29話 「出る前に」
朝方、ハルは手袋を着けた手で手摺りを掴みながら階段を上る。
202と書かれた部屋の前に立ち止まり、そっとインターホンに手を伸ばした。
ピンポーンと音が鳴り、しばらくの沈黙の後、いきなりバタンと扉が開き、強い胸の圧迫感。見ると千夏が胸に抱き付いている。
ハルは両手を千夏の顔面に押し当てると強引にそれを引き剥がした。
しばらく遅れて真秋が出てくると、ハルを見るなり少し怒ったような顔を見せる。
「ハルちゃん、昨日のアレ…」
「あぁ、ドッキリ? ごめんね、やり過ぎた」
「やり過ぎたじゃないよ。冗談でもやっていいことといけないことが━━━」
「はい、もうわかったから」
こっちから言わせれば、何度も下着姿を晒して、いい加減自粛してほしい。
千夏が腕を引っ張るので、もう行こうとしたら去り際に耳元で言われた。
「ハルちゃん、千夏よろしくね」
ハルは笑顔で頷くと、手を振って階段をおりる。
階段をおりたら、先に階段をおりたはずの千夏がいない。非常にまずい。と思ったけど、後ろを見たら背中にべったりくっついていた。いつの間にという感想より、なにやってんのという感想しか出てこない。
「あっれぇ、そこにいるのは能力者のお二人じゃないのぉ?」
そんな嫌な声が聞こえてきたので見てみると、クラスメイトの東野がこっちを指さしている。その隣に同じくクラスメイトの西村の姿も。
「なにやってたのかなぁ?オカマとネクラの能力者同士でイチャラブ?」
「……」
あえて何も答えなかった。何も答えずにただ笑顔で東野の目を見てると、勝手に向こうが後ずさっていく。まだ昨日の効果が続いているようだ。
それでよかったのだが。無視して学校に向かおうと千夏の手を引いたが千夏は動こうとしない。ずっと東野を睨んでいる。
「千夏、行くよ」
そう言ったがその瞬間千夏はハルの声とは無関係に東野に飛び付いて押し倒して、噛み付こうとしたところを西村に腕と肩を掴まれて止めらた。
「何よ… 調子に乗るな!」
東野はそう言うとすぐに立ち上がって立ち上がると千夏の頬をグーで殴った。
するとハルは千夏の前に出て、東野をカッと睨む。そして、クルリと踵を返して思いきり千夏の頬をグーで殴った。千夏は飛ばされて、地面に倒れる。
「能力者がその凶暴性を露にして、一般人におそいかかった。どう思う?」
ハルが背中を向けたまま二人にそう問と、西村は東野の肩を叩いた。
「行くぞ」
「はぁ? なんでよ? この生意気な━━━」
「いいから行く」
東野はムスゥと不満そうな顔をするものの、西村の後ろについていった。
それを見送ったハルは、地面に倒れてる千夏に声をかける。
「千夏… 行く…よ?」
千夏はコンクリートの上でいびきをかいて寝ている。
━━━めんどくさ
「千夏、起きて」
そう言って頬をペチペチ叩くと、千夏はおもむろに体をおこし、辺りをキョロキョロ見回してハルと目を合わせると、ハルに寄りかかるようにまた眠りについた。
「千夏…!!」
置いていこうか。いやそれよりも、今がチャンスだ。
━━━チャンスって、何の…?
自分の考えてることがよくわからない。今まで思ったこともない考えが頭を過る。
「しょーがない…」
おぶって連れていこうとでもして千夏の手に触れると、その瞬間千夏がパチリと目をさました。そしていきなりハルの青髪を両手でわしづかみにして、額を額にぶつけた。
「いっ…… 何すんの」
行動が意味不明すぎて怒る気も起きない。
千夏は髪を掴んだまま少しボーッとしてたが、すぐに手を放して立ち上り、今度はふらふらと歩き始めた。いちおう、方向は合っている。
時間はまだあるし、千夏が自分で学校に行けるか試そうとでも思って、千夏が1歩歩くたびに自分も1歩ずつ足を進めてみた。
10分くらい歩いてみたが、全然前に進まない。7歩くらい歩くたびに、千夏はこっちを見つめながらしばらくボーっとしだすのだ。
そろそろ時間もないので、ハルは千夏の手を引いてまっすぐ学校に向かうのであった。




