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サイコヘイトの能力者  作者:
新生活
29/42

第28話 「えろじじい」

 コーヒーの入った湯飲みを割れんがごとく男の座る机に叩き付ける。飛び散った液体が男の上着にかかる。

 

 

 「どうした?怒ってるのか?」

 

 

 ヘラヘラ笑ってる男に対して、ハルは上から見下す。かなり怒ってるみたいだ。

 でも、怒っても仕方ないとでも言うように息を吐くと、男の向かいにどすんと腰を下ろす。

 男のにやけ顔を見るのにもあきあきしたので、テレビをつけてそちらに目線を移しながら、ついでのように話を切り出した。

 

 

 「なにしに来たんですか?」

 

 

 ハルがそう言うと、男は赤い無精ひげを撫でながらこう答えた。

 

 

 「経過を見に来た」

 

 

 ハルは耳と目だけを傾け、何も言わない。

 しばらくお互い無言だったが、男が更に口を開いた。

 

 

 「いちおう、ちゃんと自己紹介しておこうか。俺はエサウ。独立行動隊の主に監察、調査、密偵担当だ」

 

 

 それでもハルは頬杖をついて芋けんぴを貪り食いながらテレビを見ている。でも耳だけは聞いてるようで、エサウの話を聞きながら微かに首を動かしている。

 しばらくボリボリと芋けんぴを食う音が響いていたが、エサウが聞いてるかと言うので、ハルはバンと机を叩いて立ち上がった。少し顔を赤らめながら白い息をハァと吐くと、エサウの方をまじまじと見つめ言った。

 

 

 「独立隊のお色気担当、今日も可愛い誰より可憐な男の娘、その名も安土春だよ、よろしくね」

 

 

 この後の沈黙は、今までのどの沈黙よりも重かったことは言うまでもない。

 この無駄に高い声のトーンも、下唇に指をあてて顎を引く動作もかなり久しぶりにやった。

 数年前までは毎日のように鏡の前でやっていたことだが、今となるとすごくはずかしい。それに加えてこの沈黙だ。ハルの顔はみるみる赤くなり、かすれるような声で「ぁぁぁ」と呻いている。

 

 

 「そ、そうか… お前さんが例のあれだ、ぶりっ子ってやつか。うん」

 

 

 そのとき、またハルがバンと机を叩いた。そして、今までの空気を全部なかったことにするかのように声を荒げて言った。

 

 

 「そんなことより!!道端で人を殺すなんてどうかしてます!!非常識です!!」

 

 「そうか?安土春はなかなかの強者とセヴァから聞いたんで、試したくなったもんで。それに、お前にそれを言う資格はない」

 

 

 エサウの悪びれる様子のない口調にとてもイライラので、またハルそっぽ向いて椅子に座り込んだ。

 

 

 「そんで、さっきの女は大丈夫なのか?」

 

 「真秋のこと?いちおうドッキリだって伝えておいたけど」

 

 「なんだそれ?厳しい言い訳だな」

 

 「って、あんたのせいでしょうが。あなたが空気も読まずに殺すから」

 

 

 ハルはスマホを手に取ると、エサウの隣に立ってカメラを起動させた。

 

 

 「一緒に仲良さそうな写真を撮って送れば信憑性も上がるでしょ」

 

 「俺とつーしょっとか?照れるな」

 

 「そう。くれぐれも“なかよさそーに”ね。よ・さ・そ・う・に」

 

 「よさそうにか…」

 

 

 するといきなり胸を揉まれた。

 ハルは赤面して舌打ちすると、エサウのなか指を反対方向にねじ曲げた。

 

 

 「エロジジイ… そーゆー意味じゃない」

 

 「なんだ?男が男の胸板触って何か問題か?」

 

 

 ハルは頭を押さえてため息をつく。

 

 

 「次変なことしたらお前の胸も抉るから」

 

 

 

 そんなこんなで写真を送った後、本題に入った。

 

 

 「本題に入ろうか。経過は?」

 

 「経過?ここに来てまだ1週間。何を報告するの?」

 

 「そうだな…まずこの辺に住んでる能力者についてだ」

 

 「能力者ねぇ」

 

 

 ハルはマグカップをひと口だけ口に運び、また机に置いた。

 

 

 「僕が出会った能力者は3人。でも、取り上げて報告するとすれば弥生千夏かな。あの子はすごく興味深い」

 

 「ふーん、セヴァの言ってた男勝りの暴虐少女か」

 

 「セヴァが?」

 

 

 これは初耳だ。セヴァが数年前に地球に訪れていたことは知っていたが、千夏と会っていたことは初耳だ。

 

 

 「…セヴァが何で千夏を知ってるのか知らないけど、今の千夏はそんな感じは微塵も感じ取れない。どっちかと言うと真逆かな」

 

 「そうか。その弥生千夏の話は長くなりそうな感じか?そうなら次の話題に切り替えてもいいか?」

 

 

 自分で聞いておいてなんか腹立つ。でもあんまり千夏のことを他人には話したくないからちょうどいいか。

 

 

 「えーと、俺達独立隊の目的は地球の調査とかをするだけだったが、目的が変わった。まぁ変わったと言っても、下地から実行に移るだけで根本的な目的は変わらない」

 

 「と言うと?」

 

 

 とか聞いてみたりしたけど何となくわかる。

 

 

 「目的は地球侵略だ」

 

 「侵略?なんか馬鹿っぽい言い方」

 

 

 エサウは首を縦に振ると、マグカップのコーヒーを全部飲みほした。

 

 

 「まぁ要するに、オストが地球に領土を広げるための下地、工作をすればいい」

 

 「領土拡大?ブイヴァルから地球までどうやって兵を送るの?」

 

 「オストとファータの技術力をなめないこった。兵を送る輸送船くらい秘密裏に完成してる」

 

 「そうなの。国も張り切ってるねぇ」

 

 

 ハルは芋けんぴをつまみながらどうでもよさそうな締まりのない返事をした。 

 

 

 「そんで、領土拡大するにあたって最優先事項だが━━━」

 

 「わかってるよ。セトラルトでしょ?どうするの?」

 

 

 するとエサウはフッと笑うと席を立った。

 

 

 「そこまで理解してるならいい。そのうちわかるだろ」

 

 

 そう言って部屋をきょろきょろと見回しはじめた。

 

 

 「なにやってるの?」

 

 「いんや、なかなかいい部屋だな」

 

 「まさか、居候するつもりじゃないよね?」

 

 

 エサウは勝手に冷蔵庫の中身を見ながら答えた。

 

 

 「ああ、しばらくな」

 

 

 

 で、数十秒後にはエサウは玄関の外に追い出されていた。

 

 「あんたみたいな変態と一緒に寝泊まりできるか」

 

 と、ハルは最後に言い残した。

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